第219話 町みたい
あれから、また消えていったトーマ君を除く3人で、お昼ご飯を挟んだりなんかもしながら数時間ほど探索続けた。
そして、「そろそろ学校の準備とかする」という2人と別れ、僕は拠点に戻ってきていた。
◇
「んー、どうしよっかな。探索に行くにしても、1人じゃアレだし」
「でしたら、拠点で調薬とかですか?」
「それでもいいんだけど、下手に作るといざって時に材料が足りなくなりそうでね。色々新しい素材は見つかってるし、解毒薬もそろそろ手を付けてみたいんだけどね……」
シルフと話しながら、特に目的も無く拠点内を歩く。
建物が沢山建ったからか、こうして歩いてみると町みたいに感じるようになってきたかも。
木山さん達、すごいなぁ……。
「休憩所とかだけじゃなくて、工房とかも増えてるんだね」
「そういえば、作業場もひとまとめでは無くなったみたいですね」
「そうなの?」
「はい。今日、アキ様が来られる前には」
「そっか、今日見に行ってないもんね。何がどう変わったの?」
「えっと、確か……」
シルフはそう言って、建物を指さしながら振り分けられた作業を説明してくれる。
どうやら、調薬と会議場所は元々の場所から動いてないみたいだ。
「ふむふむ。でも、会議場所って言っても、もう使うことも無いと思うけどね」
「そうですね。普段は調薬指導の場所なんかに使う予定みたいですし」
まぁ、そうなるかな?
調薬指導するような事もそんなに無いと思うけど。
「結局、これからどうしようか」
「どうしましょうか……。アキ様、何かしたい事とかは?」
「したいこと、か」
材料とかがいっぱいあって気にしなくて良いなら色々手を付けたいお薬もあるんだけど、供給源が探索プレイヤーしかないような状況だから、今は自分だけで出来る事を伸ばした方が良いかな。
となると、特訓?
でも、今から外に出るのも。
「どこか訓練所みたいなところがないかな? 初心者向けの施設とか」
「どうでしょう……。私が見て回ったのも人が少ない時間でしたので」
人が動く前の朝早くとかに見て回ったなら、わからないのも仕方ないか。
誰か知り合いでもいれば聞けるんだけど……。
「っと、思った所に!」
「おや? アキさん、こんにちは。探索帰りですか?」
「はい、こんにちはです。そうですけど、オリオンさんもですか?」
「いえいえ、私は拠点の中で食事処を運営しておりますので。今は、配達に行った帰りですよ」
「食事処?」
「えぇ、私の他にも調理をメインでやっている方と一緒にですが。アルさんやトーマさんも本日来られましたね」
「知らなかった……」
いつの間にか町みたいというよりも、町になっていたらしい。
でも、調理や調薬のスキルはとにかく数をこなす事も大事だから、そういった場所の方が訓練としては良いのかもしれない。
「私はこれからまたお店に戻りますが、アキさんのご予定は?」
「あ、そうそう、オリオンさん。その予定の事なんだけど、この拠点の中で戦闘訓練とかが出来る場所って無いかな?」
「訓練、ですか。ええ、確かあったかと。ただ……」
僕の問いに対して、オリオンさんには思いつく場所があったみたい
けど、なんでそこで言い淀んだんだろう。
「ただ……?」
「今はまだ案山子の数が少なく、大半が模擬戦場になっていたかと」
「も、模擬戦、ですか」
「と言っても、お互いに全力でと言うわけではなく、打ち込み稽古や掛かり稽古のような形ですよ」
打ち込み稽古?
掛かり稽古……?
なんだろう、それ。
「えっと?」
「あぁ、そうですね……。打ち込み稽古というのは、教える側がわざと隙を作り、そこに教わる側が適切な技を入れるという稽古です。対して、掛かり稽古というのは隙を作らないという稽古です」
「つまり、打ち込み稽古は技の練習で、掛かり稽古は攻める練習ってこと?」
「大雑把に言ってしまえば、その考えで良いと思います」
「ふむふむ……」
それだったら僕でも出来るかな。
草刈鎌と木槌、ノミだけじゃなくて、つるはしを加えたコンビネーションも練習したいし。
でも、あれって大きな欠点があるんだよね……。
「丁度向かう方向も同じですので、ご案内いたしましょうか。こちらですよ」
「あ、お願いします」
先導するように僕の横をすり抜け、彼は軽く微笑む。
オリオンさんの笑顔は、格好いいとか綺麗とかそういったものじゃなくて、どことなく安心させる優しさがある。
大人の余裕、というものなのかも?
オリオンさんのお店、Aurora《オーロラ》の雰囲気もオリオンさんの力が大きいのかもしれない。
ゲームの中なのに、まるで温かく包まれてるみたいに優しい空間。
不思議とゆっくり休んでしまいたくなるお店。
悩んだり、慌ててばっかりの僕とは違う、オリオンさんの落ち着いた人柄。
――いつか、そうなることが出来たら。
「アキさん?」
「あ、はい。行きます!」
彼の後ろを付いていきながら、僕は不思議とそんなことを思った。
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