第246話 なんとなく思いつく

「ガサガサガッサ~、ガッサガサガッサ~」

「……何の歌?」

「草をかき分けて進む冒険の歌!」

「姉さん、静かに」

「……はい」


 あの後ガロン達と分かれてから、僕はラミナさん達を誘って風の神殿へと向かっていた。

 どうも引っ越し自体はすでに終わっているみたいで、学校への挨拶は同じ日に終わらせておいたらしい。

 後からにすると、ハスタさんが動かなくなるから、とかなんとか……。


「お」

「ん? 何かあった?」

「うん、ちょっと時間掛かりそうだけど、良いかな?」

「大丈夫。姉さんは前方側を、ラミナが後方側」

「はーい。さぁ、どんとこい!」

「静かに」

「んぐっ……はい」


 相変わらず仲の良い2人の会話を聞きながら、僕は目的のためにノミと木槌を取り出し、採取対象となる木へと向かい合った

 素材の反応は、どうやら木の内側。

 樹液とかそういった類いのものかな?


「えっと、まずは枝の先端を削って……簡易的なくさびに、っと」


 手頃な大きさの枝を拾い、ノミを入れて鋭く尖らせていく。

 思っていたよりも少し硬いため、時折木槌で叩いたりもしながら、徐々に徐々に細く、鋭く……。


「よし、こんなもんかな。次は木にノミと木槌で傷を付けて。む、こっちも結構硬いな」


 何度も何度も刺しては叩いて削って、刺しては叩いて削ってを繰り返していく。

 こういうときはやっぱり、斧とか欲しいなぁ……。

 以前、伐採をしたときは斧も扱えたし、きっと採取道具に含まれてるんじゃないかな?


「ただ、ツルハシと同じくらい重いから、まだ戦闘じゃ使えないだろうけどね」


 アレを持って戦ったら、1回で足がガクガクになりそう。

 あと、振りかぶる必要があるから、使うの難しそうだしねー。

 斧を使って戦ってるジンさんやリュンさんは凄いと思う。


「いや、僕から見れば、戦える人みんな凄いんだけど」

「アキも凄い」

「そうだねー。アキちゃんも充分凄いと思うよー? これ、なにやってるの?」


 作業をしていた僕の独り言に、左右から反論が飛び込んできた。

 ハッとして左右に顔を振れば、僕の手元を見ている2人の顔。

 い、いつから聞かれてたんだろう……。


「え、えーっと……これは樹液を採取しようと思って、木に傷を入れてたんだよ」

「へー。先にやってたこの枝はー?」

「そっちは傷を入れた木に差し込んで、樹液を流れさせるための楔。斜め上向きに差し込むことで、樹液が枝を伝って流れ落ちてくるって仕組みだよ」

「アキ、物知り」

「いやいや。採取のスキルレベルが上がったからだよ。なんとなく思いつくんだ」

「へー! 武器スキルとかと同じだねー! 持ち方とか振り方とかなんとなく分かるって感じ!」


 やはりスキルとはそう言うモノなんだろう。

 だからこそ、使い方も発動内容も分からない<喚起>スキルは変なんだ。

 使い方は<予見>も分からないけれど、<予見>はまだ発動内容は分かる。

 けど<喚起>は……。


「でもアキちゃん。これだと下まで届かないよー? どうするの?」

「え、ああ、うん。そこはコレを使って、瓶に落ちるようにしようかと」


 思考のループに入りそうになっていた僕の耳に、ハスタさんの快活な声が刺さる。

 あぶないあぶない、考えるのはまた今度だ。

 そう思って、僕はインベントリから[端切はぎれ]を取り出して、ハスタさんの持っていた枝に結びつけた。


「なるほど」

「これだったら枝を探すよりも手軽だしね。素材が反応してる場所がちょっと高い位置だったし」

「アキ凄い」

「うんうん。アキちゃんはやっぱり凄いねー!」

「いやいや」


 ちょうど持っていた……というか、これはシンシさんに貰っていた布だから。

 元々は薬の材料を包むために貰った布だけど、拠点に戻った際に洗ってはおいたし、大丈夫なはず。

 それにこの布、端切れとして渡されたけどすごく綺麗に織られていて、粘度が高い樹液でも、ちゃんと滑り落ちてくれそうだし。


「で、2人はなんで僕を見てるの? 周辺の警戒は大丈夫? 僕が言える立場じゃないけど」

「大丈夫」

「一応、周りから臭いも音も、気配も無いことは確認してるからー。それに、私もラミナも同じくらいの距離が分かるし、片方が逃しても、もう片方が気付けば大丈夫!」

「姉さん、真面目に」

「や、やってるよ!? 大丈夫だよ!?」

「そう」


 相変わらず妹の方が立場が強い姉妹だなぁ……。

 姉妹といっても、双子だし、そこまでの違いはないのかもしれないけど。


「よし、これで終わりっと。樹液が溜まるまで時間かかるから、その間にごはんでも食べよっか」

「はーい! 賛成でーす!」

「ん」

「今日はオリオンさんにお弁当を作って貰ったので、それを」

「わーい! 豪華、豪華ー!」

「姉さん、静かに」

「わ、わーい……」


 静かに喜ぶハスタさんに笑いつつ、僕らはのんびりとごはんに手を伸ばす。

 良いなぁ……やっぱりこういう方が、僕には合ってるなぁ……。

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