ありきたりな青春

MaCy

日常

 「今週の日曜どっか行こうよ!」


 そう無邪気に話しかけてきたのは隣の席に座る学校指定の制服を着た女子だ。髪はセミロングといったところか、校則で染髪や化粧は禁止されているので非常に清楚な女子高生だ。背丈は150cm前後だったはずだ、制服を着ていなければ小学生に間違えかねられないだろう。


 そして、幼稚園からの幼馴染であり小学校から俺の彼女だ。


 「そうだなぁ、久々に海でも行くか?」

 「いいね!最近熱くなってきたから絶対気持ちいいよね!」

 どうやら本当に楽しみなようだ、目に見えるほどテンションが上がっている。


 そんな風に話していると、

 「あー熱いわー前のバカップルからの熱気が熱すぎて死にそうだわー」

 と嫌味を存分に染み込ませた言葉が飛んでくる。

 「ごめんねアユミちゃん、なんか嫌な思いさせちゃった?」

 「そしてこの天然である。」

 いつものことなので呆れるどころか一周回ってかわいく見え始めた自分に嫌気をさしながらもバカップルにはダメージを与えられない自分にうんざりしていた。


 「歩美そんなにしんどいなら保健室にでも行ったらどうだ?」

 「あんた絶対分かっていってるでしょ!?」

 「ナンノコトカサッパリワカリマセン。」

 「ったく、そういうのは二人の時間にやってよね。ここは勉強する場所なんだから。」

 「俺より期末の点数悪かった奴が何言ってんだ。」

 歩美が急に固まった、どうやら完全に論破してしまったようだ。


 「もーシン君!アユミちゃんをこれ以上いじめないで!」

 「って言われたら引くしかねぇよな、ユイに感謝しろよアユミ?」

 「なんか釈然としないけどやけどしたくないからやめとくわ。」

 そういってアユミは落胆しながら教室を出て行った。


 「そういえば次の授業の準備しなくていいのか?」

 「ほわ?」

 「次移動教室だろ?三組って。」

 「……あーーー!そうだった!ってあと一分だ!じゃあまたあとでね!」

 そういって会釈する間もなく走り去ってしまった。

 「走ったら転ぶぞ~、ったく。」

 と、周りの目をまったく気にしないこのバカップル。当然反感を買っているのだが……

 「あのバカップルは……しょうがねぇなぁ。」

 「からかっても彼女は天然で意味が伝わらねぇし、彼氏のほうはわかっててとぼけてるからつかめないし……」

 と諦め半分、羨ましさ半分というのが現状である。



 「わー!すっごいきれいだよ!シン君も見て見て!」

 「おーほんとにきれいだな!」

 そういって眺める海は夏の太陽が地球に向かって降り注ぐ光をキラキラと反射し、俺たちを煌々こうこうと照らしていた。海の中まで見えるほど透明な海とはいえ、こうもまぶしいと水の中までは見えないようだ。


 「ねぇねぇもう入ろうよ!」

 待ちきれなかったようで俺が海に見とれているうちにすでに水着に着替えたようだ、というより服の下にすでに着ていたようだ。このあたりは地元の人でも一部しか知らないので今日は貸し切りのようなので俺もさっそく水着姿になり一緒に透き通った海に飛び込んでいった。

 

 ……こうしていつも休みの日は一緒にいるのに飽きないよなぁ。と心の中では考えても、目の前で無邪気に遊んでいる高校生とは思えない彼女を見つめていると

いつまでも一緒にいたいという気持ちが沸き上がってくるのだ。ユイとずっと一緒にいたい、ユイとどこまでも一緒に行きたい、ユイと見たことのない世界を見に行きたい、だから。


 「いやー楽しかったねー!夕日もきれいだね。」

 夕日に照らされて橙色に染まるユイを見つめながら、

 「そうだね。」 

 と返した。そして、

 「なぁユイ、花火でもしないか?」

 持ってきた花火を取りだす。

 「え!やるやる!」

 またユイの顔に笑顔が灯る。

 夕日に照らされた橙色は徐々に夜色に染まっていく。

 そこには蝋燭ろうそくが二人を照らすばかりだった。

 

 「ねぇシン君、私ねシン君のこと好きだよ。」

 赤く染まった顔は赤らめたのか、花火の色か、俺にはわからなかった。

 「俺も好きだ。」

 少しの沈黙、伝えたかった思いを伝えるには眩しすぎた。その刹那、花火の灯は暗闇に変わっていく。

 俺は気付けばユイを抱きしめ耳元で囁いた。

 その時、俺は何を言ったのかはもはや覚えてないのだ。

 ユイがほのかに熱を帯び、肩もとに冷たくて熱いものが流れるのを静かに噛みしめていたことだけで精一杯だったのだから。



 「ねぇシン君。」

 「なに?」

 「あたしのこと好き?」

 「……うん。」

 「ふふっ、変わらないね。」

 笑ったユイは大人びた表情で笑った。


 「そうだ!ここで一緒にした花火、覚えてる?」

 「……忘れた。」

 「あー、また嘘ついた!」

 そういってふくれっ面で怒る。何一つ変わらぬ笑顔だ。

 「ほんとは覚えてる。」

 「良かった!じゃ今からやろっか。」

 

 そう、変わらぬ二人。

 変わったのは二人の手元で花火に照らされて光る二対の証だけだ。

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ありきたりな青春 MaCy @Makki_cas20

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