第245話 凧

「げ」

「よぉ、相変わらずの挨拶だなぁ?」

「……ガロン、何してるの?」

「見りゃわかんだろ」


 そう言われて改めてガロンの姿を見れば、手の先から伸びる1本の……糸?

 でも、この糸、どこに繋がって……。


「あ、凧?」

「ただの凧ならいいんだがな……」

「……?」

「リーダー! そろそろ下りるでござるー!」

「え」

「まぁ、そういうことだ。お前も手伝え」

「なんで僕まで」

「でけぇから重いんだよ。こっち持ってろ」


 僕の返事も聞かず、手元にあった糸を僕に渡してくる。

 仕方なくそれを受け取った僕を尻目に、ガロンは手先に伸びる糸へと手を伸ばして無理矢理引っ張った。


「おぉおぉ!? り、リーダー! もうちょっと優しく、優しくでござるよぉぉ!?」

「うるせぇ! 黙ってバランス取りやがれ!」

「うわ、これはひどい……」


 ガロンが糸を引っ張る度に、視界の中を凧が動き回る。

 あ、回った。


「忍者さん、大丈夫なのかな……」

「知るか。自業自得だろ」

「いや、これはガロンが悪いよね?」


 僕の追求には聞こえないふりをするみたいに、無言でガロンは糸を引っ張る。

 いや、だからそんなに無理矢理はダメだって!


「「あ」」


 グラリと揺れて、強風がナイスタイミングで……


「へぶぅ!?」


 見事なくらいのストレートに、落ちた。

 ……しかもあれ、忍者さんがいる方が下になってたような。


「ガロン。忍者さん、生きてる?」

「……おう」

「これ、あげるから、謝っておいで?」

「……すまん」


 さすがに墜落させたことは悪いと思っているのか、僕の差し出したポーションを素直に受け取って、ガロンは墜落した凧の方へと走っていった。

 いつもあれくらい素直だったら良いんだけどなぁ……。


「忍者さん、大丈夫?」


 走らない程度の速度で近づいて、ガロンの後ろから墜落した彼に声をかける。

 あのまま放置して離れるのは、僕には出来なかったし。


「お、おぉアキ殿。この通り、生きてるでござるよ」

「殿って……。なら良かった。はい、これ。糸を纏めといたから」

「これはかたじけない。なるほどなるほど、糸の扱いが急に雑になったのはそういうことでござるか。リーダー」

「あぁ? 何が言いたいんだよ」

「うむうむ、拙者には分かっているでござるよ。でもリーダーはもう少し大人になっ――」


 何かを言っていた最中の忍者さんが遠くに飛んでいく。

 攻撃は出来ないはずだけど……あ、投げたのか。


「黙ってろ!」

「リーダー、いきなり投げるのは反則でござるよー」

「てめぇが余計なことを喋るからだろ」

「いやいや、これは余計ではなく助言でござるよ。拙者はリーダーの事を思っているのでござる」

「それが余計だっつってんだろ……」


 容赦の無いボケとツッコミ……漫才か何かかな?

 それにしても、今日は――


「2人だけなの? 他の2人は?」

「今日は所用があるみたいでござる。なので、試してみたかった事をしていたのでござるよ」

「ああ、なるほど……」

「しかし、まだまだ改良が必要でござるな。凧側で方向を弄れるようにしておかねば……」

「あ、うん。がんばって?」


 僕もお薬を作るのは好きだけど、忍者道具を作成する楽しみはちょっと分からないなぁ……。

 というか、この凧って手作りだったのか……。


 って、そんなことはどうでもいい。

 ラミナさん達は……っと、ログインしてるみたいだ。

 今日、風の神殿付近に行きたいし、誘ってみて大丈夫だったら行こうっと。


「あ、そうだ」

「あん?」

「アキ殿? なにか?」

「あのさ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど……2人って、風の神殿辺りって行ったことある? あったら、ちょっと敵の種類とか教えてもらえたら嬉しいかなって」


 敵を知り、己を知れば、百戦危うからず……だし。

 出来れば先に知っておきたいし?


「ああ? なんで俺がそんなことを教えなきゃなんねえんだ?」

「さっきのポーション」

「……」

「リーダー、恩を仇で返すのはかっこ悪いでござるよ……?」

「薬が必要になったのは誰のせいだと、思ってんだ!」

「それは、リーダーが乱暴に扱ったからであろう?」

「……チッ」

「拙者は凧を直すでござる。アキ殿にお伝えする役はリーダーにお任せするでござる」

「あ、おい!」


 もう聞こえないといった感じに、忍者さんは背中を向けて凧の修理に手を付ける。

 強制的に残された僕らは仕方なく顔を突き合わせて、情報の交換を始めた。


「っと、こんなもんだ。コレで良いか?」

「うん、ありがとう。助かったよ」

「……なんだって俺がこんな」

「まぁまぁ、次からは凧を優しく扱うんだよ?」

「黙ってろ」

「はいはい」


 心底嫌そうな顔を晒すガロンに笑いながら、「さてと」と僕は立ち上がる。


「それじゃ、僕。友達に連絡して風の神殿付近に行ってくるから」

「ああ」

「うむ、気を付けるのでござるよー」

「はーい。忍者さんも修理、頑張ってねー」

「問題無いでござる。拙者の手にかかればこの程度、でござるよ!」

「そっかそっか。それじゃ」


 手を振ってから背を向けて、ラミナさんへと念話を飛ばす。

 ログインしてるのは分かってるし、多分出てくれると思うんだけど……。

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