第234話 亀に近い何か

「お、来たか。旦那、こっちですぜ!」


 天然洞窟のような細い通路を抜けて、開けた場所にでた僕らへ、そんな男性の声が聞こえてくる。

 こっち、という声のする方へ顔を向ければ、アルさんは既にそちらへと足を向けていた。


「テツ、何も問題無かったみたいだな」

「もちろんですよ。黒鉄の旦那ほどじゃないですが、ウチだってそれなりに鍛えてますから! なぁ、お前ら!」


 テツと呼ばれた男性が声を上げると、彼の声に呼応するように、数人の男性が声を上げる。

 チラリと横目で確認してみれば、全員が全員似たような体格で……言ってしまえばゴツい。

 なんだか、罠とかあってもそのまま突き抜けて行きそうな感じ。


「あっ、なるほど……」

「……?」


 呟きが聞こえたのか、隣りに立っていたレニーさんが僕に不思議そうな顔を見せてきた。

 うん、大丈夫。

 出発前にアルさんが言ってた事がなんとなく分かっただけだから。


「そういえばアキさんにはちゃんと紹介してなかったか。アキさん、こいつは……」

「旦那、自分で言いますぜ。薬師アキ、あっしは鉄屑テツクズ、呼ぶときは気軽にテツと! それと、後ろのこいつらはあっしのパーティーメンバーで、まとめて鉄塊って呼んでくだせい!」

「あ、はい、よろしくおねがいします。その……鉄屑ってすごい名前ですね……」


 僕の言葉に何か感じたのか、鉄屑――テツさんは豪快に笑う

 そうして、彼はガハハとひとしきり笑った後、突然巨大なものを空中に取り出した。


 あっ、これって……ハンマー?


「こいつは、あっしの相棒。銘はあっしの名にちなんで、鉄屑でさぁ! ここんところよくみてくれい! ジャッキやパイプみたいなのがくっついてやがんでしょう? こいつぁ、あっしが現実世界リアルで扱ってる代物でよぉ、ヤカタの野郎に依頼して作って貰ったんでい!」


 言いながら僕の前にハンマー……鉄屑を見せながら、指差したり、動かしたり回したりしながらテツさんは勢いのまま喋る。

 むしろ、見てって言ってるのに動かしすぎてて見にくいんだけど、楽しそうだからそれを指摘するのもアレかな?


「ん?」

「あん?」

「いや、今ヤカタって……」

「そうですぜ、こいつの作者はヤカタでい! あの野郎、PKに与してるって知ったときは、こいつで性根を叩き直そうと思ってたんですが、結局会えずじまいでよぉ……。まぁ、今度会った時、覚悟してやがれってんだ!」

「ほ、ほどほどにね?」


 武器を持ち上げ、手に力を入れて吠えるテツさんから、少し距離を取る。

 それにしてもヤカタさんの武器か……。

 攻略組って呼ばれる人達の武器を作ってるってことは、やっぱり凄い人なんだなぁ……。


 そんなこんなテツさんと話をしている間に色々決まったのか、アルさんを先導に先に進むことに。

 どうやら今回は、僕らも一緒に奥に向かうことになったらしく、すぐにテツさんと分かれて、それぞれの持ち場へと向かった。


「テツさんの武器、凄かったっすね」


 歩き出してからすぐに、僕の隣を歩いていたスミスさんが話しかけてきた。

 両手を前で組んで、武器も仕舞ってるのは……少し緊張感が足りない気がするけど……。


「大きかったね。あれで叩かれたら魔物もほとんど潰れちゃいそう」

「それもあるっすけど、あの持ち手とか、かなり作り込まれてたっす。多分持つポジションを逐一確認しながら作ったんじゃ無いっすかねぇ」

「へー……そこまでは見てなかったかも」


 僕の感想に比べて、やっぱり鍛冶士と言うべきか……見る場所が全然違う。

 そういえば、僕の採取道具を作ってくれた鍛冶士ガラッドさんも、僕の振り方とか重心とかすごい気にしてたっけ?

 ひとつの武器にも、色々考えてあるんだなぁ……。


「そういえばアキさん、知ってるっすか? この属性の神殿のボスっすけど、多分亀に近い何かが出てくるって話っすよ」


 僕がモノの見方の違いを感じていると、唐突にスミスさんがそんなことを話し始めた。


「いや、知らないけど……なんで?」

「今までのボスの傾向らしいっす。水の神殿は水蛇ミズチ。風は風獅子フウジシ。火は火鶏ヒドリって出てるみたいで、どうも四神に似たモノが出てるっぽいっす」

「そうなんだ……ってか、四神って?」

「あー……朱雀とか白虎とかって聞いた事ないっすか?」

「それならあるかも」


 たしか、あと玄武と青龍がいるんだっけ?


「それっすそれっす。本来の属性とは違うんすけど、なんかゲームだと、朱雀は火、白虎は風みたいに属性を割り当てられることが多いんすよ。それで、今回の出てくるボスが、それに近いなって話になっててっすね……」


 スミスさんの話を要約すると、どうやら各神殿のボスが、それぞれの属性に割り当てられることが多い四神のモチーフに近い魔物が出ているらしい。

 朱雀は本来、鳳凰だけど鶏とか、青龍は龍だけど蛇とか。

 だから今回は玄武……つまり亀に近い魔物が出てくるんじゃないかってことらしい。


「なるほど、だからテツさん達と一緒なのかな」

「その可能性はあるっすね。アルさん達みたいな、斬るが専門の戦い方だと、硬い相手には不利っすから」


 不利、かぁ……。

 なんだかアルさん達は僕よりも圧倒的に強いから、そう言ったのとは無縁だと思ってたけど、そうやって考えると、やっぱり向き不向きってあるんだろう。


 ――だからといって、僕が弱いままで良いってことには、ならないんだけどさ。




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あとがき


 今回出てきた【四神】の話ですが、本来は五行を当てはめられるものになるため、作中に登場するような属性とは違う属性を持っています。


 五行というのは、木・火・土・金・水からなる、自然にあるとされる元素のことです。

 これを、五行説と言います。


 そのため本来は青龍が水ではなく、木であり

 玄武は土ではなく、水になります。

 では土はというと、麒麟もしくは、黄龍の持つ属性と言われております。


 ただ、今回は火・水・風・土の四大元素と四神を合わせていることもあり、イメージとして広く浸透している青龍は水、玄武は土を採用させていただきました。

 ご理解の方、よろしくお願い致します。

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