”魔法”は呪いか それとも運命か
ただ今丁度昼間ぐらいだろうか。太陽の下にある森の中で泥の魔女率いる”集落行こうチーム”はただただ方向を変えずにずっと真っすぐに歩いていた。
「―――なかなか遠いな、もう1時間以上歩いているような」
どこを見ても前のような道はなく、ひたすら森森森―――景色も変わらない同じ場所を歩いているようで全く前に進んでいないような気がして恐怖感を感じていた。
「デトラさんの家をでてから1時間30分くらいは経過してるんじゃないでしょうか?」
「えぇ・・・なあ泥鴉、ここから集落まであと何kmあるんだ?」
「あと15kmくらいじゃねーの?」
足と荷物をロープでくくりつけて空中を飛び回っている泥鴉。どう考えてもその体に子供一人入れる実験機材の入った箱は重すぎて飛べないような気がするのだが・・・。
「また一時間30分歩くのか・・・」
俺はまた同じ距離と時間を歩くことが分かると落胆で両肩を下げる。ただでさえ重い荷物持ってんのに―――
「ホラホラ立ち止まらずとっとと歩け!置いていくぞ?」
「ホウキに乗って空飛んでる奴に言われたかねーよ!?」
「それはただの文句だ。ほら、ワタシもちゃんと荷物を持っているだろ?」
デトラも一応荷物は持っているが、それはデトラ自信が担ぐのではなくホウキに引っ掛けるという方法だった。別に疲れることもなく、普通に空を飛んでいる。
「ホウキに乗れるデトラさんや空を飛べるドロカラスさんがうらやましいです。僕も人生で一回でもいいから自由に空を飛びまわりたいな~」
「ほほう、ホウキに興味があるなら教えてやろうか?魔力があれば誰でも乗れるぞ」
「えっ、いいんですか!?」
「やめとけ、ちょっとしたことでキレてすぐに泥の棒を―――」
次の瞬間デトラは俺の方めがけて泥の棒をぶん投げるが、俺はそれを簡単に避けた。ここにきて1週間以上経過して毎日体のどこかにぶっ刺されて慣れていた俺には遅すぎるくらいだった。
「ファーアアアア!ざっまあ自称魔女!!お前の会心の一撃が外れた気分はどう―――」
ズドッ
「えっ」
避けたハズなのに何故か何かに刺さった音と同時に尻あたりに痛みが走る。
俺はおそるおそる視線をケツに向けた、するとそこには地面から生えてきていた泥の棒が俺のケツに刺さっていた。
「ああああああああああああああ!ちょ、ちょっと抜いて!!誰か俺に刺さった棒抜いて!!!」
「うわぁ・・・・・」
「ワタシに勝てると思っているのか?その考えが甘いんだよ!キヒヒヒヒ!!」
「い、いやわかったから!甘いのはわかったから!!抜いて!!!一生のお願い、今度オムライス沢山作ってあげるから!!!!あああああああああああああああああ!!!!!」
俺の絶叫はまたデネブエラの森全体に響き渡った。
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「だ―――大丈夫ですか?泥兵さん」
「いや、大丈夫じゃない。俺のケツの穴はいまだガバガバだ」
俺のお尻できた穴は時間がは徐々に小さくなっているがそれでもまだ目で確認できるほどの穴が空いていた。直径5cmの棒で刺されたら誰でもそうなる。
「今更だ。オマエは大分前からそうだったんだろ」
「おい自称魔女今誰のことホモって言った!?」
「兄ちゃんも姉ちゃんも元気だねぇ」
泥鴉は暴れている俺達を横目で見ながら集落まであとどれだけの距離があるのか確認していた。
「あと1時間くらいだな」
ベルティーナは意外そうな顔をした。
「泥兵さんのお尻に棒が刺さってから50分くらい経った気がしましたけどまだ時間かかりますね」
「まあ―――兄ちゃんと姉ちゃんがスピード落としているからな」
「あぁ・・・そうですね」
ベルティーナは歩きながら後ろを振り返ると、デトラと泥兵がまだ口喧嘩していたのだ。
「あの―――泥鴉さん。泥鴉さんと泥兵さんとデトラさんって今何歳くらいなんですか?」
「あー、兄ちゃんは多分18歳、姉ちゃんは500歳以上、オレッチは年齢秘密だな」
「あはは、泥兵さんはそうかもしれませんがデトラさんの歳でそんなわかりやすい嘘つかないでくださいよー。というか泥鴉さん年齢秘密なんですね」
「まあ、普通はそうなるよなぁ」
冗談だと思っているベルティーナにそれは当然の反応だと泥鴉は納得する。逆に突然言われて”そっかぁ・・・”と信じれる方がおかしいだろう。そう考えると兄ちゃん―――泥兵はこのセカイに慣れすぎているような気がしなくもない。
「・・・おいドロガラス、あとどれくらいで集落につくんだ?」
喧嘩は終わったのか、さっきまで泥鴉達より後ろにいたデトラはいつのまにか隣に並んで歩いていた。
「ああ、あと1時間―――あれ、姉ちゃんなんで歩いてるんだ?あと兄ちゃんは?」
「ああ、ドロヘイならそこにいるぞ」
デトラが指を指した方向にはホウキが空中を浮いていたがそれだけではなかった。そこには体中に棒を刺されて針ネズミのようになった泥兵がぶらさがっていたのだ。
「ぼ、棒を―――!誰か体の棒おおおおおおおお!!」
体中から湧きあがる痛みと悲鳴に耐えながら体をゆらす。しかし誰も俺のことを心配していないようだ。
「軽いホラーみたいになってんな」
「ワタシに逆らった罰だ、これぐらい痛めつけておかないとな!キヒヒヒヒ!!」
「しかし本当に便利な魔法ですね。攻撃力もあるし移動もできるなんて、僕には千里眼しかないですからねー・・・」
ベルティーナがその話をした時、俺は家にいた時の会話を思い出していた。
ベルティーナはさっきまでいた家で自ら千里眼を使えると言い実際にやってみせてくれた。その際に俺は少し不思議に思ったことがあり、色々な気になったことを他の奴らから聞いた。その色々なことっていうのはこのセカイにおける魔法の概念だ。
まずこのセカイでは魔法が使える人と使えない人が分かれている、それはまあよくある。というか俺が知ってるラノベでもよくそんな設定があった。だけどそのラノベの魔法のように、才能があればどんな魔法でも使えるというワケでもなく、このセカイの魔法は俺のセカイでいう超能力に近いことが分かった。
魔法が使えるようになることを”覚醒”というらしく、使えるようになった魔法はその人にしか使えない魔法らしいのだ。つまり能力が同じ人はいないらしい。その能力が覚醒した女を魔女、男を男魔という。
いつから魔法が覚醒し、その印として右手にの甲にデトラやベルティーナにもあるマークが浮かび上がるするかはわからないし、それは人それぞれであるらしい。
そしてその魔法には属性が存在し、それが7つもあることがわかった。”烈火”水流”自然”闇”光”祝福”雷”虚空”―――それがこのセカイに存在していた魔法であり、ベルティーナは虚空だったらしいのだが―――何故かそこには泥の魔女デトラが使う”泥”や”土”がないことがわかった。
デトラ本人はそれが何故か知らなかったし、いやまずデトラとベルティーナは自分以外の魔女は初めて見るというほどだった。おそらく泥の魔女、そして他の魔女自体とてもレアなものだろう。
魔女は場所によっては神と言われてあがめられるという、だが別の場所に行けば悪魔やなんやらと言われたり、他にも国同士の魔女の奪い合いがあったりで散々に周囲の人間に引きずりまわされて一生を終える魔女も少くないらしい。中には魔女をどうにかして人工的に生み出そうとするための実験を奴隷を使って行っていた国もあったらしい。
だから人によってはは魔法が使える魔女を”呪い”という人もいるそうだ。
俺はその話を聞いた後、ベルティーナとデトラにいつから魔法が覚醒したのか気になら聞こうとしたが―――やめておいた。魔女の過去にはあまり触れてはいけないような気がしたからだ。
そんなことを思い出していた時、突然誰かの悲鳴が森中に響いた。
全員その場で立ち止り、周囲を見渡した。
「おい、今誰か叫んだか?」
「いやオレッチたちの声じゃないだろ。前の方から聞こえたみたいだし」
「ん?おいどうしたベルティーナ?」
デトラはベルティーナが歩いていた方向を見つめる。一点だけをずっと見ているベルティーナがいた。
「あの声は・・・まさか・・・」
ベルティーナはそう言った瞬間、顔色を変えて前へ全速力で走りだした。馬の足で走りだすその加速力は予想以上に早く一瞬で遠くまで走っていってしまった。
「おいおい穏やかじゃねーな・・・」
すると何故かデトラは走っていくベルティーナを見つめてニヤリと笑った。
「キヒヒヒヒ!面白そうなものが見れそうな予感がする。ワタシ達も行くぞ!!」
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