泥兵(俺)は泥だらけの泥プールで溺れる 前編
「―――よし、えっと”私は今日、兄と一緒に旅行にいきました”これでいいか?」
「違う違う、これは”私は今日、旦那の兄と一緒に家を出ました”だ」
「なんでさっきからこの低学年用の教科書にはそんな闇深いことしか書いてないの!?このセカイの子供はマジでこんな本で勉強してんのか!?」
俺は朝から泥鴉にこのセカイの文字を教えてもらっていた。
数日前に俺はデトラから今俺が操っている”泥人形”の製造方法や運用方法について詳しく書かれた本を貰ったのだが俺はこのセカイの文字が読めない。だがこのセカイで生きていくにはこれから文字ぐらいは読めないと色々不便になるだろうし、自分の将来に役にたつかどうかわからない勉強はやりたくないけどこの勉強はここでは絶対に必要になるだろうしな。
―――それでこの家にあった低学年用の教科書で勉強しはじめたのだが内容がさっきから酷過ぎる。
「あーもういい。じゃあこれはえっと・・・”私は弟のお気に入りの下着をたたんでから棚に入れました”」
「違う違う、これは”私は弟のお気に入りの下着をたたんでから棚の隙間に入れました”」
「ただの嫌がらせじゃねーか!弟のお気に入りって知っててやるなよ!」
「ほらほら兄ちゃん次の文章、”僕は棚の隙間から出てきたお気に入りだったのに埃と髪の毛だらけになった下着を糞ビッチの下着を入れている棚に広げていれました”」
「弟滅茶苦茶怒ってんじゃん!というか誰だよこれ作った奴そいつの日記帳か何かか!?」
とまあ、文章が気になり一々つっこんでしまうので全然勉強できないのである。そんなグダグダと勉強を続けている中、突然家が大きく揺れる。
その直後だった。突然二階から騒音と共に緑色の扉が吹っ飛んできてそのまま俺の頭に扉の角が突き刺さる。そしてそれと同時にデトラの声が家中にひびきわたる。
「ついにこの日がきたぞおおおお!」
「そうだなぁ!今日はお前の命日だよなぁ!?」
「まあまあ兄ちゃん落ち着けって」
泥鴉が俺を落ち着かせようとしているなか、デトラはパジャマ姿のまま階段からドタドタと音を鳴らしながら走ってきた。今日はまだ朝の9時でこの時間から起きるのは珍しいが―――。
「ドロガラス!ドロヘイ!早く外にいく準備をしろ!今日は泥プールの日だぞ!」
「おいおいどうしたんだ泥プールって急に、今日はやけに早起きだな。何かあるのか?」
「そうか―――ついにこの日がやってきたか」
「あれ、俺以外みんな知ってんの?泥プールってな―――」
そう言いながら俺の視線は泥鴉が居た方向に向いた、しかしそこには―――1.9mほどの身長に頭が鴉、胴体にはムキムキなボディビルダーほどの筋肉があり、サイドチェストポーズを取っている何かがいた。
「もうそんな時期ですか、時が過ぎるのは早いものですね」
そういうと鴉頭のボディビルダーのような男はポーズを変えてモストマスキュラーのようなポーズになる。
「―――誰?」
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いつも通りの俺+デトラ+鴉頭のふんどしのようなものを履いた男の合計3人は道がない森の中を10分ほど歩いていた。そんな道中、鴉頭の男とデトラは聞けば聞くほど不幸になるような歌を歌っていた。
「にんぎょ~はくすりの~ためまち~を~はしる~♪」
「ろじうらの~こども~からうばったかね~♪」
「だ~けどそれだけで~かね~はたりず~♪」
「にんぎょ~はみずから~をうり~と~ばした~♪」
「「そして~しゅじんは~なきましました~♪」」
「その歌交互に歌うのやめろ!こんなにいい天気なのにそんなの聞きたくねえよ!」
「この曲は私の母さんが歌っていた我が一族に伝わる童歌だ!お前も覚えておけよ」
「そうですよ、兄さんもおぼえていたほうが後々役に立つかもしれませんよ」
「そんな曲が役に立つ未来は見ないし見たくねえ!つーかお前もうそのムキムキの姿やめろ!」
そう言うと鴉頭の男とデトラはしばらく目を合わせる、そして数秒後―――
「「無理だな」「駄目です」」
「ハモんな!ていうか今の間なんだったんだよ!?」
さっきから泥鴉が俺の知っている泥鴉ではなかった。何故か体が大きくなってるしなぜかムキムキだし言葉も丁寧口調になっている。言葉では言い表せないがこの二人から何か狂気を感じた。
その時だった、俺の前を歩いていたデトラが立ち止る。
「キヒヒヒ!よしオマエら着いたぞ!」
「着いたって、泥プールにか―――」
そこには木が生えていない空間が直径130mほどあった。そしてその広場の中心には120mほどの
泥沼の沼があった。
「―――これがお前らが楽しみにしてた泥プールなの?底なし沼にしか見えないんだが」
「ええ、そうです。私たちは数カ月に一回、ここの泥に溜まった魔力につかりにくるのですよ。天にも昇るような気分になりますよ」
俺は泥のプールを見渡す。すると人間の右手だけが沼から出た状態で何かを掴もうとしてそのまま白骨化したのであろう死体を見つける。
「いや天にも昇るような気分っていうかほんとに天に昇ってる人がいるんだけど、あれ天に昇った人の抜け殻だと思うんだけど」
その近くには二人で飛び込んだのだろうか、今度は沼から出ている白骨化した手が仲良く手を繋いでいる。その他にも赤ん坊のような小さい白骨化した手があったり白骨化した手に弓矢が刺さっているのもあった。
「ていうか天に昇ってる人多すぎだろ!なんだよここは心霊スポットが何かか!?」
「キヒヒヒ、今回は先客が多いな!」
「あれ先客なの!?俺には骨にしか見えないんだけど!」
「ふむ・・・いい泥加減ですねぇ、体に染みわたります」
すでに鴉男は泥プールなるものに体の方まで浸かっている。何故かとても気持ちがよさそうだが白骨化した人の手がみえるせいでとても入りたいとは思わない。
「どうです?兄さんもこっちに来ませんか?」
そう言いながら泥男は腕を組みながら大胸筋を動かした。
「行かねーよ!っていうかその筋肉アピール一々するのやめろ!」
「ダラダラとぬかすな!さっさと飛び込め!」
次すると俺の足元にあった泥が手のようになりそのまま腰を握られ、空に向かってブン投げられられ・・・。
「あああああああああああああ!!」
そのまま頭から刺さった。勢いが強かったせいかその周りにあった泥が周囲にはじけとんだ。
「ギャアアアアアアアア俺は天に昇りたくねえええええええ!」
「ヒャッホーイ泥だああああ!!」
「ぐべラッ!」
俺は頭を泥からできるだけ離そうとすぐに起き上がったがその直後飛び込んできたデトラの膝が俺の顎に直撃した。
「―――――」
俺は体が動かせずゆっくり泥プールに沈んでいく。
「どうだドロヘイ、気持ちいいだろう!」
「ほら見てください姉さん。泥兵さん気持ち良すぎてどんどん沈んでいきますよ」
俺は真っ暗になっていく意識の中、心のなかで呟いた。
―――――元のセカイに帰りてえ。
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