第322話 新天地だからこそ、新しいことを
『で、俺と。ええチョイスやで、アキ』
「まあ、こういったスキルだったらトーマ君だよねって。<聞き耳>スキルを持ってるって前言ってたし……なら、<千里眼>も持っててもおかしくないなーって」
『なんや、俺のイメージってそんなんなんか? ま、ええけど。それで、<千里眼>の取得条件やったか? なら、とにかく遠くを集中して見ることやな』
「遠くを集中して見る?」
『せやで。<千里眼>っちゅースキルは、遠くの物を鮮明に見ることが出来るようになる……いわば望遠鏡みたいなスキルや。やから、遠くを見る以外に方法はないやろ?』
ニシシと笑ってるような声で、トーマ君は僕にそういってのける。
まぁ、確かに言われてみればそうなんだけどさ……でも、本当にそれだけでいいんだろうか?
『それだけでええかって言われたら分からんけども、<採取>も<鑑定>も、<聞き耳>も……どれも、それに近い行動をしてたら習得できるわけやし、それしかないとも言えるんやないか?』
「んー……言いたいことはわかるんだけどね……。まぁ、やってみるよ」
『おう、やってみ。それで<選定者の魔眼>が使えるようになりゃ、万々歳やろ』
「それもそうだね。その辺はまたどうなったか連絡するよ」
その言葉を締めに、トーマ君は「りょーかい」と念話を終わらせる。
頭の中で聞こえていた、プレイヤー同士の念話特有のノイズが消えたのを確認して、僕は隣りにいたラミナさんへと向き直り、トーマ君との話を簡単に伝えた。
そうするとラミナさんが、「良いところがある」と、頷いたのだった。
「良いところ?」
「ん。高くて、遠くが見える」
「街の中にあるの? あんまりそういった建物は無さそうだけど……」
「違う、外」
そう言って、ラミナさんは先導するように歩きだす。
そんな彼女に、僕は遅れないよう、後についていくのだった。
◇◇◇
そんなこんなで、僕らは今……イルビンの街の南門外にいたりする。
南門は、僕らが初めてイルビンに来たときに入った門で、道なりに進めばジェルビンさんやおばちゃんのいる街にたどり着く。
けれど、僕らは……道なりに進んではいなかった。
「ら、ラミナさん? 結構道から外れてるんだけど……」
「大丈夫、あってる。」
「そ、そうなの? 周りが結構荒れてきたんだけど……」
「歩いて1時間くらい、かかるらしい?」
「もしかして、ラミナさんも行ったことないの?」
心配になって聞いた僕に、ラミナさんは無言で頷く。
って、それじゃ合ってるかどうかわかんないじゃん!?
「大丈夫、目印はある」
「そ、そうなの?」
「ん、そう」
「そっか。なら任せるよ」
それなら少しだけ安心だよ……。
でも、どこに向かうつもりなんだろう?
見た感じ、草原と丘しか見えないんだけど。
「あっ」
「……?」
「あ、いや、ちょっと見たことない素材があったから……」
「採って良い。待つ」
そう言って、足を止めてくれたラミナさんに、僕は「すぐ終わらせるよ」と背を向けて走る。
見えたのは紫色の花。
毒々しい色ではなくて、紫陽花やパンジーのような淡い紫の花だ。
「えーっと……[パープルリリーの花]? <鑑定>してみても、よくわからないなぁ」
「でもアキ様、小さくて可愛らしい花ですね」
「うん。お薬の素材と言うよりも、染色剤の材料になるかもね」
採った花をインベントリにしまって周囲を見てみれば、点在するように同じ色が見える。
群生地ほどではないにせよ、この辺りではよく採れる素材みたいだし、イルビンの人ならなにか知ってるかもしれない。
まぁでも、その辺はまた帰ってから考えるとしよう。
「ラミナさん、おまたせ。それじゃ、行こうか」
「ん」
「にしても、ギルドのあれこれが落ち着いたら、また色々試してみないとね」
「なにかあったら、手伝う」
「あはは。ありがとう」
相変わらずの無表情で、だけど少しだけ楽しそうな声で、ラミナさんは頷いてくれる。
しかし、いろいろ確かめることがあるし、また落ち着いたらリストアップしたりして、確認していかないとなぁ……。
特に、ポーションの改良は必須だろうし。
「中級かぁ……」
「……中級?」
「ああ、うん。ほら、下級ポーションは良品も作れてるけど、まだ中級ポーションは完成してなかったでしょ?」
「アキ、これ」
「ん?」
そう言ってラミナさんが取り出したのは、ポーション瓶に入ったオレンジ色のようなナニカ。
手渡されるままに受け取って<鑑定>してみると……なんと僕の目の前には[中級ポーション]と表示されていた。
って、中級ポーション!?
[中級ポーション:10秒かけてHPが35%回復
頼りがいのある回復量を持つポーション]
「ら、ラミナさん、これどこで?」
「イルビンの薬屋」
「普通に売ってたの!?」
「ん。でもそれが一番効果高いらしい」
ラミナさんの話によると、イルビンの北側にある薬屋で売られていて、イルビンではいちばん効果の高いポーションらしい。
つまり、イルビンでも、まだ[中級ポーション]以上のポーションは出てないってことなんだろう。
しかし、イルビンにあるなら、おばちゃんのお店にもありそうなのに……。
「ああ、そうか……。
「ん、たぶんそう」
「でも、これで分かったことがひとつあるね。イルビン周辺の素材で、[中級ポーション]は作れるって」
「がんばって」
気合いを入れた僕に、応援してくれるラミナさん。
そんな彼女にお礼を言いつつ、[中級ポーション]を返そうとした僕に、彼女は首を振り……「それはあげる。ギルドマスターをしてくれるお礼」と、目をそらす。
……もしかして照れてる?
「そ、そっか。なら受け取っとくよ。ありがとう」
「ん」
「でも、ちょっと気になるなぁ……。少しだけ飲んでみても良い?」
「ん、大丈夫」
「じゃ、ちょっと失礼して」
僕はポーションの蓋を開け、中身を少しだけ口に運ぶ。
その瞬間、ビリッとした感覚が舌の上へと広がり、思わず声が漏れた。
「か、かっらぁぁぁぁぁぁ!?」
「ん、からい」
「知ってたなら、教えてよ!? ああああ、ちょっと水、水!」
「ん、これ」
ラミナさんが出してくれた水袋を受け取って、僕は勢いよく水を飲む。
あまりの辛さに口が熱を持ってるのがわかるくらいに、からい!
今までのポーションとは違いすぎる!
これ、戦闘中どころか休憩中にも飲むの躊躇うやつじゃん!
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