第268話 花に樹液、それと水
場所を移して作業場の中。
僕は集まってくれたみんなの前で、ハンナさんから得た情報を話した。
「つまり、その魔薬が今回のイベントアイテムであると」
「はい。そう思ってます」
「なるほど……」
「ただ、残された時間も材料も少ないので、ある程度絞ってから調薬に入りたいんです」
オリオンさんの発言に、僕はまっすぐ返す。
特に意見はなく、オリオンさん以外の皆も、強く頷いてくれた。
「そうですね。花に樹液、それと水ですか」
「花に樹液と言われると、まるで紅茶のようですね。ただ、花びらを使った紅茶は……茶葉と一緒に使いますから、まったく同じという訳ではないのですが」
「なるほど……」
オリオンさんが言うには、バラの花なんかが有名らしい。
女性向けの成分なんかが多く抽出できるらしく、紅茶にお湯を注ぐ際、一緒に乾燥させたバラの花びらを入れておくと作れるみたいだ。
なんでも、成分的な意味と、匂い的な意味で人気があるらしい。
紅茶……つまり、葉から出た成分を抽出した飲み物ということなら、ポーションなんかも在り方としては近いのかも知れない。
またイベントが終わった後にでも、花と薬草を同時に煎じて作る方法を試してみても良いかもしれないね。
「まず素材ごとに考えてみましょうか。花も樹液も、手の加え方次第で状態が変わりますから」
オリオンさんはそう言いながら、インベントリから取り出した花を作業台の上に置く。
実際の花とは違うにしても、近しい素材の方が良いと思ったんだろう……取り出された花は、橙色をした大きめの花だった。
「花は花弁……花びらを使うことが多く、先ほどお話しした紅茶に使う時なんかは、乾燥させたものが主流ですね」
「ふむふむ」
「花だけではないのですが、食品……例えば魚などは、乾燥させることで旨味成分が凝縮されたものになることもあります。干物や燻製なんかがわかりやすいですね」
そういえば乾燥させた後の薬草って、いつも粉末に変えるばっかりで、乾燥させた状態からお湯で抽出したことはなかったかも?
もし他のものと同じように、成分が凝縮されるとしたら……もっと効果が高くなるのかも知れない。
これも帰ったら試してみよう。
「花といえば、後はカミツなどもありますが……これは今回使わないかと思います」
「カミツ……ですか?」
「ええ。花の蜜と書いて
なるほど……。
確かにどちらも植物から取れる液や蜜だし、一緒に使うのはあまり想像出来ないかも。
もちろん加工した先の状態だったらあり得そうだけど、花から蜜を取って、樹液を別の状態にして……まで考えるのはさすがに後回しで良さそうだ。
「オリオンさん、ひとつよろしいですか?」
オリオンさんの説明を受け、カナエさんが手を挙げながら口を挟む。
彼女はオリオンさんの許可が出ると、立ち上がり思いを口にした。
「先ほど花びらは乾燥させた状態で使う、と仰られていましたが、生の状態で使うのはどういったことに使うのでしょうか?」
「そうですね……色々なことに使いますよ」
オリオンさんは顎に指を当てつつ、少し考える素振りを見せてから、「例えば」と言葉を繋ぐ。
「サラダなど色合いを見せる場合や、逆に風味を抑える時などは生のまま使いますね。ドライ――乾燥させることで味や匂いが増すことは多いですが、そればかりでは駄目なことも多いですから。匂いと匂いが喧嘩してしまっては元も子もないですからね」
「なるほど……」
つまり、使う状況に応じて、乾燥したものを使うかどうか決めるってことかな?
もちろん量を減らして使えば大丈夫なこともあるだろうけど……数だけじゃ抑えきれないものもあるだろうしね。
「そういえばオリオンさん。切り方で素材の状態が変わったことはありますか? 僕の方で1つ、そういったものがあったんですが」
「ふむ。素材の状態が変わったというのが少し分かりませんが……お肉や野菜などを切る際に、筋や繊維の向きを気にすることと似ているのかも知れません」
「筋や繊維ですか?」
「例えばお肉にしても、筋を切ることで柔らかく仕上げることが出来たり、しっかりと味が染みこみやすくなるなど、変化が訪れます。もちろん野菜に関しても、同じく変化が起きますね」
オリオンさんが教えてくれたのは、現実世界で言うところのピーマンや玉葱といった野菜のことだ。
どうも、切り方で栄養素が変わるとかなんとか……それが効果に表れてるのかは分からないけれど、食べたときの味が少し違うらしい。
んー……となると、切り方に関しては実物を見てみないとなんとも言えなさそうだ。
「とりあえず花に関しては、生と乾燥の2パターンでやってみるのがよさそうですね」
「そうですね。まず数枚ほどだけ乾燥させてみて、状態の変化を見てみましょう。その上でなにか変化が起きていれば、その時にまた手順を考えてみても良いかと思います」
「なるほど……そうしてみます! それじゃ次は樹液ですね」
僕はそう言いながら、作業台に置いておいた樹液の瓶を前へ出す。
量としてはそこまで多くないけれど……色々試すにしても、十分な量はあると思う。
しかし樹液、か。
混ぜるくらいしか思いつかないんだよねぇ……。
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