第231話 火の精霊

「アキさん、ちょっといいっすか?」


 アルさんと僕らのパーティーを除く、他のパーティーが、部屋にできた穴を調べに移動した後、準備も終えて暇を持て余していた僕へと、スミスさんが声をかけてきた。


「いいですけど、どうしました?」

「ここだと話しにくいことなので……」


 スミスさんの方へと体ごと向けた僕の耳元で、彼が小さくそう告げる。

 なにやら、他の人には内緒にしておきたいことのようだ。

 ふむ……一応アルさんには、了承をとっておいたほうがいいかな。


「アルさん、ちょっと離れます」

「ああ、わかった」

「俺らだけだと危険かもなんで、トーマ借りてもいいっすか?」

「俺は別にええで?」


 トーマ君の言外の確認に「問題ない」と頷いて、アルさんは武器の手入れに戻った。

 でも、トーマ君を名指しってことは……トーマ君は知ってる話ってことかな?


「この辺でいいっすかね」

「あいよ、俺は適当に警戒しとく。さっさと済ませーや?」

「ああ、サンキュ」


 みんなで固まっていた場所から少しだけ離れて、大きな岩の陰で姿は見えず、声も聞こえないって距離の場所に、スミスさんは腰を下ろした。

 一応武器は横に置いてるから、完全に気を抜いてるってわけじゃなさそうだ。


「それで、スミスさん。お話って何ですか?」

「あー、えっと……本当はイベントが始まる前には言うつもりだったんすけど、タイミングが掴めなくてっすね……」

「うん?」

「だから、こんなタイミングになったんすけど、隠してたとかそう言うわけじゃないんで、驚かないで欲しいっす」

「それはまぁ……内容によるかな?」


 例えば……僕みたいに、実は中の人が女の子なんです!って言われたら、さすがに驚くと思う。

 驚いた上で、妙な共感をしてしまいそうだけど……。


「……たぶん想像してるのとは違うと思うっすけど。見せた方が早いっすね」

「見せるって――」


 スミスさんの言葉に僕が反応した直後、スミスさんの横に赤い人が現れた。

 って、なんか燃えてる!?


「す、すすす……スミスさん!? このひと、人むがっ!?」

「落ち着いてくださいっす。俺もアキさんと同じく、精霊との契約者なんすよ。こいつはサラマンダー、火の精霊っす」


 彼の落とした爆弾に、驚きのあまり大きな声をだした僕は……瞬間、スミスさんの手で口を塞がれた。


「ぶはっ……ごめん、精霊で僕にってことは僕の事も知ってるんだね?」


 精霊との契約者がもう1人いるのは知ってたし、それが火の精霊っていうのもトーマ君から聞いていた。

 けどそれがスミスさんだとは……全く考えてなかった。


 そんな思いを隠しつつ告げた僕の言葉に、スミスさんは頭を掻きながら「ええ、まぁ」と笑った。


「実はこいつと出会った場所が、師匠の作業場で……結構な人に知られてるんすよ。トーマもその際に知り合ってるんす」

「そういえばトーマ君。あの時、1人で別行動取ってたっけ……?」


 確かその話を聞いたのは、トーマ君にまだシルフの事とかを伝えるよりも前で、森に着いた直後だった気がする。

 でも、その時点でトーマ君は、僕が精霊シルフと契約してるって気付いてたんだけど。


「その後、トーマからアキさんの話を聞いて、アキさんと会うちょっと前にこいつ――サラって呼んでるんすけど、サラと契約したんすよ。サラ、この人が精霊、シルフの契約者でアキさんっす」

「うん、知ってるよ! ボクも何度か見てたから。ボクは火の精霊サラマンダー、よろしくね、アキ」


 そう言ってサラマンダーさんは火で出来たような手を差し出す。

 これは……握手って事なんだろうか?

 チラりとサラマンダーさんの姿を確認すれば、少し黒混じりの赤を基調とした身体で、所々火が吹き出た、ちょっと活発そうな可愛らしい女の子だ。


「うん、こちらこそ。シルフ、出ておいで」


 意を決して、差し出された手を握り返す。

 火をそのまま掴むような、そんな見た目とは違い、しっかりとした手触りがそこにはあった。

 ……あと燃えたりはしないみたいだ、よかった。


 そんなことを考えていた僕の横で風が舞い、シルフが現れる。

 スミスさんはシルフを見るのが初めてだったからか、少し驚いたみたいだけど……。


「スミス様、サラマンダー、こうして姿を見せるのは初めてですね。風の精霊シルフと申します」


 言葉と一緒に頭を下げて、シルフはスミスさんへと手を差し出す。

 スミスさんはズボンで手を何度も拭き、恐る恐るといった感じで手を取った。

 これには、シルフもちょっとだけ苦笑気味だったのは、スミスさんには秘密にしておこう。


「それにしてもサラマンダーさんも女の子なんですね。火の精霊って男性ってイメージがあったから少し驚きました」


 お互いに手を離し、そんな感想を僕が漏らすと、スミスさんの表情が固まった。


「あー、アキさん……その……こいつは」

「ボク、男だけど」

「はい?」


 言いにくそうに口を開いたスミスさんに代わり、サラマンダーさんから発せられた言葉は、僕の耳に入って、頭には入ってこなかった。


「だから、ボクは男だって。なんだったら証拠を見せようか?」


 多分頭が理解を拒んだんだろう、と結論付けた僕へ、サラマンダーさんはさらに大きな爆弾を落としてきた。


 えっと、男の、子?

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