南の寄生中

「お・・・お前、い、いつのまに」


 体の震えが止まらない。まだ震えていた。


「私から逃げることはできないぞ。お前の行動はすべて千里眼でオミトオシだからな」


 千里眼・・・?そんなものまであるのか―――。


「そんなことよりドロヘイ、お前体が震えてるぞ?」


「あ、当たり前だろ・・・こんなもん目の前で見て気分が悪くならないやつなんかいねえよ」


「―――ほう、じゃあこれを飲め」


 デトラはそう言うと絹の袋をこっちに投げてきた。

 俺はその袋を開けた、するとそこには青い飴玉が3つ入っていた。


「渡してくれたのはいいけど・・・なんだこれ?」


「飲んだ方が早い。ほら、さっさとのめ」


「いや、何かわからない薬飲むのはさすがに―――」


「いいから飲め!」


 そう言うとデトラはホウキにまたがったまま俺の手の上の薬を奪い取り、そのまま鎧の頭の目の部分をカパッと開けてその中に袋のままつっこんだ。


「ウボエッ!?」


「よし、これで問題ないはずだ」


 いきなりつっこまれたせいで反射的に咳き込む。まさ絹の袋ごとつっこまれるとは思わなかった。


「ゲホッゲホッ、何が問題ないんだよ!問題だらけじゃねえか!」


「じゃあ聞こう―――お前の足元に転がっているそれは一体なんだ?」


 デトラはそう言うとニヤリと笑った。


「は?お前もみればわかるだろ。俺の足元に転がっているのは―――さっき俺が握っていた目玉だ」


「そうかそうか・・・・ニヒヒヒ―――実験は成功だ!やはり私に不可能なことはない!」


「は?」


 何が実験成功なんだ?俺は何も変なことは言ってないハズなんだが・・・そう、足元に転がってるのだってただの目玉・・・

 その瞬間、俺の体に電流のようなものが流れる。俺は何を言っているんだ!?


「気づいたようだなドロヘイ、私の薬はよく効くだろう?」


「これは一体―――俺に何の薬を飲ませた!?」


「感覚を供用する薬だ。今、お前と私の感覚が繋がっている状態だ」


「―――何を言ってるのかわからん」


「低能だな・・・お前でもわかるようにすごく簡単に言うとだな、お前が死体を見た時のさっきの感覚は私と同じになっている。」


 いきなり超理論を聞かされても困るんだが・・・でもなんとなく理解できたような気がした。つまりだ。


「・・・感覚を共有しているのか?」


「だからそう言ってるだろ」


「まるで理解できるのが当たり前みたいな言い方をやめろ、なんだか頭が常識人じゃないみたいで頭おかしくなってくる」


「気にするな。どんな低能でもいつか治る」


「いや頭おかしいのはどっちかっていうとお前だよ!?つーか薬を袋ごと食わせる奴がお前以外のどこにい―――あれ、そういえば袋は!?」


「ああ、お前の中で消化されたんだ。」


 またわけのわからないトンデモ発言だ。駄目だ頭痛が痛いみたいになってきた。


「お前はその気になれば犬のフンやここに転がっている肉片だって食えるんだぜ?その体は最強の泥の魔女にふさわしいように作られた最強の泥人形だからな!」


 もういい、こいつと話している俺自信がアホらしくなってきた。


 俺は周囲に飛び散った肉片、頭が無くなり地べたにころがっている少年だった死体をみつめた。するとさっきまで少年が立っていたであろう場所から木の近くに茶色の1mほどの棒が刺さってあった。木を貫通する途中で止まっていた。


「・・・これお前が投げたのか?」


「ん?ああ、その棒は土で固めて私が投げたものだ。かなりの命中率だろうだろう?ニヒヒヒ!」


「俺には何故お前がそこで笑えるのか理解できねえ・・・」 


 ―――けど、今の俺もデトラのことをとやかく言える立場じゃない。死体を見ても何も起きない、何も感じなくなっていた。スーパーに並んでいる肉を見るようなこの感覚・・・これが泥の魔女デトラの感覚なのか・・・?


「―――その地面に転がってる少年は、一体何がどうなっていたんだ?」


「ん?さっきの少年・・・ああ、半獣人のことか」


 さっきの少年の行動を思い出す。あの吊るされた人形のような動きや奇怪な行動・・・やっぱりあまり思い出したくないな。


「こいつは―――あーちょっとまってろよ」


 そういうとデトラは低空飛行で飛び散った肉片を見ていく。

 すると床に落ちていた黄色い何かを右手拾い、そのままこっちに持ってできた。


「おいおい―――これはなんだ?」


「これが半獣人の脳みそだ、ほら」


「おいおい素手で掴んでくんなって―――ってこれが・・・脳みそなのか?」


 その脳みそはあまり脳みそっぽくなかった。種族が違うからという理由もあるかもしれないが―――。


「やけに黄色くて・・・一部だがしわもなところがあるな」


「ニヒヒヒ―――そう、それだ。こいつは脳に寄生されてたんだ」


「は?脳に寄生・・・?」


「ほら、こいつが脳に侵入して体の構造を変えていたんだ」


 デトラはそういうと持っていたほぼ黄色い脳みそを両手で二つに割った。すると中には―――まだ正常であろうピンク色の脳と一体化した目玉のようなものがあった。


「うわっ・・・・!?な、なんだよこれ!?」


 感覚を共有しているのにもかかわらず俺は悲鳴をあげてしまった。


「こいつはデジガルという魔法生物だ。こいつは主に耳から入り脳まで侵入した後にメインの脳と一体化、そしてそれ以外のサブの部分を腐らせてできた隙間にゆっくりとデジカル本体の細胞で埋め尽くそうとする」


「わ、わかった。もういい。もういいんだ」


「あとこいつの特徴として頭を丸かじりして脳みそを食うのが大好物なんだ。だからこいつに寄生されると顎のあたりに新しい骨格や筋肉を作られたり―――」


「お前の脳みその素晴らしさはもうわかったから!十分だから!」


 もういいお腹いっぱいだ。かなり凶悪なことは十分わかった。

 しかしそんな時俺は最悪なことを思い浮かべてしまった―――デトラに頭を砕かる前の少年に自我はたったんだろうか・・・?あの時の泣いていた顔、親に助けを求めるような発言―――いや、もうこれ以上考えるのはやめておこう。


「―――しかし本来ならこいつはもっと南にいる生物だ。私の記憶が正しければデネブエラの森にはいなかったハズだが」


 その時だった、空から何か風を切るような音と同時に声が聞こえた。


「おーい兄ちゃん!姉ちゃん!無事だったか―――うわっなんだこの臭い!?」


 その声は泥鴉の声だった。

 泥烏は俺の頭に乗るとそのまま羽をたたむ。


「む?お前ら知り合いだったのか?」


 デトラ意外そうな顔をする。


「兄ちゃんが姉ちゃんの服洗わされてる時に会ったんだよ」


 その時、デトラの顔が固まった。


「おいちょっとまて泥鴉、私はドロヘイが道の場所を知っていたのが不思議だったんだが―――まさかお前がコイツに道を教えたんじゃないだろうな?」


「しかし兄ちゃん滅茶苦茶きたねえな、肉片まみれじゃねえか」


「おい無視するな!」


 しかし泥鴉はそんなのおかまいなしに俺に話かける。

 こいつ―――デトラの扱いになれているな。


「お前・・・意外と重いな」


「気にすんな兄ちゃん、すぐに慣れるさ」


「おい!無視するな!おい!」


 隣でデトラが避けん背いるのにもかかわらず、そう言いながら俺の頭でくつろぎはじめた、自由な奴だ。


「しかし最近このあたりも物騒になったねぇ。ここにくるまで頭がなくなった半獣人の子供たちの死体を見たぜ」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の体の動きが止まった。頭が無くなってる死体ってもしかして・・・。


「なるほど・・・呼び出して頭を丸かじりしたのか。贅沢な奴だな」


「う、うおぉ・・・聞きたくねぇ・・・」


「ん?何だ?オレッチ以外何があったか知ってんの?」


 その時だった。俺はすぐ後ろの草むらから何かが飛んでくる音がした。

 俺も気がついたし他の二人も気がついていた。デトラと泥鴉の目線は俺が気づくよりも早くに音のした草むらに向けられていた。

 俺は急いで体をひねらせて後ろを振り返る。

 ―――次の瞬間。


「―――!?」


 そこから何かが勢いよく飛び出してきた。

 俺は何が飛んできたのか目を凝らした。それはデジカルでも、頭のない半獣人の人間でもない、木を削ってできた弓矢だった。

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