第228話 気まぐれ

「なんのために戦うのか、なんていきなり言われても……」


 いや、答えは既に出てるはずなんだ。

 ラミナさんやシルフ……僕の大事な人達を守りたい。

 だから、守るための力が欲しいんだ。


「あれ? でも、これじゃ……守るための力が欲しいだけで、戦う理由じゃ無い?」

「はっ、なるほどな。だからお前はあの時、強くなったのか」

「え?」


 僕の呟きを聞き取ったのか、隣でガロンが笑い始める。


「だから、ってことは……ガロンは何かわかったってこと?」

「分かったもなにも、答えが出てるじゃねぇか。お前は守りたいものがある時に強くなるんだろ? 森の時も、あの代表戦の時も、よ」


 笑いすぎて涙が出てきたのか、目元を擦りながら、彼はそう僕に告げた。

 彼からすれば、当たり前の事を言わせるな、という感じなのかもしれない。


「守りたいものがある時に……強くなる、か」


 そう口にすると、なんだかしっくり来たような気がしてくる。

 そういえば予見が発動しやすいのも、同じタイミングだったような……。

 もしかすると予見の発動に、僕の精神状態が関係しているのかもしれない。


 ――もし予見以外もそうなんだとしたら、無理矢理に使おうとしても使えない?


「……癪だけど、ありがとう。なんだか光明が見えてきた気がする」

「はっ、知ったことかよ。俺の休憩場所にお前がいたから、気まぐれで相手しただけだ」

「こういうときぐらい、素直に受け取れば良いのに」

「黙ってろ」

「はいはい」


 憎まれ口を叩きつつ、僕とガロンは少しだけ笑い合う。

 PKをメインにしていることもあって、嫌いなのは変わらないけれど、ガロン本人の事はあまり嫌でもないのかもしれない。

 ……いや、結構口も悪いし、態度も悪いし……やっぱり嫌かもしれない。


「ややっ、リーダー発見でござる!」

「そんなところにいたの? リーダー、そろそろ狩りに行こうよ」

「準備は万端だ」


 ひとしきり笑って、無言のまま隣り合って座っていた僕らの前に、忍者さん達がやってきた。

 どうも、ガロンのことを探してたみたいだけど……もしかしてガロン、言わずに抜けてきたとかなの?


「しゃあねぇなぁ……行くか。じゃあな、暇つぶしにはなったぜ」

「はいはい。気を付けてね」

「お前も俺以外に殺されるなよ? どうせ行くんだろ? 大規模レイドパーティー」

「あー、まだ悩んでる」

「はっ、どうせすることもねぇなら行けよ。弱えなら弱えなりに回数こなしな」


 「どうせ俺に殺されるんなら、無駄だろうけどな」と言葉を吐いて、ガロンは迎えに来た3人を通り過ぎ、僕の傍から離れていく。

 そんな彼にからかうような声をかけながら、他の3人も追従していくのを、僕は座ったまま眺めていた。


 正直、行くか行かないかで言えば、行っても良いかなって思い始めている。

 きっとアルさん達は待っていてくれてるんだろうと思うし、シルフは支えてくれたし、本来僕と言葉を交わす必要も無いガロンも背中を押してくれた。


 でも、心の中にはやっぱりまだ「僕が行っても意味が無いんじゃ無いだろうか」って思いがあるのも事実で、足を踏み出せないでいる。

 守りたいもののために、強くなりたい。

 けど、僕の守りたいものって……なんだろう。


「わからない。わからないんだ……」


 たぶん一番大切な事が、分かっていないままでいる。

 それが人なのか、モノなのか、想いなのか。

 それすらわからない。


「……でも、わからないから、やるしかないのかもしれない」


 ――何かをしてみることで、何が出来るのか見えてくるのかもしれません。

 きっと僕に出来る事はまだまだ少ないし、力はみんなに遠く及ばない。

 でも、何かを……わからなくても飛び込んでいく、流されていくことで、自分のことを知っていけるのかもしれない。

 それはいつか、自分の力になるのかもしれない。


「ならないのかも、しれないけれど」


 自嘲気味に呟いて、ゆっくり立ち上がる。

 システムに表示される時間は18時45分。

 まだ、間に合うのだろうか。


「いや、きっと」


 ――待っていてくれるはずだから。


 目を閉じて、そっと息を吐く。

 それから、足に力をいれて、僕はその場から駆け出した。

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