泥兵(俺)は泥だらけの泥プールで溺れる 後編
俺は体がなくなって動けるようになり、泥の中に埋もれた頭をゆっくりと上げた。
「ちょ、ちょっとまって誰かたすけオボボボボボボ死ぬ死ぬオボボッボボボオオ」
「おいおいどうしたドロヘイ、お前は息なんて必要ないだろ?あとお前は泥の中では自由に動けるハズだが」
「オボボボ―――えっ」
俺はハッと我に返り、ゆっくりと地面に手をつける。すると底なし沼のハズなのに確かに手を着けれるのだ。俺はそのまま体制を立て直した。
「はっはっはっは!お前ハシャギすぎだろう!」
「そこまで楽しみならドロヘイ様も参加するしかないですね」
「えっいやいやちょっと?」
「さてと、じゃあ今回もやるか!」
デトラは俺が異論を唱えようとしているのには目もくれず、大きく息を吸い―――叫んだ。
「泥合戦の時間だあああああああ!!!」
「ど、泥合戦?雪合戦のパクリ?」
「パクリではない、これは私の先祖から代々引き継がれてきた泥の魔女のお祭りなのだ!」
「ルールはいたってシンプルです。まずこの麻の帽子を被ってください」
鴉男はそう言うと、いつのまにか持っていた袋から麻の帽子を取りだして俺に差し出してきた。
「えっ、俺もやんの?」
「何を言っているんだ?逆に何故お前は参加しない?」
「いやだって面倒くさ―――」
その次の瞬間、俺は異常なまでの殺気が後ろからきていることに気がついた。
「!?」
「ん?どうしたドロヘイ?」
今すぐにでも逃げたしたくなるような殺気だ。だけどデトラが気がついてないあたり俺だけに向けられた殺意だと考える。
俺は後ろをおそるおそるチラリと見た。するとそこには―――目が赤い炎のように燃え、リラックスポーズでこちらを見つめている鴉男がいた。
「俺もやるうううううう!」
「よし!決まりだな!」
「兄さん、その選択は合っていますよ」
間違っていたら何するつもりだったんだよ・・・。
「ルールはいたってシンプルです。この帽子に泥がつかずに最期まで残っていた人の勝利です」
「質問だ、じゃあこれって当たった人はどうなんの?」
「泥プールの外からその試合が終わるまでみているだけになりますね」
しめた!この底なし心霊スポット沼から案外早く出られるかもしれない。自分から頭を泥に擦りつければいいだけじゃん!
「おk!もう何も問題はない!」
「わかりました。さて、早速始めますか」
沼の直径120mの範囲で各それぞれの間の距離が均等になるように移動する。
「―――ここらへんでいいか」
俺は泥男に指定された場所までいくと振り返り、デトラと泥男を見つめる。その二人ももう指定された位置には移動したようだがまだ何か喋っているようだ。
「またここで貴方と戦えるとは思いもしませんでしたよ、姉さん」
「キヒヒヒ!また懲りずにノコノコとやってくるとは―――勇敢というべきかただのアホというべきか」
「勝手に喋ってください。前回は引き分けでしたが・・・どうせそのセリフ、この試合が終わってから僕が喋っているのですから」
「―――いい度胸だ」
「そのくだらない茶番やめろや!見てるこっちはつまんねえ!」
泥男はダブルバイセプスのポーズをしながらこっちを向いた。
「兄さん、申し訳ないのですが開戦の合図を出してもらえませんか」
そのポーズまだやってんのかい。
まあでも合図くらいならやってもいいか。どうせすぐ出るし。
「じゃあいくぞー、よーい」
俺が右手を挙げた瞬間、空気中の何かが変わる音が聞こえた。言葉では言い表せないような音だ。
何故か俺はそれを聞いたとたんに緊張し、一瞬体が動かなくなった。デトラは右手を構えており、泥男はボクシングのファイティングポーズのような格好をしていた。
一体なにが起こるんだよ―――。
「ス―――」
手を振り落とした次の瞬間、俺の右手の感覚がなくなった。
「――――は」
俺はおそるおそる右手を見る。そこには―――右手なんてなかった。
「がァッ!!」
右手が無くなった痛みがタイムラグで襲ってくる。何が、一体どうなってるんだ!?だが、そう思ったと同時にまた不思議なことが起きた。
なくなった右腕に周りの泥が集まっていきすぐに腕が完治したのだ。
「こ、これがデトラがいっていた再生能力・・・?い、いやそんな事よりも」
そう、そんな事よりもだ。俺はデトラと泥男がどうなった気になり前を向いた。
そこには、
「ほう―――これに反応できましたか」
初期位置から動かずただ右手を前に突き出しているだけの泥男と、
「キヒヒヒヒ・・・まだまだだな」
目の前に泥の壁を出したであろうデトラがそこに立っていた。
「「――――――!!」」
一瞬で泥男の立っている場所の泥が巨大な泥の手になり握り潰そうとするが、そのことに気がついた泥男は足に力を入れて瞬間的な早さでジャンプする。そのジャンプの高度は一蹴りで200mほどだ。
「―――――何やってんだあいつら」
空中に逃げた泥男を逃がすまいと巨大な泥の手がバラバラに、そこから無数の手になって一斉に襲いかかった。だが、
「姉さん―――遅いですね」
泥男も負けてはいない、その分厚い体が実は薄っぺらいんじゃないかと思うほど攻撃が全く当たっていない。デトラの泥の腕を足場変わりにして他の腕を避けている。
「キヒヒヒヒ―――なかなかやるじゃないか」
デトラの無数の泥の手が泥男の麻の帽子を泥で汚そうとするがパンチですぐにただの泥になって散ってしまう。休む暇もなく襲いかかってくる近づいてきた手を一つ残らず叩き散らす。
デトラも負けてはいない、最初は泥の手を泥男の正面からしか掴ませなかったが今度は四方八方にも手を回す。それと同時にデトラの足元の泥がゆっくりと丸くて長細い棒に変わっていき、それが絶えず泥男に撃ち続けられる。
「ほほう―――」
大量の泥の手が泥男を360度囲みひたすら近づいてき、デトラの方からかなりの強度をほこる鉄の棒のようなものがひたすら飛んでくる。それを泥男はいまだに全てたたき落とし、時には掴んで新しい棒が来た時にそれに投げて相殺している。
「―――なんだこれ」
「なかなかやるじゃないか、だけど―――周りを見るのを忘れていたな?ドロガラス!!」
その言葉と同時に俺も泥男の周りの状況に気がついた。
全部殴り潰せばいいとかそういう次元の話ではなく、泥鴉の周りを編状になった球体の泥が囲んでいたのだ。
「キヒヒヒヒ!!!そのまま圧し殺されろ!!!」
泥鴉が何かを言う暇もなく、空中に飛ばしていた泥全てがデトラが右手を握りしめることによって一瞬にして泥鴉に集まっていった。
そしてそこに浮いてあったのは握りしめすぎて固くなった光に反射する綺麗な泥の球体だった。
「なあ、これもうデトラが勝ったんだよな?はい茶番は終わり!以上!終了―――」
「いや、まだだ」
次の瞬間、固まった泥の球体の中から出てきたのはまだどこにも泥ええが付いていない帽子を被った泥男だった。
「な?まだ終わってなかっただろ?」
泥男は空中に飛び散った泥を全て右手に集めて巨大化させて赤く光らせ、そのまま重力の法則にしたがってデトラに向かって落ちていく。
「ほう、私と力比べか―――いいだろう」
そう言ってデトラが右手を構えると同時にデトラの立っている場所から右後ろらへんに巨大な泥の腕が出現した。力を溜めているのだろうか、その腕は黄土色の光を放つ。
「ほら、さっさとこいよ。ドロガラス!!!」
「遠慮なくいかせてもらいます、姉さん!!!」
「この茶番いつまで続けんだああああ!!!」
次の瞬間、俺の視界は全て真っ白になった―――。
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日か沈みかけ、赤くなっている空の下の森の中で、俺は今度は左腕がない状態で一羽の鴉と一人の少女を担いだまま家へ帰ろうとしていた。
「す、すまねえ兄ちゃん・・・運んでくれて助かるぜ」
「ドロヘイ~・・・私はお腹がすいたあああ~・・・」
「ああもうヘナヘナ声で喋るな!俺も体ガクガクなんだいいから黙ってろ!」
あの後、二人の拳が直撃した衝撃で半径300mの泥や土や木が全て吹き飛び、クレーターのような跡ができてしまっていた。
バカなことに残りの魔力を考えずにブッパした二人の魔力はカツカツになりそのまま気絶。デトラと魔力を共有していた俺の方に魔力がまわってこなくなり道連れで気絶。結局目が覚めたのは午後の8時、そして俺の吹き飛ばされた際に無くなったであろう左腕はデトラの魔力がないので回復しないのだ。
「お前らこれから自分の体のことはちゃんと自分で管理しろよ?左腕がない状態でお前らを担ぐのはもういやだからな」
―――しかし反応がなかった。なんだこいつら無視か?
「おい、お前ら人の話を聞いて―――」
そう言って泥鴉とデトラの方を向いた。すると一匹と一人は、
「スー・・・スー・・・スー・・・」
「グー・・・グー・・・グー・・・」
「寝てんのかよぉおおおおおお!」
結局その日の夜は、俺一人で歩いている中何の苦労もせずに寝てたクソ共を寝室まで運んでから力尽きて床で寝た。
―――もう行きたくない。
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