森の謎の虫&謎の魔獣にご用心 前編

「―――ふーむ、なるほどな」


 ソファーに座った状態で右を向く。そこにはデトラの命令で泥鴉に後手縛りをされ、口に縄を巻きつけられて目隠しされ耳にコルクを詰められた半獣人のベルティーナがもがいていた。


「ンーー!ンーー!」


「―――集落の人たち全員で謎の魔獣を狩ろうとするも、逆にやられてベルティーナ以外が全滅。そんな中滝から落ちて一人生き残ったと・・・何度刺しても何度切っても何度弓矢を打ち込んでも死なない魔獣か」


「そう聞いた、ベルっちも色々大変だったらしい」


「えっ、ベルっち?」


「新しいベルティーナのあだ名だ!ベルティーナって長いしめんどくせ―からな」


「ほーん―――なるほどね」


 どうやら俺が回復薬を作るために外に出たその直後にデトラとベルティーナが起きて何があったのか会話したらしい。

 しかし―――仲間がバラバラにされて死んでいるのにもかかわらず出会ったばかりの他人にこんなに好意を寄せることってできるのか?


「―――えっと、それじゃあ何故デトラはあんなに不機嫌な顔していたんだ?」


「ナゼって・・・当たり前だろ!?」


 そういうとデトラは突然立ち上がりそれと同時に両手で目の前のテーブルを力一杯に叩いた。そのせいで木の軋む音がリビングに響き渡る。


「おいドロヘイ、この前ワタシはオマエに信頼を示すための儀式をやったよな?」


「え、あぁ・・・うん」


 突然信頼の儀式を行うと言われてデトラに近づいた結果、口元にキスをされたことがあった。あれを思い出すと恥ずかしくなるが・・・。


「けど、それが何か関係あるのか?」


「大いにある!!」


 そういってまたテーブルを叩き、それと同時にまたテーブルが軋む音が響いた。

 かなり力をこめて叩いたせいか、手が当たった場所が少しへっこんでいるような気がする。


「オマエは間接接吻を知っているか?」


「か、かんせつせっぷん?間接キスのことか?」


「ワタシはドロヘイに信頼を示すためにやったのだ。しかし―――」


 そう言うとデトラは縛られたベルティーナを見つめる。まだ諦めていないのか、それとも疲れていないのかベルティーナはずっとウネウネと動いている。


「ワタシが接吻した部分に上からこの半獣―――ベルティーナは接吻したんだぞ!?これは間接接吻=接吻というほかない、だから私はこの半獣人のことをどうにかして信頼しなければならないんだぞ!」


「えぇ・・・あほくさ・・・嫌なら破棄したら駄目なのか?」


「魔女は契約を示した信頼を絶対に破ってはならない―――そう母さんと約束したんだ」


「母さんとの約束ねぇ・・・よくわからないが魔女って色々大変なんだな」


「―――っとさっきまで考えていたんだがそれが変わった」


「は?」


「あれ、姉ちゃんそうなの?」


「キヒヒヒヒ―――喜べオマエら、次やることが見つかったぞ」


 そう言うとデトラはポケットの中からペトリ皿と何かが入った袋を取りだしてベルティーナの横まで移動し、袋の口を開いた。そこからヒョコっと出てきたのは泥でできた小さい手だった。

 ベルティーナの耳に入れていたコルクを抜き、その耳元でデトラは喋る。


「んーー!んーーー!!」


「オマエがドロヘイのことを話した時、見た時の表情や動きで確信した。―――ドロヘイに媚を売りすぎたな」


 そう言った直後、袋の中から出ていた泥の小さな手が勢いよくベルティーナの耳に入っていく。


「な、何やってんだお前!?」


「んんんん!んんんんん!!」


 俺はデトラの謎で唐突な行動に驚きその場で立ち上がる。必死にもがくベルティーナにしらんぷりで耳にどんどん泥の手を入れていく。


「いいから黙って見て―――キヒヒヒヒ!どうだ?やはり思った通りだ!!」


 勢いよく耳の中に入っていた泥が今度は逆流しはじめる。耳の中から出てきた小さな手は小さい何かを握っていた。

 デトラは耳から出てきた小さい何かをそのままペトリ皿の中に入れて蓋をする。


「ん・・・・んん・・・・」


 さっきまであんなにもがいていたベルティーナはさっきとは180度ほど中身が変わったかのように静かになった。どうした?デトラは一体何を取ったんだ?


「もういいぞドロガラス、ベルティーナの目隠しや縄を解いてやれ」


「へいへーい」


 泥鴉はベルティーナに近づくと慣れた手付きでヒョイヒョイと解いていく。―――なんでこんなに慣れてるんだ。

 いつのまにかベルティーナの行動を制限していた物が全て外されていた。


「はぁ―――はぁ―――ううっ、グスッ」


「これで大丈夫なハズだ。もうお前を縛るモノはなにもないだろう?」


 とても疲れたような顔で、目からはいつのまにか涙を流していた。息が荒々しく、肩も上下に揺れている。


「うう―――グスッは、はい―――グスッもう大丈夫です」


 泣きながらそうい言うとベルティーナは突然姿勢を下げ、頭を地面にくっつけた。

 俺はまた何が起こっているのか理解できずに少し後ろに下がる。


「ぼ、僕の命だけではなく、体も取り返してしてくださるなんて・・・ほ、本当に本当にあ、ありがとうございます・・・!」


「えぇ?」


「ああ、なるほど!さすが姉ちゃん!」


「えっ、理解してないの俺だけ!?」


「勘違いするな。別にオマエのためじゃないぞ?ワタシはオマエの中にいたコレに用があったんだ」


 そう言うとデトラは持っていたペトリ皿を見せびらかすように振る。


「―――すまん、何がなんだかサッパリなんだが」

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