第218話 曲芸師かな?

 休憩がてら付近の素材を採取していた僕の後ろから、ガサリと葉の擦れる音がした。

 その音に顔を上げてみたけど、ハスタさんもラミナさんも特に動いたような感じはしない。

 でも魔物だったら、2人とももっと早くに気付いてるだろうし……。


 そう思って、ゆっくりと後ろを振り返った僕の目の前に――


「よ、アキ」


 右手を挙げたトーマ君が立っていた。


「え!? トーマ君? なんで?」

「いや、適当にブラついとったら見えてな」

「そ、そっか」


 驚いた僕の後ろから、伝染するみたいに驚いたような声が2つ聞こえた。

 あ、トーマ君だから反応してなかったんじゃなくて、そもそも存在に気付けてなかったってこと……?

 つまり、トーマ君……僕を驚かす気だったってことだね?


「俺に気付けんってのは、気配察知がまだまだってことやな」

「完全に気付かなかったー!」

「くやしい」

「ま、俺に気付けんってのは仕方ないわ。ただ、PKされる心配がなくなったっつっても気ぃ抜かんようにな。それに、どうにも魔物の動きが活発化しとる気ぃするわ」

「ん、わかった」

「はーい!」


 僕とハスタさんの返事に合わせて、ラミナさんは黙って頷く。

 それを見て満足したのか、トーマ君は「そんじゃ」と手を挙げて消えた。

 ……今、僕の目の前から、スーッと溶けるみたいに消えたんだけど。

 あれも、スキルなのかなぁ……。


「ねぇ、アキちゃん」

「ん? なに?」

「あのトーマって人、なに……?」


 信じられないものを見たと言わんばかりに、固まったままハスタさんは僕へそんなことを聞いてきた。

 なにかって聞かれると――


「曲芸師かな?」


 なんて、アルさんと話していたことをそのまま伝えてみる。

 いや、ほんとに曲芸師とは思ってないんだけど。


「なにそれ」

「さっきみたいにいきなり消えたり、高いところに飛んでいったり、ダガー投げるのも上手いし……」

「なんだか、1人サーカス団みたいだねー!」


 ハスタさんの例えも、その通りな気がする……。

 トーマ君なら、空中ブランコとか綱渡りとかも普通にできそうだし。


「そういえば、前に大蜘蛛と戦ったときはトーマ君……蜘蛛の巣の天井から落ちてきたっけ」

「えっと、それは……どうやってそこまで行ったのかなー?」

「木を伝って……?」

「そ、そう……」


 あの時は、提案された僕も驚いたけど、それを聞かされた側もやっぱり驚くよね。

 驚くっていうか、ラミナさんの表情は少し引いてるように感じるけど。


「そや、アキ」

「ひぅ!?」


 トーマ君の話をしていた僕の真後ろから、その話の本人の声が聞こえた。

 驚きつつ振り返ってみると、さっきと同じく右手を挙げて立つ彼の姿があった。


「なんや、けったいな声出して……。まぁええわ、聞き忘れ取ったんやけど、お前、夜はどないするん?」

「え、えっと……? 夜って今日? 特になにも予定はないけど」

「そか」


 ただの確認だったみたいに、トーマ君は頷いて話を切る。

 でも、わざわざその確認のためだけに戻ってくるかな……?

 んー、夜……?


「トーマ君、夜に何かあるの?」

「あ? あぁ知らんのか。アルのやつが、土の神殿攻略に人を集めるっつーてな」

「土の神殿攻略……? さっきハスタさんが言ってた掲示板の募集って、もしかしてアルさん?」

「しらなーい。そこまでは見てないし」


 僕の言葉にハスタさんは手を振りながらそう返す。

 でも、タイミング的には同じだし、たぶんそうなのかな?


「多分そうやで。アルのやつ、中間発表で戦闘トップやったからな。ボス倒して、そのままラストまで行きたいんやろ」

「あ、そうなんだ。そっか……アルさん1位だったんだ」


 中間発表の時は、僕倒れちゃってたからなぁ……。

 そういえば、あの時の結果全然知らないや。


「ま、当たり前やろ。水と風の神殿はあいつのパーティーで突破しとるし」

「水と風……。あれ? 火も突破されてたよね? あそこはアルさんじゃないんだ?」

「ちゃうで。火だけは複数パーティーでゴリ押ししとるはずや。まぁ……戦況を変えたんはあいつやけど」


 そう言って、トーマ君は呆れたように軽く笑う。

 あいつって聞こえたけど、誰なんだろ……。

 トーマ君の知り合いかな?


「ちなみにアキ。言ってなかったんやけど、お前もランキングには載っとったで」

「えっ!?」

「拠点の7位くらいやけどな。あんときの1位は確か……木山のおっさんか」

「木山さんかぁ……」


 載ってたことには驚いたけど、木山さんが1位っていうのはあんまり驚かないかも。

 だって、木山さん……拠点の建物ほとんどを作ったり指示したりしてたはずだし。

 あれだけ動いてたら1位にもなるよね……。


「木山さんを超えるのは厳しそうだなぁ……」

「せやなぁ……。拠点はもうほとんどすること無いやろうし、このまま順当に行くんやないか?」

「そうだよねぇ……」


 参加するからには、出来れば上位とか狙ってみたいけど、今の7位でも充分過ぎるくらいかな……。

 トーマ君が言うには、第2陣の参加プレイヤーはまた別に初心者ランキングみたいなのがあるらしいけど、僕は違うしね。

 そっちのランキングなら、ラミナさん達には可能性があったりするんじゃないかな?

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