半獣人は生き物ではない泥人形に恋をするか

「―――よし、こんなものか」


 20分間ぐらい外にいただろうか、俺は回復薬を作る際に必要な植物を花壇から千切りとり、泥鴉から渡されたメモを確認してから立ち上がる。


「しかし心臓マッサージが成功して良かった。訓練やネットの知識でなんとかいけるもんだな」


 あの後、俺の必死の心臓マッサーシや痛みでもだえ苦しむほどの人口呼吸のおかげで半獣人の少女は呼吸を回復でき、家の中に運んでリビングのソファーに寝かせていた。

 頭に傷はないので恐らく意識不明の重体にはならないだろうし。これで薬も作れるし、泥鴉がそれを飲ませればすぐに回復すると言っていた。だから何も問題はないだろう。


 俺は家の前まで移動し、ドアノブを握ってドアを開けた。すると―――


「ん?あれ、半獣人の人起きたのか!?」


「へっ!?あ、ど、どうもです」


 そこには先ほど助けた半獣人の子が部屋の中にいるのに何故かソファーに座ってお辞儀をしていた。

 なぜか下を向いてモジモジ・・・というか落ち着きがあまりないが、まあ体が動いているのだし問題ないだろう。薬も必要なかったかもしれないな。

 けどソファーに座っていたのは半獣人だけではなかった、何故かそのソファーにはいつもの謎の服を着たデトラと泥鴉もいる。


「おお、デトラも今起きたか。じゃあそろそろ飯にオムライスでも―――」


「いや、そんなことよりもだ。その反対側のソファーに座れ」


「へっ?」


 デトラが予想外な言葉を発し、俺は驚きで変な声が出る。いつもなら俺が「飯にしよ―――」と”う”を言いきる前に「そんなのはどうでもいい!さっさと作れ!」と叫んで要求してくるのになぜかそれを言おうとする素振りが全くない。それどころか険しい

 俺何かやらかしたのか・・・?


「おいおいどうした?起きた時にベッドから落ちて頭でも打ち付け―――」


「座れ」


「ああ、じゃあ折角だし何かお茶でも」


「座れ」


「・・・は、はい」


 俺は言われた通りデトラ達が座っていたソファーから低めのテーブルを挟んで反対側のソファーに座る。

 俺から見て左から何故かニヤつき時々我慢した笑い声が聞こえてくる泥鴉、真ん中にはいつもよりも不機嫌そうな顔で腕を組んだデトラ、右にはさっきからモジモジしてひたすら自分に生えている馬のような尻尾をいじくり顔を上げようとしない半獣人―――全員の身ぶり素振りから察せることが何もない。いや、それどころか逆に考えるばかりだ。


「クッククク―――」


「―――――」


「―――――」


「―――――」


 何故かだれも反応しようとしないし泥鴉はずっと笑いをこらえてるし俺は反応できない。ソファーに座ったのにもかかわらずデトラは相変わらず不機嫌な顔でこっちを見つめていた。何だよこれは圧迫面接かよ。


「クッ、ククッ―――」


「―――――」


「―――――」


「いや喋れよ!?なんなのこれなんで誰も喋んねーんだよ!滅茶苦茶居心地悪いわ!!」


 するとデトラは満を持していたかのようにゆっくりと口をあけてこう言った。


「―――泥鴉から聞いたんだ。お前この半獣人と・・・接吻したんだって?」


「ん?接吻―――」


「―――――/////」


 デトラが言った直後、半獣人の白い肌がゆっくりと赤くなっていく。


 ―――接吻って確かキスだったよな?したって人口呼吸の・・・えっ、じゃあもしかして半獣人の子のファーストキスをを奪ったとかで怒ってんのか!?


 俺はチラリと半獣人の様子を確認するすると―――さっきまでしっぽをいじっていた右手が震えだしていたのだ。


 ―――あかん。


「したのかしてないのかハッキリしろ!」


「い、いや違うんです!あれは違うんです!あれは―――そう人口!人口心臓呼吸マッサージって言ってですね!ほ、ほら息が止まってたからさ、あのままだと死んでだろうからそれが必要だったんですよ!」


 慌てて全部繋げてしまったせいで呼吸するのかマッサージするのかよくわからない応急処置が完成する。


 ―――何を焦っているんだ俺は。こういう時こそ堂々としないと不利なのに・・・!


「―――じゃあ、泥の妖精さまが言っていた事は本当だったのですね」


 そう言うと半獣人の子は立ち上がりフードを取った、すると―――その子は色白美人だった。顔はさっきとはでは言わないがまだ少し赤い。

 この前に会った(6話と8話)半獣人とは少し違い、毛の色は水色で目も茶色、髪の毛は白に近い茶色。身長もデトラより20cm高く、俺より10cm小さい大体160cmぐらいの身長。しっぽも馬のような大きく目立つものが生えていた。それ以外は特に変化はない。指は黒く、そこから肩まで、足のヒズメから腰にまでにかけて青色の毛が生えており毛が生えていない部分の肌はピンクに近いクリームのような色、足も馬やロバのような形をしている。

 こちらにゆっくり近づいてき、そのまま隣に座ってきて膝に乗せていた俺の両手をゆっくりと握ってきた。逃げられないようにしているのだろうか。

 ゆっくりと半獣人の子の顔が近づいてくる。それと同時に握られた両手にゆっくりと力がこもっていっているのが感触で分かる。ああ、まさかこっちのセカイで初痴漢扱いされてしまうとは―――。


「命を救っていただいたうえに―――この僕、ベルティーナを選んでくださってありがとうございます。泥兵様」


「―――は?」


「私は今年で16歳です!だからすぐに結婚できますよ!!」


「い、いやいやちょっとまて」


「兄ちゃん結婚おめでとおおおおおおおおおおお!!!!!」


「うるせえ!クソ鴉は黙ってろ!!」


 俺は驚きのあまりクッションから立ち上がり半獣人・・・いや、ベルティーナから握られた手を振りほどき距離を取ろうとするがかなり強く握られているせいかまだ捕まったままだ。


「は、離しません!僕は離しませんよ!!僕はもう離しません!!!」


「えぇ・・・おいこれはどういう状況なんだ!?」


 デトラは下を向いて溜息をついた。


「ハァ・・・厄介な奴らに厄介な方法で絡みやがって・・・これから色々面倒くさいぞ」


「お、おい誰か教えてくれよ!?」


「いやーまさかこっちに来てからこんなに早く相手ができるとは・・・オレッチ嬉しいよ!」


「おい愉快犯お前には花壇の肥料になってもらうぞ!?」


「そんな怖いことやらないでください泥兵さん!私が明日やっておきます!!」


「えっそういう問題!?やろうとしてることは結局何一つ変わってないんだけど!」


 ベルティーナはそう言うと今度は俺の胴体に抱きついて身動きできなくした。


「あ、あのベルティーナさん!で、出来れば今だけでも離していただきたのですが駄目ですかね!?」


「―――駄目です」


「えっ」


 急に声のトーンが変わったので俺は驚いて変な声を出してしまった。

 ベルティーナはそのまま上を向いて俺と目線を合わせた。美少女の笑顔はとても可愛い―――だが、何か違和感を感じるというか、何かを隠したような表情で―――


「僕は二度と離しませんから」


 口元には笑みさえ浮かべていたが、その迫力は背筋が凍るほどだった。

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