第217話 向きが違う
「ん?」
ずっとまっすぐに進んでいくこと、あれから十数分ほど。
だんだんと木もまばらになって、雑草の数が減ってきたところで、僕は妙な違和感を覚えた。
「ん? どうしたの、アキちゃん?」
「敵、いない」
「あぁ、うん。敵とかじゃないんだけど、変だなーって」
立ち止まった僕に気付いて、2人もすぐ近くに寄ってくる。
そして、僕の説明でもよくわからなかったのか、顔を見合わせて首を傾げた。
「変?」
「なにがー?」
「あぁ、えっとね。そこの雑草だけ、生えてる向きが違うなって」
「向き……?」
ちょうどここから……ここまでと、実際に僕が行って示してみる。
大体、半径2メートル弱の円かな?
しかし、それを見てもまだ2人はよく分からないみたいに首を傾げていた。
「向きが違うって、何でわかるの?」
「あー、葉の方向とか茎の角度とか……」
「よくわからない」
ハスタさんの質問に答えてみても、2人にはわからないみたいだ。
「えっとね、現実で言えば……ひまわりとかがわかりやすいかな? ひまわりが太陽の方向に花を咲かせるって話、聞いた事無い?」
「ある、かも?」
「僕も本で少し読んだだけで詳しくは知らないんだけど、光の当たる量で茎の中に生まれる成分に差が出るみたい。その関係で、茎の伸びる速度が変わって、太陽の方に向いて花を付けるんだって」
実際は知らないんだけど、ひまわりは東向きに咲く……んじゃなくて、光の当たる方へと咲く。
これは、群生地なんかで東から光が当たらないときは、西を向いたりすることがあるからだそうだ。
「つまり、今回も同じような事が起きてるとすれば……この辺だけど、環境が違うってことなんだよね」
「う、うーん……なんとなくは分かったけど……」
「環境が違うと、なにかあるの?」
「えーっと……そこは僕もまだ……」
見た感じ、生えてる草の種類に違いは見られないから、光とか風の違いかな……?
でも、円の形に綺麗に向きが変わってるってことは――
「あ、やっぱり」
「なになに、何かあったー?」
「しゃがんで向きを確認したらわかったけど、ちょうどここだけ木々に隙間があいてる」
この島の中心には山があるんだけど、その山の中腹あたりに向けて、まっすぐに空間が空いている。
まるで、何かが通ってるみたいにぽっかりと。
「あ、ホントだー!」
「ん」
「偶然かもしれないんだけど、一応メモして置いた方が良いかも」
「ラミナの地図に書いておく」
「ん、おねがいします」
山の位置関係なんかから、大体の位置を確認して、地図にバツ印を付ける。
位置的には……まだ解放されてない土の神殿の近く、かな。
「そういえば、土の神殿ってどうすることになったか知ってる?」
「たしか、今日の夜に攻略するって掲示板に募集があったかもー」
「2人は行くの?」
「んー……」
「行かない」
「じゃあ私も行かないかなー」
「そっか」
「でも、4つとも攻略したら、何か起きるんじゃないかーって噂だよー」
「そうなの?」
話を切ろうとした僕に向けて、ハスタさんがそんなことを告げる。
何かって、なんだろう……。
「うん。アキちゃんは気付いてないのか、仕様だと思ってるかもだけど、中心の山の中央だけまだ埋まってないの。不自然だな-って思って登った人もいたらしいんだけど、なんでか途中から登れないらしいよ」
「気にしてなかったけど、たぶん仕様なんじゃない? そこまでしかデータが無いとか」
「そういう人もいるけどねー。私は何か起きるんじゃないかって思ってるよー」
「ラミナさんは?」
「わからない。でも、起きたら面白い」
そう言って、2人は笑う。
登れない山……全部攻略したら登れるようになるのだろうか……?
「でも、登れるようになったとしても、僕は登らないかなぁ……」
「そこに山があるのに?」
「ハスタさんは登りそうだね」
「んー……現実じゃ登ろうとは思わないけど、こっちだったら登ってもいいかも。落ちても死なないし」
「姉さん。死ぬのは死ぬ」
「でも、ほら。現実みたいにそこで人生終了ってわけじゃないからー。 無茶もできるよねー」
「それはわかる」
「そ、そう……」
破天荒なハスタさんの言葉に、ラミナさんが深く頷く。
性格的には全然似てない2人だけど、やっぱり双子ってやつなのかなぁ……。
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