第321話 おめでとう、僕らは土地を手に入れた!

「ほう。整地はしっかりと出来ておる見たいじゃな。これならば家を建てる土地として十分じゃろう」


 荒れ地での戦いが終わり、ガザさんに報告すると「実際に見てからじゃな」と言われたため、僕らはまた、あの荒れ地……もとい、今は整地されて綺麗になった場所へとやってきていた。

 街からは徒歩30分程度と、結構離れてるけど、その分土地の広さはかなり広い。

 どれくらいかと言われると難しいけれど、少し大きな家を建てても、ハスタさんやリュンさんが暴れても十分過ぎるくらいの庭が取れるってくらい広い。

 ……というか、こうやってしっかり見るとかなり広いね。


「では、ここの土地をお主に譲ろうかのう。ほれ」

「これって、土地の証書ですか?」

「うむ。その書類に、お主の魔力を込めれば良い」


 魔力を込める……魔力を?

 えーっと、どうやってやるんだっけ?


(アキ様、以前の洞窟での魔法行使を思い出してみてください。手のひらに意識を集中させて……)


 脳内に響いたシルフの声に、僕は証書を持った手に意識を集中させていく。

 すると、僕の手が次第に熱を持ち始め……証書がピカッと光り輝いた。


「うわっ!?」

「よし、成功したみたいじゃな。それで、そこの土地はお主のものになったぞ」

「こんな手軽に……。これって、悪用されたりしないんですか?」

「その証書は特殊でな。破れても元に戻るし、盗まれても持ち主の手元に戻る。それに、前の持ち主が所有権を削除しておかないと、上書きも不可能じゃ。悪用なんぞできるとおもうか?」


 そう言って笑うガザさんに、僕は「あー……」と、納得することしか出来ない。

 でも、ファンタジーな世界だし、そう言ったシステム的なアイテムがあってもおかしくはないんだろう。

 実際、盗難とかの心配がないのはありがたいことだし。


「それじゃあ、あとは好きにするがよい。儂は家に帰るからの」

「はい。ありがとうございました!」

「よいよい、礼ならジェルビンにしてやってくれい」


 その言葉を最後に、ガザさんは手を振りながら、僕らに背を向けて歩き出す。

 そんな彼の後ろ姿を見送りつつ……僕はこれからの事を考えることに。

 まぁ、これからって言っても、次はジャッカルさんに土地が手に入った事を伝えに行くのが最優先だけども。


「それじゃ、一旦街に戻って……僕はジャッカルさんの所に行ってくるよ」

「ラミナも行く」

「え、別に土地が出来たことを伝えに行くだけだけど……」

「別にいい」


 そう言って、僕のそばで待機するラミナさんに苦笑しつつ……僕は他の二人へと目を向けた。

 フェンさんは「少しリュンの様子を見てくるわぁ」と微笑み、ハスタさんは「戦ってくる!」と、槍を手に鼻息を荒くする。

 まったく揃わない足踏みだけれど、まぁ……これが僕らのギルドらしい感じかもしれない。


「それじゃ、また夜に。ギルドの設立しないとだからね」

「はーい! 行ってくるー!」

「それじゃミーも。また後でねぇ」

「ん、また」


 すぐに姿を消すフェンさんと、街とは逆の方向に走っていくハスタさん。

 うーん、見事にバラバラだなぁ……。

 まぁ、僕も僕でやることやらないと。


「それじゃ戻ろうか」

「ん」


 すぐそばで頷くラミナさんに苦笑しつつ、僕は足を街の方へと向けた。


◇◇◇


「というわけで、土地を手に入れました」

「って、いってもなぁ。街の外かよ……」

「やっぱり難しいですか?」

「無理とまでは言わねえけどよ。ちょっと手間がかかるな……街の外で作業するやつってのは少ないんだよ」


 そう言われて、「あっ」と僕も気付く。

 確かに、外には魔物もいるし、作業中に襲われでもしたら大変な事になる。

 でも、あの辺りにはそういった魔物もいないし、大丈夫じゃないのかな?


「いや、確かにそうなんだけどよ。やっぱ外ってだけで躊躇するやつはいるんだよ。だから、作業が最悪、俺一人になるかもしれねぇ……」

「一人!? さすがにそれは……」

「そうなんだよなぁ。まあ、そうなったら、人数が集まるまでは手が付けられなくなるんだが……」


 分かるんだけど、そうなると完成がいつになるか。

 冒険者兼大工って知り合いはいるけど、頼るのもなぁ……。


「アキ、意地は大事。でも、意固地はダメ」

「うぐっ……。よく分かったね」

「顔見てれば分かる。それに、ラミナもそう思う」

「まぁ、それが一番早い、か」


 ひとまずジャッカルさんには、「僕も探してみます」とだけ伝えて彼の家から離れる。

 そして、僕はフレンドリストから、目的の人物を発見して念話を飛ばした。


『おお、アキさん! 久しぶりだな! どうしたんでい!』

「お久しぶりです、木山さん。ちょっとお願いしたいことがあって……」

『お願い? いいぜ、なんでも言いな! 俺に出来る事なら、なんだって手伝ってやるぜ!』

「あはは……。もちろんお返しはしますので……」


 そんなこんなで、木山さんへと状況とお願いを伝えていく。

 すると木山さんは、しみじみと『なるほどなぁ……』と呟くと、『なら、俺のギルドを使いな!』と景気よく言い放った。


「木山さんのギルド!? それって、生産ギルドのことですか?」

『あったりまえだぜ! 木工と細工と、あと鍛冶も連れて行くぞ!』

「そ、そんなにですか!?」

『家を作るってのはそんだけ大変なんだぜ! 俺は人を集めとくからよ、アキさんは図面と素材を頼むぜ!』


 それだけ言って、木山さんは『そんじゃ、また連絡くれい!』と念話を切ってしまう。

 なんていうか、僕の言葉を殆ど聞いてなかったような……。

 まぁ、約束を取り付けることが出来たのは良かったこと、なのかな?


「アキ?」

「ああ、いや。大丈夫……」

「……?」

「まあ、とりあえずジャッカルさんに図面引いてもら……うのは、また今度かなぁ……」


 だって、全員揃ってないと正式な図面も引けないし。

 そうなると、うーん……?


「……このあと、どうしよっか?」

「なんでもいい。アキはしたいことない?」

「んー……色々と気になってることはあるんだけど、急がないかな」

「気になってること?」


 こてんと首を傾げたラミナさんに、僕はオリオンさんと会う前に試していたことの話をする。

 その話を聞いたラミナさんは、「調薬はわからない。でも、スキルのことはなんとなくわかる」と、口を開いた。


「<選定者の魔眼>の件。たぶん予想であってる。スキルが足りない」

「やっぱり? そうなると、<千里眼>の入手が優先かなぁ……<魔力制御>は称号で補えてるわけだし」

「ん、そう思う」

「となると<千里眼>、か……」


 うーん……取得条件って、どうだったっけ……?

 聞いたことがあるような……ないような……。


「アキ」

「……うーん。習得条件……」

「アキ? アキ。アーキー」

「んー……<千里眼>だし、遠くを見たらいいのかな……?」


 いや、でも目を使うわけだし、ものをしっかり見るとかでもいいのかな?

 でもやっぱり、遠くを見るスキルだし……。


「アーキー!」

「わっ!? ラミナさん、どうしたの?」

「何回も話しかけた。反応がなかったから」

「そう? ごめんね、ちょっと考え事してたから」


 苦笑しつつ謝る僕に、ラミナさんは「大丈夫」と短く答えてから、「スキルは詳しい人に聞くのが良い」と、助言をくれた。

 そんなラミナさんに、「詳しい人、か」と僕はフレンドリストを眺め……とある人へと念話をかけるのだった。

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