第225話 執る気はねぇ

「そ、それより、アルさん達はなんでここに集まってるんですか?」


 僕は話を逸らすために、咄嗟に別の話題を口にする。

 だって、あのまま続けられてたら色々いじられそうだったし……。


「ああ、この後……狩りに行くからな」

「アキにも言ったろ? 土の神殿や」


 土の神殿ってことは……この後、複数パーティーで狩りに出る予定なんだろうか?

 メンバーを募集してたと思うけど、それは揃ったってことなのかな?


「どれくらいの人数で行くことになったの?」

「そうだな。まだ余裕があるから、直前での参加も受け付けてはいるが……ざっと20人ぐらいか」

「全部でパーティー5つやからな、そんなもんやろ」


 1つのパーティーで5人まで組めるって考えると、全部がいっぱいだと25人。

 でも20人くらいってことは、ほんとにまだ余裕があるみたいだ。


 といっても、僕は行く気がないんだけど。


「結構大人数なんですね。やっぱりアルさんが全体の総まとめ?」

「一応発起人が俺だからな。そうする予定ではあるが……」

「ま、戦闘中は状況に応じてってやつやな」

「俺だけでは見えないこともあるからな。特にボスとなれば、前衛よりも後衛の方が指示を出しやすい」


 あー、たしかにそうかも……。

 アルさんが前で戦わずに、後ろで指示するっていうのは考えられないし、戦闘中は別の人に変わりそう。


「トーマ君とか?」

「アホぬかせ。俺はもう指揮なんざ執る気はねぇよ」


 僕の呟きに溜息を吐きながら、トーマ君が吐き捨てる。

 む……だとしたら誰だろう?


「そうか、トーマが執ってくれないとなると……難しいな」

「つーか、なんで俺が執ること前提になってんのや」

「PK戦でも指揮を執っていたみたいだからな。それにお前なら、戦闘全体の把握も出来るだろうと思ってな」

「ぐ……。やらんやらん! 俺はやらんで!」


 アルさんが残念そうに呟いた言葉に、トーマ君はちょっと息を詰まらせつつも、話を断ち切るみたいに、そう言い放つ。

 なんでそんなに嫌がるんだろう……?


「あー、こいつ自由に動きたいんですよ。なまじ指揮能力あるせいで、前のゲームでも指揮系統任されてて、フラストレーション溜まったみたいだしな」

「ああ、なるほど。それなら無理に任せるのも悪いな。すまない、忘れてくれ」

「いや、別に、謝るほどやないし……」


 ウォンさんの言葉に、アルさんは得心いったみたいで、トーマ君へ軽く頭を下げる。

 でも、トーマ君……なんだか寂しそうにも見えるような……?


「この話は終わりや、終わり! んで、アキは結局どうすんのや? やっぱ行かんのか?」


 払うように頭の上で手を振って、トーマ君は話の矛先を僕に向ける。

 行かないのかって言われても、僕が行ったところで役には立たないだろうし。

 そりゃ、お薬を渡したりとかくらいなら出来るかもしれないけど……


「んー、やっぱり僕はいいかな。やれることもなさそうだし」

「そうでもないと思うぜ? なあ、アル、たしかまだ空いてたよな」

「ん? ああ、空いてるな」

「いやいや、空いてても、僕じゃ戦力にならないから。戦える人が参加した方がいいでしょ?」


 空いてるのはさっきも確認したから分かってるんだけど、僕を入れたところで足しにならないのもわかってる。

 卑屈になってるとかじゃなくて、僕自身がまだまだだって、ちゃんと認めてるだけだ。


「いや、そっちやなくて、」

「アキさん。補給パーティーの方に入りませんか? レニーさんやスミスさん、オリオンさんがいるパーティーですけど」


 何かを言おうとしたトーマ君の言葉を遮るように、椅子に座ったままの僕の後ろから女性の声が割り込んでくる。

 振り返らなくてもわかるけど、一応振り返ってみれば、予想通りと言うべきか、すぐそばにカナエさんが立っていた。


「補給パーティー?」

「ええ、そうです。ポーションの準備や、休憩時のサポート。スミスさんは武器の手入れなどのために同行する形のパーティーです」

「そ、そこまでするの? 土の神殿って、そんなに遠くないよね?」


 土の神殿へは、まっすぐ行けば片道1時間半ほどで行ける距離だ。

 だから、途中の休憩や武器の手入れなんて、ほとんど必要無いように思うんだけど……。


「それは時間の関係だな。普段は昼に行動しているから、あまり気にしてはいないが、今回は平日なこともあって、夜の移動になる」

「せやな。んで、夜になると魔物の動きが活発化するんと、視界が悪い関係で、進む速度が下がるんや。したら、どうなると思う?」


 アルさんの言葉を引き継ぐように、トーマ君が口を開く。

 その流れで、僕へと問題を投げかけてきたのは驚いたけど……でも、そうなったらって。


「……疲れる?」


 そう、疲れる、しかない気がする。


「せやな。疲れる」


 うん、だよね……。

 お化け屋敷とかみたいな、周りが見えない状況で進まないといけないってなると、すっごいゆっくりな移動になって、精神的に疲れるんだよね……。

 あー、だから補給が必要ってことかな?

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