第232話 不思議な力
「ええぇ……むぐっ!?」
「静かにっ、静かにっすよ。アキさん」
もがもがと、口元を抑えられて声にならない声を上げる僕を、スミスさんが必死に止める。
さっきよりも抑えるのが早いってことは、スミスさん……僕が声を上げるって予想してたのかな?
「あ、あのサラマンダー? 本当に男性、です?」
「うん! 嘘は吐いてないよ」
サラマンダーの返事に、聞いたシルフ自身、また驚いた表情を見せる。
正直、彼……サラマンダーが男って聞いたら、かなりの人が驚いたりすると思う。
というか、納得はまず難しいと思うんだよね。
「あの、シルフ……シルフは、女の子だよね?」
「アキ様!? 当たり前ですよ!」
「だ、だよね。うん」
口元から手を外してもらえて、色んな意味でほっと息を吐く。
そうして、もう一度まじまじとサラマンダーを見てみるも、やっぱり女の子にしか見えない……。
「う、うぐぐ……」
「アキさん、アキさん……。諦めてほしいっす。コイツはホントに男っすから……」
「確認したの……?」
「……したっす」
少し虚ろな目で、スミスさんは首を縦に振って見せる。
きっと、彼にとっても衝撃的な出来事だったんだろうなぁ……。
想像するだけでも難しいのに、それが現実になって襲ってくるって、中々無い経験だと思うし。
「と、とりあえずサラの性別については置いておくっす。そんなこんなで、俺はこいつと契約してるってことが伝われば、ひとまずはOKっすよ」
「あ、うん。それはわかったよ。話してくれてありがとうね」
「いえいえ、こっちこそお伝えするのが遅くなって申し訳なかったっす」
このまま脱線し続けるわけにもいかないと、スミスさんが大きく手を振りながら話を戻してくれる。
だから僕もそれに乗るように、サラマンダーの姿を視界からそっと外した。
見てたらそっちに気を取られそうだし。
そういえば、スミスさんが契約したのは、確か……僕と会う少し前って言ってたっけ?
確か僕の前で鍛冶技術を見せてくれた時に、シルフが何か言ってたような……。
えーっと、なんだったっけ?
「シルフ。スミスさんの作業を見た時に、何か言ってなかったっけ?」
「ん? そーなんすか?」
「うん、確か。シルフ覚えてる?」
僕の言葉に、スミスさんが反応して声を上げる。
でも、話を振られたシルフは特に声も出さず、困惑したような顔で首を傾げていた。
「私がスミス様になにか……?」
「いや、えっと……スミスさんに何かを言ったっていう感じじゃなくて……。そうそう、不思議な感じがするって言ってたような気がする」
「不思議な……あぁ、確かに。作業風景を見ていて、なにか不思議な力のような……そんなものを感じた覚えはあります」
「多分、サラとの契約で手に入った力のことっすかね?」
「力? なにそれ?」
要領を得ない僕に、スミスさんが教えてくれたのは、契約した後から不思議と炉の中の温度がわかるようになった事。
火の調整はサラマンダーがやってくれてるみたいだけど、鉄の温度や炉内部の温度に関してはサラマンダーは手を出してないみたい。
スミスさんが言うには、多分称号の力じゃないのかなってことみたいだけど。
「称号って……僕も持ってるけど、この風の加護ってやつ?」
「そうっすそうっす。俺にも火の加護ってのがあるんすけど、たぶんそれじゃ無いかなと」
「でも、そんな特別な何かって感じたこと……」
――あ、あった。
「……もしかして、シンシさんとの戦いの時に、風の中動けたのって」
「そういえばあの時、暴風の中シンシさんはフラフラだったっすけど、アキさんは動けてたっすね。そうなんじゃないっすか?」
「シルフも手助けしてないって言ってたから不思議だったんだよね。なるほど、称号にそんな効果が……」
「まだあくまでも可能性っすけどね。称号じゃなくて、契約したことによる力かもしれないっすから」
スミスさんのまとめに「そうだね」と返しながらも、僕の中では不思議と、称号の力っていうのが正解な気がしていた。
でも、風を読む力、か。
どこで使えるんだろう……?
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