俺がこのセカイで求めたのは元のセカイの戻るための元の名前だった

「ななな―――なんだこの豪華な料理は!?」


 ただ今朝の9時、夜の10時から朝の7時まで精神を削って掃除したおかげでとても綺麗になったリビングで興奮してパジャマ姿でとび跳ねるデトラの前にはテーブル、その上に置かれていたのは水の入ったグラスとスプーン、そして皿に載った俺の得意料理のオムライスだ。


「豪華ってそんなにか・・・?」


「これは何という料理なんだ!?とても不思議な形をしているぞ!」


「ああ、それはオムライスっていって―――」


「うひょ~!いただきます!!」


 何のために俺に料理の名前を聞いたのだろうか・・・俺の話も聞かずにデトラは椅子に飛び乗り右手でスプーンを持ち、そのままオムライスをすくって口いっぱいに頬張る。


「お、おいおいもうちょっと落ちついて食えよ喉に詰まるぞ」


「んーーーーーー!!!んんーーーーー!!」


「ほら言わんこっちゃねぇ!!即堕ち二コマやめろ!!」


 テーブルの上にあったグラスを取り、すぐさまデトラの口に流し込む。


「ゲホッゴホッ!おいドロヘイこれ―――クソ美味いぞ!」


「お、おう・・・そうか」


 そう言いデトラは満面の笑みを見せた。正直美味しいと行ってくれるのは嬉しいしまあ一応美少女なので見栄えが良いのだが・・・これで喋らなかったらなぁ・・・。


「美味い!懐かしい味だ!ドロヘイ、おかわりをくれ!」


「えっ、もう食べたのか!?おいおいちゃんとよく噛んで食べたんだろうな?」


「うるさい、さっさとおかわりだおかわり!!」


「へいへい・・・」


 俺は厨房のフライパンがあるところまで行き、調理用ボールの中に卵を二つ入れて昨日の夜削って作った木の箸でかき混ぜる。

 異世界でおそらく中世であろうハズなのに何故か瓦斯が使えたり水が出てきたりと結構便利だ。世界観がよくわからない。

 しかしそれにしても・・・。


「懐かしい味ってなんなんだ?」


「ん?」


「いや、さっきこの料理食った時に”懐かしい味だ!”って言わなかったか?」


「ああ・・・なんでだろうな、私にもわからん」


「えぇ、俺もわけがわからん」


「まぁこんな飯はしばらく食っていなかったような気がするしな。そんなものだろう」


「なんじゃそりゃ、お前今一体何歳なんだ?」


「うーむ・・・500歳ぐらいだな」


「はっ!?」


 俺は卵をかき混ぜている箸を止めた、理解ができなかったからだ。


「ちなみに正確には511年6カ月13日だぜ、兄ちゃん」


 気がつくと泥鴉はフライパンで炒めていたご飯をつまみ食いしていた。美味そうに食べている。


「おいドロガラス!それは私のおかわりだぞ!」


「ええ・・・じゃあ合法ロリってやつだったのか」


「ごうほうろり・・・?よくわからんがまあそれが姉ちゃんの歳だ」


「おい!聞いてるのかクソガラス!!」


「うおおおおおおおおおお!!!うめえええええええええ!!!兄ちゃんこれうめえええ!!!」


「あーもうわかったわかったわかったから、お前の分も作るから落ち着け!」


 朝から頭痛が痛いみたいになってきた。騒がしすぎる。こいつらどんだけ元気なんだ・・・。


「しかし泥鴉、やけに500歳以上のデトラに詳しいが、お前も一体何者なんだ?」


「そいつは私がここに来る前からいる魔力を使ってここに存在している泥の妖精なんだ、つまり厳密に言うと生き物じゃない。ある意味ドロヘイと似ている存在なのかもな」


「な、なるほど・・・ってえっ、俺って生き物じゃないの?」


「お前は私の魔力を共有している。私の魔力がある限りお前は自己再生できるし、飯も食わなくてもいい、寝ないことだってできるんだ。―――ただもし魔力を共有している私が死んでしまうと」


「し―――死んでしまうと・・・?」


「ただの泥にもどるだろうなぁ!キヒヒヒヒ!」


「い、いや笑えないんだけど!?」


 冗談じゃない―――つまり俺は信用してはいけない奴に自らの命を預けているのか!?


「―――冗談じゃねえ!おい俺を元の体に返しやがれ!」


 俺はニヤニヤと笑うデトラに対して俺は叫ぶ、だがデトラの表情が変わることはない。


「おいおいもう忘れたのか?昨日言っただろ。お前の元あったセカイの名前がないと戻れないと」


「そうだったな!ああクソッ!」


「もう諦めろよ、思い出すのは不可能だ」 


 俺は元のセカイでやらなければならない事があった。一刻も早く戻らないといけない。―――まだアイツの墓参りにも行けてないのに。こんな所で油を売っている時間なんてないのに。

 その時だった。


「まあ―――お前が協力してくれたら話は別だが」


「!?」


 俺は驚いた、あれだけ否定していたデトラがここで手のひらを返すとは思っていなかったからだ。


「お、おいなんで早くに行ってくれなかったんだ!?」


「昨日のお前に話しても無駄だっただろう?夢だなんだと現実から逃げている奴には時間が必要だった。しかもお前が私から逃げていたしな」


「―――ごもっともです」


 確かに昨日の俺はここを夢だとなんだと言って逃げていた。わざわざ自分から話す機会を失っていたのか。


「―――で、それで?どうすればいいんだ?」


「このセカイの何処かにある本が必要だ」


「ほ、本?」


「そう、全てのセカイの全てを記録し統べる本―――全知の書、私もその本が必要なんだ」


 デトラはスプーンをテーブルの上に置き、ゆっくりと椅子から立ちあがった。


「お前の元いたセカイでの名前もその本を見ればわかるだろう。けど、私はその本で―――母さんの場所を知りたいんだ」


 俺はデトラらしくないその発言と少しさびしそうな表情で驚いた。こいつでもこんな顔をするのか・・・。


「けど、どういう事だ?お前の母さんは途中まで住んでいたのか?それとも誰かのか知らないとか?」


「最初ので合ってるぜ兄ちゃん。姉ちゃんの親は姉ちゃんが11歳の時にどっか行っちまったんだ」


 11歳の時―――じゃあこいつは500年間とちょっとの間ずっと親がいなかったのか。


「そうか―――別れた時の事は昨日の出来事のように覚えていたのにもうそんなに経っていたんだな」


 そい言いながら右手の人差し指をたててテーブルの上をなでる。意外な一面を見てしまった。

 デトラはゆっくりと口を開く。


「私がまだ子供だった時の話だ。ある目、目が覚めると母さんはどこにもいなかったんだ」


 デトラがはただただテーブルに触れている指を見つめていた。


「家の中や周り、どこを探してもいなかった―――でもテーブルの上にこの本と手紙が置いてあったんだ」


 そう言うとデトラはそのまま階段の下にある本棚から白い本を取り出し、その本を俺に向かって投げる。

 俺はその本を右手でキャッチして表紙を見る、そこにはこのセカイの文字であろう黄土色で蛇みたいな字が書かれていた。


「泥鴉はデトラの母さんの場所は知らないのか?ほら、泥の妖精だしデトラが使っていた千里眼とかで―――」


「オレッチは兄ちゃんみたいなデトラ専用の体じゃないんでね、そんな限定的な魔法は使えないさ」


 千里眼はデトラがデトラ専用の俺の体にしか使えない限定的な魔法なのか。

 どこぞのゲームみたいに薬飲めば敵の位置がマークされるとかそういう汎用性が高いものではないようだ。


「手紙にはこう書かれてあった。そいつを作ってシモベにしてから全知の書を探しにいけって―――だから私は母さんとの約束を守るためにお前を作りだしたんだ」


「―――すまん字が読めないんだがこれって何て書いてあるんだ?」


「”泥人形の作り方”だ」


 俺は右手で握っていた白い本を見つめる。もしかしたら俺は相当やっかいなセカイに首をつっこんでしまったのかもしれない。転生する前の俺ならアニメや小説で見る分にはハーレム最強系異世界転生は苦痛でしかなく、転生するなら歯ごたえがあるセカイだったらよかったと思うだろうが―――今現在進行形で転生して、半獣人の少年が目の前で砕け散った時を見てからはやはりハーレム最強系異世界転生に転生したいと思う。けど来てしまったのだ、前に進むしかない。


「これでわかったか?―――私は私自信の母さんを見つけるために」


「俺は―――俺自身の元のセカイに戻るための名前を見つけるために」


「利害は一致しているだろう?」


 そういうとデトラはテーブルの上に飛び乗り両手を天に掲げて叫んだ。


「私が行く道はお菓子やチョコレートにシロップがかかったあまったるいロードではない!骨と肉で飾られ血で濡れた生臭いロードだ!私はこの道を突き進む!!」


 血で濡れた生臭いロードか・・・だけど今の俺にはどうすることもできないだから―――。


「俺はできたら歩きたくないんだが―――しょうがない、天国でも地獄でもついていくさ」


 デトラはその返事に満足したようでニヤリと笑った。


「よしいいだろう。けどこれから私とお前は何があるかわからない未来へ信頼しながら進まないといけない、だから今からその儀式をする。じこっちに来い」


「えぇ・・・俺まだ卵といでんだが」


「すぐ終わる、いいから来い」


 俺は手に持っていた調理用ボールを調理台に置いてデトラの目の前まで近づいた。というかこいついつまでテーブルに乗ってんだ。


「よし・・・では信頼を示すための儀式を行う」


 そう言うとデトラはしゃがんでから、俺の頭を両手で掴んで上を向かせて見つめてきた。


 ―――それから5秒ほど経過した直後、デトラはドロヘイに顔を近づけてキスをした。


「なっ―――!?」


 俺は驚きと高鳴りに心臓をもみくちゃにされ、そのまま後ろに下がり厨房に背中がにぶつかったと同時に激しい音が鳴った。そしてそのままへたり込む。


「ヒュー!熱いねぇ!」


 俺は何をされたのか一瞬理解できなかった。


「これで信頼を示す儀式は終了だ」


 デトラはそう言うとテーブルを下りる。


「これからよろしくな、ドロヘイ!」


 満面の笑みを浮かべたデトラが目の前にいる状態で俺は考えた。

 デトラの唇が当たったであろう部分をなんとなく右手で触った。これってもしかして・・・


「おいデトラ―――お前ってやつは」


「うん・・・?どうしたドロヘイ?」


「―――明日空から槍でも降ってくんじゃねえのか?」


 次の瞬間、俺の頭にはデトラが全力で投げた鉄棒のようなものが突き刺さり貫通した。

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