第283話 仮想現実

「秋良、明日から学校なんだから、今日は早く寝なさいよ?」

「分かってるって」


 ドア越しに母さんの声に返し、僕はベッドへとダイブ。

 世界樹の魔物との戦いから、もう5日が経過していた。

 その間にも色々あったけれど、気付けば明日には高校の2学期が始まる。


「でも、今年の夏休みは凄かったなぁ……」


 <Life Game>が始まったのは、夏休みにはいってからだったけれど、たった1ヶ月ちょっとの間で、僕は沢山の事を経験した気がする。


 シルフとの出会いもそうだけど、アルさん達との茶毛狼戦。

 アルさん、トーマ君とのパーティや、カナエさんも加わっての大蜘蛛退治。


 ガラッドさんに『つくる』という意味を教えて貰ったり、スミスさんの熱量に引き込まれそうになったり……。

 第2生産組が来てからは、リュンさん達と出会ったり、ラミナさん達とも出会ったり……ガロンに攻撃されたのもこのくらいの時だった気がする。


 それからイベントが始まって、生産組のリーダーになったり、PKに襲われたり、捕まったり、逃げ出したり。

 と思ったら代表戦に出たりとか、土の神殿に行って魔法を放ったり……。


 これで終わりだろうと思ってたら、世界樹と戦うことになるとは。

 「でも全部上手くいってよかった!」って今なら思える。


「でもさすがに、イベントMVPは驚いたけど」


 結果発表で、アルさんが戦闘貢献度1位、ウォンさんが探索貢献度1位、木山さんが拠点貢献度1位と、どんどん特設ステージに召喚されて賞品なんかを受け取ってたんだけど、一番最後で僕が呼ばれるんだもん。

 思わず「なんで!?」ってツェンさんに訊いてしまったよね。

 全体的な貢献度がそれなりに高くて、なおかつ世界樹戦のトドメをさしていたりとか……もろもろあって、そうなったらしい。

 巻き込まれてばっかりだったのに、良いのだろうか……。


「この後の問題はギルドかなぁ……。新システムって言ってたけど、どうもリュンさんとかラミナさんの視線が痛かったし」


 パーティーよりも大人数でチームになれるシステムってことだけど、何がどうなのかはまたそのうち発表があるらしい。

 ランキング報酬の中には、後々クエストで手に入るギルド設立用のアイテムも先行して入っていたので、運営的には僕らが作ることを期待してるんだろうなぁ……。


「ま、なんにしてもシステムが開始されてからかな。学校も始まるから、いままでみたいにはプレイできなくなるだろうし」


 それに、2学期からは文化祭とか体育祭とか、学校の行事がたくさんある。

 そうなってくると、必然的に時間が取れなくなってきそうだ。

 シルフが寂しがりそうだけど……僕にはどうしようも……ない。


「せめて、土日くらいは会いに行けるようにしないとね」


 そんなことを考えながら、目を閉じる。

 静かに揺らめきながら消えていく意識の隅で、VR機器が起動したような、そんな気がした。


◇◆◇


 同時刻、別の場所で。

 1人の男性がモニターの前で行っていた作業を終え、疲れたように額の汗を拭った。


「これで、やることはひとまず終わったな」


 そう言った彼のモニターには、なにやらメールフォルダのようなモノが映されており、一番上のメールは送信済み、と書かれていた。


「あとは、彼次第か……。上手くいけば良いんだが」


 ぽつりと呟いたものの、その部屋には男性1人しかおらず、その言葉には何も帰ってくることはない。

 しかし、彼はそれすらも楽しそうに「ククッ」と笑い、モニターの表示を変える。

 そこには、アキと共にシルフが映っていた。

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