第247話 そういうところ

「やっぱり、オリオンさん師匠の料理はすごい! 美味しい! すごい!」

「姉さん」

「おいしい。すごい。おいしい……」

「あ、あはは……」


 ラミナさんに諫められつつも、小さな声で美味しい、美味しいと言いながらごはんを頬張るハスタさん。

 そんな彼女を見つつ、僕らもオリオンさんが作ってくれたお弁当へと手を伸ばした。


 僕としてはハスタさんの元気な所とかに、パワーを貰ってるような時もあるから、美味しいものとか嬉しいこととかあった時は、いっぱい騒いで欲しいなぁって思うんだけどね。

 ただ、いかんせん場所が場所だし……。


「ごめんね、ハスタさん……」

「アキは悪くない」

「それはそうなんだけども……まぁ、仕方ない」


 これ以上この話をしてもハスタさんが責められるだけなので、とりあえず話題を変えよう。

 うーん……あっ。


「そういえば神殿を全部攻略したけど、特に何も起きなかったね。いつも通り、光の柱がどーんとはしたみたいだけど」

「残念」

「だねー。あからさまな感じに四方に置かれてるし、絶対何か起きそうだったんだけどなー」

「何か起きそうって……」


 そんな、アトラクションみたいなノリで言われても……。

 それに何も起きなかったから、今日こうしてのんびり採取に出れたわけだし、僕としてはこっちの方が嬉しいかな。


「こう、どーんって全部の神殿から光が上がってー、上空で合体してー、島の真ん中で何か変化が起きる! とか期待してたのにー!」

「姉さん……」

「むぅ……」


 ハスタさんの説明に対してか、それとも声を大きくしたことに対してか……ラミナさんが残念な人を見たような声で、ハスタさんを諫める。

 さすがに妹にそんな声を出されてしまったからか、ハスタさんも少し口を尖らせて……これは、拗ねてる!?


「あ、あはは……でもそんなこと起きてたら、今頃大変なことになってそうだよね。探索とか、補給とか」

「アキ。お仕事いっぱい」

「だね。もちろん、お薬を調合するのも好きだけど、せっかくいつもと違う場所でイベントしてるんだから、採取とか色々やりたいかな? 今日みたいにさ」

「そう」

「うん、そう」


 応えるラミナさんは相変わらずの無表情だけれど、なんだか少しだけ喜んでるように見える?

 美味しいごはんを食べながら、のんびりとした時間。

 いいなぁ……やっぱり。


「んー? アキちゃんとラミナって……なにかあった?」


 のんびりとした時間を楽しんでいた僕らを見ながら、ハスタさんが突然そんなことを言ってきた。

 突然すぎて「ん? 何が?」と僕が返す横で、ラミナさんもよく分からなかったのか、首を傾げる。


「昨日一緒に出かけた時も思ったんだけど……なんだか、仲が良いっていうかー」

「まぁ、仲は良いんじゃないかな? いや、僕の思い込みだったらアレだけど……」

「大丈夫」

「そう? なら良かった」

「ん」


 軽く頷いて、ラミナさんはまたゆっくりとごはんを食べる。

 ハスタさんは勢いよく食べてたけど、ラミナさんはゆっくりしっかり噛んでる……。

 双子なのにここまで違いが出るとは……。


「そ、そういうところー! なんで!? なにがあったの!?」

「姉さん」

「……はい」


 なんだろう、学習しないというか、ラミナさんも少しぐらいは見逃してあげても良いのに……。


 でも、ラミナさんと僕か。

 何かあったって言われると……やっぱり、あのPKの時かなぁ……。

 けど、あの時の話を、こう改まって言われるとちょっと恥ずかしい気も。


「あのね、ハスタさ――」

「あっ、えぇぇ!?」

「は、ハスタさん!?」

「姉さん、静かに」

「ご、ごめ……って違う! 2人とも、あれ! あれ!」


 三角形の形で座っていた僕らの、ちょうど僕とラミナさんにとっての死角。

 つまり、僕とラミナさんの後ろ側を指さしながら、ハスタさんが勢いよく立ち上がる。


 「なにー?」と言いながら、ハスタさんの指差す方へと顔を向けると、そこには――。


「な、んだ……これ……」


 虹色に輝く光のシャワーを受ける、1本の大樹が……僕の視界に飛び込んできた。

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