第233話 仕掛けごと

 風を読む能力、か……。

 なんだか、スミスさんみたいに自分の作業に活かすってことも難しいなぁ……。


「まぁでも、こういった洞窟の中なんかじゃ重宝するんじゃないっすかね? ほら、よく漫画とかで見るじゃないっすか。出口に繋がる道を探すときに、風が抜ける方をーとか」

「あー、確かに。そういった状況なら使えるかもね」


 ただ、そんな状況になることがほとんど無いっていうのがアレだけど。

 強いて言えば、今は神殿っていうか、天然洞窟みたいなのの中だけど……。


「試しにちょっと集中してみたらいいんじゃないっすか? 俺だと、火の中を見てるようなイメージでするんすけど、アキさんの場合は、風を目で見るみたいな感じじゃないっすかね?」

「ふむふむ。こうかな……?」


 わかりやすく風のイメージカラーは緑にしよう。

 シルフの色と一緒なら、僕の中のイメージとしても定着してそうだし。


「どうっすか? なにか感じないっすか?」

「んー……あんまり変化は無いけど、強いていえば、なんだかこの部屋の中心に渦があるように見える……かな?」


 正直、これが本当に風を見ているのかは分からないけれど、この部屋の中心……僕らの頭より高い位置に微妙に風が渦巻いてるように見える。

 すごくうっすらと、だけど。


「そろそろえーか? アルが戻ってこいってよ」

「あ、うん。大丈夫……だよね?」

「問題無いっす。話すことは話せたんで」

「あいよ。そんじゃ戻ろうや。そろそろ探索組もなんか見つけてるころやろうし」


 突然響いたトーマ君の言葉にシステムの時計を確認すれば、探索を担当したパーティーが出てから既に30分ほどが経過していた。

 なんだかんだで15分程話をしていたわけで……さすがに呼び出されても仕方ないかな?


「お、おかえり。ちょうど今、連絡が入ったところだ」

「そか。なんて?」

「どうも、奥で道が合流したみたいだな。それぞれに数回程度戦闘があったらしいが、難なく対処できたらしい」

「そかそか。まぁ、一応は攻略組ってことやしなぁ」

「そうだな。その辺りは特に心配していないが……」


 アルさんはそこで不自然に言葉を切る。

 その辺りはってことは、多分戦闘面以外の事で心配してることがあるってことかな?

 んー……戦い以外でってなると、探索的なことなのかなぁ……?


「ま、なんかあったら連絡してくるやろ。それまではのんびりしてようぜ」

「それはそうなんだが……万が一、仕掛けごと壊したりしないだろうかと」

「さすがにソレは……ねぇだろ?」

「そう思いたいがな」


 そう言って深く息を吐くアルさんの顔は、まるで最下級ポーションを飲んだ時みたいに、眉間に皺が寄った、なんとも言えない顔だった。

 アルさんがそこまで顔に表すってことは……前科があるんだろうか?

 でも、すごい懸念がある人にアルさんが任せるとも思えないし……。


「その、今奥に行ってる方に気になる人がいるんですか?」

「あー、本人に悪気があるわけじゃないんだが……少しばかりな」

「奥で合流してたってことですし、心配でしたら僕らも奥に向かいますか?」


 元々はサポートや救援のために残ってたってわけだし、全部が合流してるなら僕らが動いても問題無いだろうし。

 それに、そろそろ動かないとちょっと暇すぎるし……。


「確かにな。その方が良いか」

「せやったら、すぐにでも動けるようにしよか。念話で連絡しとくわ」

「ああ、頼んだ。移動隊列としては、俺とトーマを先頭に、リア、ティキ、生産職パーティーを中心に、殿はジンが入ってくれ」


 アルさんの指示に各々返事を返しながら、手早く荷物を纏めていく。

 と言っても広げていたのは、オリオンさんの入れてくれたお茶と、お菓子くらいなんだけど。

 ただ待ってるだけだと暇だからと、オリオンさんが出してくれたのだ。


「おーけーや。あっちは小部屋で小休止に入るらしいわ。合流するまで待機ってことやな」

「すまない、助かる。それじゃ俺たちも行こうか」


 ガシャッと背中の大剣を抜き、前へと構えた状態でアルさんは先へと歩き出す。

 それに倣うように横へトーマ君が付き、僕らも続く形でその場を後にした。

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