第267話 行ってくるでござる
「ではアキ殿。よろしく頼むでござるよ」
「あ、はい。やったことないけど、頑張ってみます」
「気負わずとも良いでござる。向きや高さは拙者の方で弄れるように改良を加えたでござる」
忍者らしからぬドヤ顔を見せて胸を張る彼に、なぜか微妙にイラッとしつつも、僕はその糸と、それが繋がった木の棒を手に取る。
そもそも今、僕らは何をやっているのかというと、ハンナさんの指定した素材を取りに行くための行動を起こした直後だった。
なぜなら忍者さんの遠距離移動手段――それは、凧を利用し、空を飛んでいくという、まさに奇想天外の移動方法だったからだ。
本来、凧というのは本体の部分に風を当て、上へと引き上げる力……つまり揚力を利用し、上空へと飛ばすものらしい。
しかし、そう説明してくれたのは忍者さんだったが、その直後に、こうも言っていた。
――この凧は、走る必要がないでござるよ、と。
「それで、どうやって飛ぶの?」
「うむ、任せるでござる。少々危険ゆえ、拙者から離れておいて欲しいでござる」
「危険? よくわかんないけど、離れておけばいいんだね?」
「うむ。大体5mほどで良いでござるよ」
指示を出す忍者さんに首を傾げつつ、言われた通りに僕は彼から離れる。
それと同時に他の人にも、彼から離れるように指示を出しつつ、僕は一応ラミナさんを背の後ろへと隠した。
危険ってことだし、何かやるってことだろうし?
「では、アキ殿! よろしく頼むでござるよ! ――忍法、
言って彼は、胸元で人差し指を立てて手を合わせる……いわゆる、忍者っぽいポーズを取った。
直後、彼の地面が隆起し、そして爆発する。
「……は?」
そのまま爆風に乗るように凧が浮き上がり、どんどん上空に上がっていく。
なるほど、爆発の威力を利用して……って、危険過ぎるでしょ!?
「アキ、糸」
「はっ! そうだった」
少しずつ上空に上がっていく糸を、弛みすぎない程度に足したり引いたりしながら、持ち手代わりの棒のところまで出しきる。
上空の忍者さんは夜闇に紛れてしまい、もう全く見えない。
しかし、最大高度に上がったことはわかったのだろう、糸を伝い、なにやら木の板が落ちてきた。
「ん? 何か書いてある……」
「行ってくるでござる! みたい」
「そ、そっか……」
妙な声真似を披露しつつラミナさんが読み上げると、タイミングをはかっていたのか、凧が少し軽くなった気がする。
凧から忍者さんが離れたんだろう。
彼が落ちてこないってことは、上手いことなにかしらの手段で飛んでいったのかもしれない。
僕はそんなことを考えながら、上空を漂っていた凧を回収した。
◇
「行ってくる」
「アキちゃーん! 行ってくるねー!」
「ふん。なぜ儂まで」
「そんなこと言って、行きたそうにしてたじゃん!」
「それはお主の見間違えじゃと言っておるじゃろう!」
「時間ない」
「ぬう……仕方ない」
素材の1つ――黄色い花を取りに行くため、ラミナさんが集めたメンバー……それが、実の姉であるハスタさん。
そして、こういうことには参加しなさそうな和服少女――リュンさんだった。
まぁ、話を聞いてるとハスタさんが強引に連れてきたって感じなのかもしれないけど。
「気を付けて行ってきてね。無理はしないように」
「ん、大丈夫」
「ふん。誰に向かって言っておる。儂が苦戦するとでも思っておるのか?」
「リュンちゃんに殺されないように頑張る!」
リュンさんを揶揄するようなハスタさんの言葉に、ラミナさんも深く頷いた。
それに対し「ぬぅ……」とリュンさんは唸るだけ。
トーマ君やフェンさんに対しては怒りそうな気がするんだけど、ハスタさん達には怒らないんだね……。
ウォンさんの言ってた「仲間だと思ってる」っていうのは、本当のことなのかもしれない。
そうやって考えると、口数が少ないラミナさんに元気なハスタさん、強気で喧嘩腰のリュンさんとタイプも違うのに一緒にいるっていうのもなんとなく頷ける気がする。
――まぁ、ハスタさんが無理矢理連れてきたって言われても全然頷けるんだけど。
そんなこんな考えていれば、彼女達の姿は結構遠くなっていた。
ちょっと心配ではあるけれど……多分大丈夫だろう。
それよりも僕は僕でやることをやらないと。
まず、忍者さんにお願いした、精霊の泉の水に込めれる魔力は水の魔力。
なら、頼むのは水魔法のエキスパート……つまり、カナエさんになるだろう。
それから、ラミナさん達にお願いした黄色い花。
それと水の魔力を込めた水に、僕の持っている樹液を加える……そのレシピを考えられる限り考えることだ。
手順とひとつにいっても、カンネリの葉のようなケースもある。
切り方や、混ぜ方、順番に、温度……。
これらをすべて合致させないとお薬としては完成しない。
「それに、材料にも限りがある……」
だからこそ、無駄にはできない。
調薬のメンバーが持っている調薬の知識と、オリオンさんが持っている調理の知識。
それらを総動員してでも、どうにかしないと……。
「よし。まずはカナエさんに連絡を取って、そのあとオリオンさんに連絡を取ろう」
やることはまだまだ山積み。
時間も迫っている。
けど、不思議と……なんとかなりそうな気がした。
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