少女の名は泥の魔女デトラ 後編
俺は急いで部屋の扉を探す、すると大量に積まれた本の隙間から少し光が射しているのが見えた。
「―――もしかしたら」
両手でできるだけの本を運び、横に横にと移動していくとやはり予想通り。小さな窓から光が漏れている赤いドアがあった。
「けどなぜドアの前に大量の本を―――時間を稼ぐためか?」
自称魔女をみるがまだのびているようだし大丈夫そうだ、けどだからといってゆっくりしてはいけない。
俺は急いでドアを開ける、するとそこは廊下のような場所だった。
赤いドアの目の前は廊下を挟んで下に降りれるであろう階段があった。その廊下は左へと続いており、赤いドアのすぐ隣のドアは緑色、その緑色のドアの反対側は青色のドア、廊下の一番奥には窓があった。おそらくそこから光が漏れていたのだろう。
けど今はそんなことどうでもいい。
「とりあえず階段を下降りれば問題なさそうだ」
目の前にある廊下を飛び越えて階段に足を付き、ダッシュで階段を下りる。するとそこにはリビングのような部屋があった。
部屋の天井にはシャンデリア、階段の下のスペースは本棚になっておりそこにも大量の本が置かれている。かなり高級そうなソファーやらかなり高級そうなテーブルやらがある。だが・・・
「うわっ!なんだよこの大量の埃は!?」
いたるところホコリだらけ、ホコリホコリホコリ・・・頭がおかしくなりそうだ。
リビングの床に足がつくと同時に埃が舞い散るほど埃が溜まっている。他にも床をよく見ると泥だらけになっている。誰も掃除してないのかよ。
「い、いやそれより早く外に出るもしくは下に続く階段を―――」
その直後、ニ階にある赤い扉の奥からそれなりに硬いであろう物がはじけ飛ぶような音がした。
「も、もしかして―――」
「この―――クソ泥人形がああああああああああああああああああ!!!!!」
「うをッ!!」
―――まずい、起きたのか!?
「お前にはどキツイオシオキが必要なようだな!!もう謝っても遅いぞ!!!精々泣きわめいて助けを乞うがいい!!!!」
―――アカン
俺は埃が舞い散るリビングで周りを目を凝らして見渡す。本当は動きまわってドアを調べたいのだが、歩きまわって埃が舞い上がりすぎると視認できる距離が極端に狭くなってしまうだろう。急いでいる時こそ冷静にならなければならない。
「この光は!」
見つけた、さっきと同じようにドアの窓から光がこぼれている。
俺は急いでその扉に駆け寄ろうとするがそれと同時に歩いたことにより視認できる距離がますます短くなる。だけどもう問題はない、俺はそのドアのドアノブであろう物をつかむことができた。が・・・
「―――鍵とか必要じゃないよな?」
最悪のケースを最悪な状態で思いついてしまった。
最近有名なフリーホラーゲームをやった。主人公は洋館に閉じ込められてしまいそこに住まう怪物から逃げながら洋館から脱出するというゲームだ。とても面白く、遊んだ時の記憶は今でもハッキリと残っていた。
夢っていうのはその見る人の記憶が影響されることがある・・・もし鍵が必要だとしたら詰んでるんじゃないのか・・・?
「おい、そっちにい―――なんだこのホコリは!?」
自称魔女の声が聞こえる。今丁度階段の前あたりにいるのだろう。
もう後戻りはできない。
「捕まったら目が覚めたりするのかもしれないのか?けど・・・」
何故かはわからないが人間の本能というべきか野生の本能というべきか、あの自称魔女には絶対捕まってはいけないような気がした。どキツイお仕置きが怖いのか?それは違う、説明できない理由も根拠もない恐怖がその可能性を全力で否定していた。
「―――どうせ戻れない、行くしかない」
最悪な思いつきを頭の中で否定してドアノブを回す。すると手ごたえがあった。
全く動かしていなかったのだろうか、ドアがやけに重かった。俺は力を込めてドアを開いていく。
ドアの隙間から漏れる光はゆっくりと大きくなっていき、それと同時に外から涼しい風が舞い込んできた。
「やった!やったぞ!俺はクリアできた!」
完全にドアが開き俺はダッシュで外に飛び出た。
そこは少広い空間があった。真っ暗に閉め切った部屋、埃だらけのリビングとは違い、晴々した空と綺麗な空気がある。そんな晴れやかになれる環境のおかげで達成感が増した。
しばらくしたら夢からさめるでしょ。それなのに。
「―――あれ?」
場所も変わらない、何も変化がない―――何も起きないのだ。
「そ、そんな」
俺は慌てて目を凝らし周囲を見渡すが、家の前にはどこにも道などなかった。それどころか木と雑草が生い茂っている。
「おいおい早く夢から覚めてくれよ!」
「夢がなんだって―――?」
その声は怒りで震えた声だった、そしてそれと同時に。
「お、おわあああああああ!!!!」
自分の情けない声と同時に突然視点が低くなる。何がおこったか理解できない。
―――もしかして魔法で体を小さくされたのか!?
いくら体を動かしても動けない。四方八方から何かに押されているような気がするが・・・俺の首から下は土の中にあるのか?こいつ本当に魔女か・・・
「もう逃がさないぞ!絶対にだ!」
後ろ・・・というよりも家のほうから足音が聞こえた。強く砂を踏みにじる力のこもった足音だ。
―――終わった
ジャリジャリと足音を鳴らしながら移動し俺の目の前で立ち止った。
立っているのはお察しの通り―――自称魔女だった。
「お前よくもやってくれたな!」
さっきまで俺よりも下にあった自信に満ちていた顔が今は怒っている顔になり俺よりも上にある。
いや、そんなことよりもだ。
「おい!なんで悪夢から目が覚めないんだ!」
「おいおい―――まだ言っているのか?」
自称魔女はしゃがみ、俺の顔を見つめる。
少ししてから大きく息を吸い―――大声で怒鳴った。
「だーかーら!!!!!お前は死んだ!!!!!泥人形の体に入った!!!!!私がお前の主の魔女デトラ様!!!!!分かったか!?!?」
「わかんねえよ!!!!!」
「わかれよ!!!!!!」
二人のどなり声はデネブエラの森全体に響いた。
「―――お前夢だとか何とか言っているが、もしかして自分が殺されたことを夢だと思い込んでいるのか?」
いやいや違う。
あれは夢だった、多分間違いない。
「おい、視線をそらすな」
そういうと自称魔女は俺の頭を両腕で挟んで真っすぐ前を見るように動かす。
「―――まあいい、お前の中でまだ整理できてない事があるみたいだ」
そういうと同時に自称魔女は両手を俺の頭から離し、立ちあがる。
「急ぐ事はない、時間はまだある」
自称魔女が右手を上げると同時に俺の体が地面からニョキニョキと出てきた。
「お、おい―――」
俺は自称魔女に声をかけようとしたがやめた。何を言いたかったんだろうか、言葉が喉で詰まってしまった。
「どキツイオシオキをしながらでも考えるといい」
「ヒェッ」
すっかり忘れていた、唐突に殴られて目が覚めるような気分だ。
「ど・・・どキツイお仕置きって一体どんな・・・」
「私の服を洗え」
「えっ」
それだけなのか?と、俺はあっけにとられた。
どキツイお仕置きっているからもっとこう爪の間に針を刺していくぐらいのお仕置きかと・・・。
「あとリビングと・・・そうだな、本の埃も全部取ってくれ」
「おいおいおいまてまてまて!リビングってあの埃まみれの部屋か!?」
そう言うと自称魔女が呆れた顔をした。
「おいおいお前はオシオキの意味も知らないほど低能じゃないよな?オシオキってあれだぞ、嫌なことをさせられるんだぞ!」
「い、やそれは勿論―――」
「しかもどキツイだぞ!お前は30㎝も身長に差がある主を腕で押し飛ばしたんだぞ!」
そ、そう言われてみると確かに申し訳ないことをし―――いやでも主ヅラする嫌な奴だしなー。
けど、かといってここで謝っておけばもし万が一ここが夢じゃなく、別の異世界で最近話題の異世界転生をしたとして、戻れない時に自称魔女との関係を良くしておけばとりあえず身の安全を確保できるだろう。
「―――申し訳ございません。我が主、泥の自称魔女デトラ様」
「おい今私をバカにしなかったか?」
「数々のご無礼をお許しください、今からこの私の全ては我が主、泥の自称魔女デトラ様の物です」
「おい、今バカにしただろ」
「思う存分私をコキ使ってください。我が主、泥の自称魔女デトラ様」
「―――もういい。なんだかお前にかまっている私がバカみたいだ」
「あっごめん。本音でてた」
俺は夢の中に来ても人に対しての正直な気持ちを隠すことができないようだ。
「お前隠す気ないだろ!?もいいいさっさと作業しにいけ!!」
そう言うと自称魔女はまたマークが描かれた右手の人さし指を立てて上に振った。それと同時に大量の何かが入っている竹でできているであろう籠が地面から生えている触手のような物がひっかけて運ばれてくる。
―――あの触手・・・まさか土でできているのか?
「よし、まずはこれ全部洗え」
「これって・・・ヒエッ!?」
俺はその籠の中を見て驚愕する。声にならない悲鳴を挙げる。
「おいおい・・・なんだよこれは」
土でできた触手に引っかかていた籠の中には・・・泥でドロドロ、何故か赤や青や紫に光る液体でベタベタになった黒い布とスパッツ―――
「これお前の服じゃねえか!!これ全部洗ってないのか!?」
「仕方がないだろう、ずっと部屋で実験していたんだからな」
いや、でもこの籠いっぱいに服を今まで洗わずため込むには量が多すぎる。
籠といっても俺の腰ほどまでの大きさじゃない。直径と高さが俺の身長ほどもある巨大な籠だ。そこに今まで洗っていなかった自称魔女の服がギュウギュウに詰まっている。汚すぎる。
「家の裏に川が流れてある。それで洗ってこい」
そう言うと自称魔女は家に向かって歩き出した。
「あと部屋にを掃除するための道具を玄関に置いておこう」
「おい、家に帰って何をするんだ?」
「昼寝だ、私は夜中ずっと研究と実験を繰り返しているからな」
「体に悪い生活してんな・・・」
そう俺が言った直後、自称魔女は歩いていた足を止めて急に立ちどまった。
えっ何?また何か反感買っってしまったのか?これ以上仕事仕事増やしたくねえ・・・。
「―――後」
「へ、へいナンデショウ」
次は何の仕事が増えるのだろうか、もしここ一帯の草を抜けと言われたら死ねる自信がある。
自称魔女は立ち止ったまた5秒ほど停止していたが、しばらくしてからこちらに振りかえり口を動かした。
「―――これからはワタシをデトラと呼んでくれ」
「お、おう・・・?」
前からくると予想して構えてたのにいきなり別方向から石が飛んできたような感覚。どうした?お前自身がため込んでいた服のキツイ匂いで頭でもやられたのか?
「あと、今お前のこの世界での名前を考えた。泥人形じゃ弱そうだし、私のシモベにしては格好が悪いからな」
「な、名前?」
「セカイとの繋がりを保つためには必要不可欠なものだ。キヒヒヒ―――大事にしろよ」
ニヤリと笑いながら言うとデトラは大きく息を吸った。
セカイとの繋がりを保つ・・・そんなに重大なことなのか?
「泥魔女デトラの名において我がシモベに命名する、その名は―――泥兵!!」
「えっ・・・ど、泥兵?」
「私のシモベであり泥人形であり兵士でもある、これ以上にピッタリしない名前はないだろう!」
あれ、かっこいい名前は・・・?
「これで問題はないだろう」
「い、いやいやいやちょっおま」
「じゃあ私は寝る、夜の9時に起こしてくれよ」
そういうとデトラはそのまま埃だらけの家の中に入って行った。
そして俺のこのセカイでの名前は泥兵になった。
「―――なんだこれ」
その後、ドロヘイはまるで魂でも抜けたかのように3分間ほど籠を見つめていた。
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