第250話 対策と対応

「――と、いうことで。みんなの意見を聞きたいな、と」


 あれから、時間は過ぎて夜。

 僕はハンナさんから聞いた話をみんなに伝えていた。

 みんな、というのはアルさんやトーマ君、カナエさんに加え、戦闘プレイヤーから代表としてテツさんと、ウォンさん。

 生産プレイヤーからは、オリオンさんやレニーさん、木山さん。

 それに、PKの件があったけれど、今では和解したこともあり、シンシさんとヤカタさんも加わっている。


 あ、あと、無言で僕の隣に椅子を置いて座ったラミナもいたりするが。

 ちなみに、後から聞いた話だけど、このときハスタさんはリュンさんと訓練エリアで戦っていたらしい。

 かなり手加減されてたにも関わらず、まったく攻撃が当たらなかったらしいけど。


「ふむ、なるほどな。手をつけられないから、どうにかして欲しい、か」

「大体理由はわかったんやけど、もう魔物になっとるんやろ? 悠長に話しとっても大丈夫なんか?」

「ハンナさんがいうには、魔物化はしたけれど、世界樹自体の大きさが大きさなので、動くようになるまでには時間がかかると思うって。正確にはわからないけど、変化速度から察するに明日の夕方くらいじゃないかなって」

「では、それまでにこちらも対策と対応が可能な状況にしておかねばなりませんね。アキさん、その辺りの情報は?」


 「あ、うん。聞いてるよ」と僕はオリオンさんの問いに頷いて、再度みんなを見回す。

 ピリピリとした緊張感のある雰囲気……だけど、なんだか少し安心するようなそんな感覚もあって、不思議と僕は緊張をしていなかった。


「まず世界樹を止める方法なんだけど、手段としては2つあるみたい。1つは……世界樹を倒すこと」

「「無理な」」


 綺麗に2人の声が重なって、僕の耳に届いた。

 そしてそれに追従するかのように、「無理ですね」とオリオンさんが頷いたり、「無理かと思います」とレニーさんが苦笑したり、「無理でしょうね」とシンシさんが笑ったりと……。

 文句なしの満場一致で、無理みたい。 


「まぁこれに関しては、僕もそれは無理ってハンナさんに言ったしね。だから、本命はもう片方かな?」

「アキ、わざと?」

「うん。でも、一応言っておこうかなって」


 その方が次の案をみんなで考えられるだろうし。

 僕の答を聞いて、みんなが納得したみたいに頷いた。


「なんや、分かってきたやんか。んで?」

「ああ、うん。もう1つの案は世界樹の中にいるドライアドを救出? して、酔いを覚まさせてから、制御してもらうって方法。ただ、この場合だと世界樹の中に入らなきゃいけなくなるんだって」

「世界樹の中? どういうことだ?」

「えっと、色々話を聞いたんだけど、要約すると……ダンジョンみたいになってるらしいよ。動くダンジョン。ドライアドは、どうもその中に囚われてるみたい。一応、動くよりも前に入れないかって聞いてみたけど、それは危険だってさ。中に大量のマナが渦巻いてるとかで、落ち着いてからの方がいいって」


 「ほう……」と音を漏らして、アルさんが目を閉じて考え始めた。

 きっとアルさんのことだから、色んなことを考えて、その上でどう対応するかを考えてるんだと思う。

 だから僕たちは、あえて誰も喋らず、彼の思考が纏まるのを待った。


 「つまり、だ」目を開き、ゆっくりとアルさんは話し始める。


「この作戦を成功させるには、最低でも3つの部隊に分ける必要がある」

「3つ、ですかい?」

「ああ、3つだ。多分、テツの疑問はこうだろう? ――3つ目の部隊がなんのために必要なのか、だ。そこで、みなにひとつ想像して欲しい。あの大樹が暴れた場合、何が起きると思う?」


 何が起きるか、か。

 考えようとした僕の袖を、隣のラミナさんが掴んだ。

 ああ、一緒に考えよう? ってことね?


「えーっと、森が破壊される?」

「ん、あと、地震も」

「ああ、そっか地震とかも起きるね」

「姉さんが喜ぶ」

「あー、そんな気がする。突っこんでいきそうだよね」


 僕の想像に彼女も大きく頷く。

 魔物とかがいても、ただひたすらに……ん?


「あ、そうか。魔物が逃げてくるんだ」

「そういうことだな。面倒なことにあの大樹は島の中心にある。そこで暴れられると、四方八方に魔物が逃げ始めるだろう」

「つまり、拠点を守るため、ということですか?」

「ああ、その通りだ。前線ではないが、ある程度の敵と戦う可能性があるとすると、それなりの戦力を残しておきたい」


 アルさんの言葉にみんな納得したのか、反論意見は出てこない。

 さすがだなぁ……僕は影響とか全然考えてなかったよ。


「あとの2つはそのままだ。被害を広げないために大樹の足止めをする部隊。そして、大樹の中を進む部隊だ」


 ――最低3つの部隊。

 問題は、これをどう分けるか、ということだろう。

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