第281話 道は前にしかない

「ふん。悩んだところで無駄じゃな。道は前にしかないのでのう!」


 思考の渦にハマっていた僕の耳へ、リュンさんの声が突き刺さる。

 それに気付いて彼女の方を向けば、彼女は斧を両手に持って再度突撃を行っていた。


「と、とりあえずリュンちゃんの補助しないとー!」

「アキ、行こう」

「あ、うん!」


 とくに策を考えることも出来ず、ただ突撃するリュンさんの後を追う。

 しかし、やはりある程度のところで厳しくなってきた。


「ふん、先と同じでは仕方がない。少し本気を出すとするかのう」


 前方に待ち構える多数の枝を一瞥しながら、リュンさんは手に持っていた斧を両方ともぶん投げる。

 そして、その斧が枝を数本折り、太い枝に突き刺さるまでの間に、彼女はさらに大きな斧を両手に持っていた。

 いや、ちょっとまって。

 大きすぎない?


「ただの暴力になるからのう。儂としては使いとうなかったんじゃがな」


 彼女がその斧を一振りするだけで枝が次々に巻き込まれ、折られていく。

 ああ、そうか……大きすぎるからか。

 さっきは取り出す余裕がないところまで行ってしまってたから、退くしかなかったんだ。


「リュンちゃんやるー! じゃあ、私もやっちゃうよ!」

「姉さん、あれはまだ……」

「今やらねば、どこでやる! だよ、ラミナ! ラミナはアキちゃんを守っててね!」

「……わかった」


 渋々といった感じに頷いたラミナさんに満足したのか、ハスタさんはリュンさんの近くまでいって槍をしまう。

 そして新たに取り出した槍は、普段使っているものよりもかなり短く、ラミナさんの持っている剣より少し長い程度の短槍……それも2本だった。


「リュンちゃん、右と前をお願い! 私が左を全部やるよ!」

「ふん、かまわん。どうせ斬ったとしてもまた生えてくるからの」

「はーい!」


 お互いに肩を並べたり背を向けたりしながら、寄る枝をことごとく破壊していく。

 リュンさんの方は暴虐といった感じに、破壊の衝動が凄まじいけど、ハスタさんはそれと対照的だ。

 普段の彼女からは考えられないほどに、静かで、そして洗練された動きだった。

 両手に持った槍を、伸びてくる枝ひとつひとつに的確に突き刺していく。

 やっていることはモグラ叩きなのに、速度と正確さがゲームのソレとは段違いだ。


「姉さん、ずっと練習してた」

「そうなの?」

「そう。槍は近づかれると手数で押されるからって」

「ああ、なるほど。それで点で制圧する練習をしてたのか」


 その練習の成果がこれってことなら、ホントすごい頑張ったんだなぁ……。

 増えていく枝にも対応出来てるし。


「やはり、ここらで……厳しいか!」

「リュンちゃん、こっちもそろそろ飽和しそう!」

「耐えろ! 崩壊したらまたイチからじゃぞ!」

「が、がんばるー!」


 さっきよりは進んだけれど、やはりまだまだ距離があるところで、リュンさん達の歩みが遅くなった。

 ドライアドに近づけば近づくほど枝の数も増えて、太さも太くなる。

 だからこそ、1本に対して時間が掛かるようになって……飽和してしまう!

 どうすれば、どうすればいい!?


「やっぱり一度――「そのまま行くでござるよ! アキ殿!」……え?」

「忍法・風魔手裏剣の術!」「複合弓技・ウィンドアロー!」


 僕らの後方から、聞き覚えのある声がしたかと思うと、巨大な手裏剣と共に、風を纏った矢が飛んできた。

 そして――


「上手く避けろよ、ガキ共! 斬乱さみだれ!」


 僕らの……いや、枝よりももっと上から斬撃が降り注ぐ。

 無差別すぎるほどに荒々しく降り注いだ斬撃は、僕らの周囲を囲んでいた枝の殆どを切り裂いてくれた。


「おら、さっさと行け。クソガキ」

「……ガロン? なんで?」

「ああ? トレント共を殺り終わったからだろ。暇だから見に来てみりゃ、アホみたいに苦戦しやがって」

「そっか、ありがとう」


 僕がお礼を言えば、ガロンはなぜか眉間に皺を寄せて「さっさと行け」と武器を構える。

 その言葉に周囲を見渡せば、切り裂かれた枝が復活してきていた。


「アキ、行く」

「うん!」


 [精霊の魔薬]の残り効果時間はもう1分を切った。

 今回で行ってしまわないと!


「チィ! さっきより硬いぞ!」

「リュンちゃん、これ、物理攻撃じゃダメージ入らないタイプだったりしない!?」

「面倒な!」


 ここに来てそんな面倒なのが!?

 僕らじゃ、魔法攻撃なんて……。


「……トーマ、行け」


 思考の渦にまたハマりそうになった僕の耳は、なぜか彼の声を捉えた。

 その瞬間……。


「スミス、頼むで!」

「任せとけ!」


 と、さらに2人の声がして、金の光が黒い鉄を持って僕らの前へと現れた。


「3人協力技ってやつや!」

「サラ、頼む! ――〔黒鉄繋ぎし糸上の爆鎖トリニティ・インフェルノ〕!」


 刹那、僕らの周囲が大爆発を起こす。

 それはもちろん、リュンさん達が苦戦していた面倒そうな枝すらも巻き込んで。


「アキ、行ってこい!」

「みんな……!」


 トーマ君に背中を叩かれ、僕は一歩前へと進む。

 しかし爆炎を突き抜けるように、僕の目の前には枝が迫ってきて――まずい、死っ

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