第224話 戦闘民族
「落ち着いたか?」
上から振ってきた言葉に、意識を引っ張り上げる。
どうやら気付かないうちに数分以上経っていたみたいだ。
「オーバーヒート……まぁ、知恵熱みたいなもんだ」
「知恵熱とか、あるんですね」
「この世界で行動すること自体が、個人の脳を酷使してるからな。といっても、外部機器である程度はカバーしてるみたいだが」
よくわからないけど、脳の許容オーバーになったってことかな?
攻撃を受けて気絶するのとはまたちょっと違うけど、それに近い状態に脳がなったのかもしれない。
「相方が飯食いに行くみたいだから、俺はそろそろ行くぞ?」
「あ、うん。大丈夫」
「なんだったらお前も来るか? 予定が無ければ、だが」
「え? 特に予定は無いけど、良いの?」
「大丈夫だろ。知らないわけじゃないしな」
「……?」
僕が不思議そうな顔をしたからか、にやりと彼は不敵に笑い、僕へと背を向けた。
っと、その相方が誰かを考えるよりも、ひとまず置いて行かれないようにしないと……。
◇
「あら、アキさん。いらっしゃいませ」
ウォンさんの後に続くように、訓練所のすぐ近くにあった建物に入る。
そんな僕を出迎えてくれたのは、なんとカナエさんだった。
「え? カナエさん? なんでここに?」
「オリオンさんのお手伝いです。特にすることも無かったので」
「あ、ここってオリオンさんのお店だったんだ」
「えぇ。そういえば、ちょうどみんないますので、そちらの席にしましょうか」
そう言って、カナエさんは僕とウォンさんを奥の席へと案内してくれる。
みんなって……カナエさんが言うってことは、アルさん達かな?
「お、遅いで。先に食っとるで」
「悪いな。こいつの相手してた」
「あん? ああ、アキか。なら
案内された先は、8人掛けぐらいの大きなテーブル席。
そこには、トーマ君の他に、アルさんやジンさん……リアさんにティキさんもいた。
なんだろ……トーマ君がこのメンバーと一緒って結構珍しいかも?
テーブルの上には多種多様な料理の数々……。
ジンさんの周りにはお肉しかないけど、まぁゲームの中だし、良いのかな?
でも、見てるだけで胸焼けしそう……。
「おや、アキさん」
「アルさん。こんにちわー」
「アキ、ウォンの相手ってことは、お前も訓練所来とったってことか?」
「あ、うん。奥でアルさんとトーマ君が戦ってる声は聞こえたよ」
僕の返事に、トーマ君はなんだか微妙な顔をしてから、アルさんへと顔を向け、口を開いた。
「あー、あれはなんや……? アル、あれって戦いなんか?」
「一応戦いではあったとは思うが」
「も、模擬戦……だよね?」
「あー、いや……」
渋い顔を見せるアルさん達。
なんだろう、一応模擬戦ではあったと思うんだけど……?
「あれはなんだ? 模擬戦というよりも、稽古だな」
「せやなぁ……戦いにはならんかった感じやし」
「え? でも戦ってたのって、忍者さんと狩人さんだよね?」
あの2人って、結構強かったイメージがあるんだけど。
シンシさんに対しても、的確に攻撃出来てたみたいだし……。
「せやな。でもなんつーかな……まだまだ甘い?」
「そうだな。小手先としての技術はあるが、骨まで達するほどの力は感じなかったか」
「え、えぇぇ……」
2人の評価に、驚きを通り越して、なんだか同情してしまう……。
忍者さん達にだってまだまだ追いつけないのに、どんどんアルさん達は強くなっていってるみたい。
……ぐぅ、足踏みしてる僕が、すごく悔しいなぁ。
「まぁ、つーて。あいつらは本来
「そうだな。しかし……そうなるとそれを真っ向から潰したらしい彼女は、いったいどれだけの実力があるのか。想像するだけでも恐ろしくなる」
そういえば、あの2人以外のパーティーメンバーはどこに行ったんだろう?
ガロンとか、結構戦うの好きだろうし、模擬戦でも暴れてそうなんだけど……。
「リュンさん?」
「せやで。今は確か……通称
「確かジンは戦ったんだったか? どうだった?」
アルさんはそう言って、ジンさんへと顔を向ける。
しかし、当のジンさんは食卓にならんだお肉を口に含んだ直後だったらしく、ちょっとまて、と言わんばかりに掌を立ててアピールをしていた。
でも、リュンさん……赤鬼、か。
たしかに、いつも赤い服を着てるし、時々鬼みたいに怖い時があるけど……。
普段は結構優しいところもあるし、可愛いところもあると思うんだよね。
……そういえば、逃走時のご褒美ってどうなったんだろう。
「……リュンは、生粋の戦闘民族みたいなもんだ」
「ん?」
「あいつには流派とかはない。ただ、戦うこと。そして勝つことだけを目的に生きてきている。……だからこそ、今のリュンは良い傾向なんだぜ?」
僕の隣でゆっくりお酒を飲んでいたウォンさんが、小さく呟く。
最後の言葉は、僕にしか聞こえなかったかもしれないけど……わざとなんだろうか?
「あぁ、そんな感じだ。実際に戦ってみても、あの子の動きには躊躇いってものが全く感じられなかった。ただ純粋に闘争を求め、そして勝つことが目的みたいだった」
「ジンでもそう思うのか……。なるほどな」
「味方にいりゃ心強いが、敵になりゃやべぇってやつか」
「ま、そう言ってもしばらくは敵にならないだろうぜ?」
「今はこいつがいるからな」と、ウォンさんは僕の背中を叩く。
「手綱、しっかり握っとけよ」
……いや、そんなこと言われても、結構困るんですけど。
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