第227話 面白いから

 今回の話は、トーマ視点→アキ視点となります。


――――――――――――――――



「トーマ」

「あん? なんや呼んだか?」

「アキさん、来てくれるだろうか?」

「さぁなぁ……。アキ次第やろな」


 後ろから話しかけられ、振り返ったままで告げた言葉に、アルは空を見上げ息を吐く。

 準備は大体終わり、後は出発するのを待つだけになったからか、さっきからアルがそわそわしているのは分かっていた。

 しかし――


「ええ加減落ち着けや。一応お前がリーダーやで? 妙な緊張感を蔓延さすなや」

「あ、ああ……」

「ったく、遠足前のガキやないんやから」


 俺の言葉に一瞬キリッと顔を締め、椅子に座ったかと思えば、そわそわと指が動き続けている。

 ……あかんわ、こりゃ。


「はぁ……。大丈夫かよ、これで」


 溜息交じりに小さく零した言葉は、アルには聞こえなかったようで、アルはそわそわし続けていた。


 ――出発まで、あと30分。



「何かしてみることで、何が出来るのか……」


 決めるのは僕だからと、気を遣うように姿を消した彼女の言葉を、口の中で呟く。

 でも、考えてみても……僕の見える道は真っ暗だ。


「予見も、こういうときにはまったく役に立たないスキルだよね……」


 発動したい時に発動できないスキルに何の意味があるのか。

 まぁ、見たいときに未来が見えたらダメだとは思うけど……。

 そう持って深く溜息を吐くと、同時に砂を踏むような音が聞こえてくる。

 その音に顔を上げると、正直今会いたくない人が、僕の方を見て立っていた。


「……なんの用?」

「あ? お前に用はねぇよ。 だた、ここはいつも俺が休憩してる場所なんだよ」

「あー、なら僕は別の所に行くよ」

「はっ。俺には弱い所は見せたくねぇってか? 強がんなよガキが」

「ガキじゃない」


 「アキだろ? 分かってる分かってる」と手を振り、小馬鹿にするように鼻で笑いながら男――ガロンが僕の隣りに腰を下ろした。


「で? ガキが何を悩んでんだ?」

「何でガロンに話さなきゃいけないの?」

「特に話さなきゃいけねぇってわけじゃねぇぜ? ただお前の周りには信者か保護者しかいねぇだろ? そいつらに話難いことでも、俺だったら言えるんじゃねぇか?」


 なんて、ガロンはそんなことを言いながらインベントリを操作して、なにかの水を取り出す。

 色的にはジュースみたいなものだろうか?


「……余計意味が分からない。仲いい人に言えなくて、なんでガロンには言えるってなるの?」

「嫌われようとも気にしない相手だろ? だから、好きに言えるってもんもあるぜ」

「嫌われようとって……。そもそも僕はガロンのこと、どちらかというと嫌いな部類だし、ガロンもそうでしょ?」

「あ? わかりきってる事を聞くなよ?」


 PK禁止じゃなきゃ今も話さず殺すだろ、と飲み物を注いだカップを口に付け、傾ける。

 この人、このままここに居座る気だ。


「……ガロンはなんでPKしてるの?」

「あん? そりゃ戦うのが面白いからだろ。その結果、殺しちまうがな」

「ならなんで僕を狙うの? 戦いとしては楽しめない相手でしょ?」

「そりゃ、お前はまだ殺せてないからだろ。なんだかんだで殺し損ねてんだよ。面白い面白くない以前に、スッキリしねぇ。――が、」


 唐突に言葉を切り、手に持っていたカップを地面へ置く。

 そして立ち上がり……腰に下げていた剣を抜き、僕へと切っ先を向けた。


「今のお前じゃ話にならねぇな」

「……ッ」


 スルリと剣を鞘へと戻し、ガロンは再び僕の隣りに腰を下ろす。

 そして、またカップへと飲み物を注いだ。


「雑魚を相手にしても意味がねぇ。俺はお前を殺してスッキリしてぇが、俺が殺したいのは今のお前じゃねぇ」

「今の僕、じゃない?」

「最初に戦った時、あの時も雑魚だったが、今よりかはマシだったぜ?」


 カップを傾け飲み物を飲むガロンを横目に、僕は最初の時を思い出す。

 確か、森の中でラミナさん達を逃がそうとしていた時だったはずだ。


 あの時の方が、まだ強かった?

 今の方が、戦略もスキルもレベルが上がっているはずなのに?


「……どうしたら」

「知らねぇよ」

「ぐっ」

「ただ……強さってのは、力だけじゃねぇぜ? 俺の強さは、俺にしかない。俺にしか分からねぇ色んなもんが混ざり合って生まれた強さだ。お前の持っていた強さとは違う」


 そう言って、ガロンはカップを一気にあおり、僕へと顔を向ける。

 鋭い目で見透かすように僕を見つめ、ガロンは口を開いた。


「お前が戦う理由は、何の為だ?」


 と。

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