第216話 恐ろしい子
ガサガサと草木をかき分けて、道なき道を進む。
森と言うよりも雑木林のような、そんな場所をただひたすらにまっすぐに。
「ハスタさん。これどこに向かってるの?」
「わかんない!」
「ええ……」
「出発したときに槍を倒したでしょー? あの方向にひたすら進んでるだけ!」
「ああ、なるほど……」
だから、さっきから獣道とか人が歩いた後とかあっても、完全に無視してまっすぐに進んでるのか。
にしても、雑草の背が高くなってきたなぁ……。
「んー、先頭を交代しようか。ハスタさん、そろそろ先頭キツくなってきたでしょ?」
「そうだねー。アキちゃん先頭で、刈りながら進んでくれるー?」
「大丈夫。って言いたいところだけど、気配察知とか僕出来ないよ?」
「その辺はこっちで確認するよー」
そう言って、ハスタさんは列の最後尾に付く。
仕方ないことだとはいえ、僕自身そのままでいるわけにもいかないし、少しずつでも戦えるようになっていかないと!
「アキ」
「ん? 何かいた?」
「ん。前方から何か近づいてきてる」
「了解。接敵時間は?」
「15秒くらい」
「それだけあれば充分! 戦いやすいように、ここらを一気に刈り取るから!」
言いつつ、腰を下げて片手で鎌を一閃。
スパンッと小気味良い音が響き、前方の雑草が地面に落ちる。
それを軽くステップしながら繰り返し、ほどよく視界が確保できる程度のエリアを作り上げた。
「こんなもんかな」
「すごい」
「アキちゃんさすが! 採取のプロ!」
「プロじゃないんだけど……ありがと」
「姉さん、アキ。構えて」
僕らに指示を出しながら、ラミナさんが盾と剣を構えた。
直後飛び出してくる茶色い物体。
あれは――イノシシ?
僕がこの島に来て最初に出会った大猪ほどではないけれど、そこそこに大きい猪が茂みをかき分けて僕らの目の前に現れた。
「数は2。ラミナが1匹引きつけておく間に、2人で1匹倒して」
「りょーかい! アキちゃん、行くよ!」
「うん!」
まっすぐ突っ込んで来た2匹のうち、1匹をラミナさんが盾と剣で軌道をずらす。
正面から受けず、少し角度を付けて受け流してる……。
「よいしょー!」
ハスタさんの声で我に返り、僕が相手すべきもう1匹に視線を戻す。
そこには、まっすぐにぶつかり合う1人と1匹がいた。
「もういっちょー! まだまだぁー! なんのー!」
猪の太く鋭い牙と、ハスタさんの槍が何度もぶつかり合い、火花を散らす。
これ、僕の入る隙間……ないよね?
シルフに猪の速度を落として貰うのも手なんだけど、それはなんだかちょっと違う気がするし……。
「あ、そうだ」
長く伸びた雑草を束ねて……こうして、これで……ここもこうして……。
「できたっ! ハスタさん! こっちに猪を」
「ん? はーい!」
まるで2匹の猪がぶつかり合うように、何度も正面から突き合っていたハスタさんが、向きとタイミングを見計らい、スルリと避ける。
何度も何度も繰り返したからだろうか。
勢いを増していた猪は、すぐに止まることが出来ず――
「あ」
ハスタさんの気の抜けた声と共に、ひっくり返った。
その猪の喉元にノミを深く突き刺し、木槌を落とす。
……やってることは結構エグいことなんだけど、血が出ないからか、そんなに気にならないな。
「上手いこといったね」
「アキちゃん……恐ろしい子……」
「えぇ……?」
僕がやったのって、ただ何カ所かに雑草を結んで猪の足を取ったくらいなんだけど……。
というか、あんなスピードで突っ込んでくる猪に、真正面からぶつかれるハスタさんの方が怖いよ!
「それじゃ、ラミナも呼ぶ?」
「そうだね。同じ方法で倒しちゃおうか」
「りょうかーい! ラーミナー!」
「……。そう」
チラリと僕らの方を向いたラミナさんは、何かを悟ったみたいに頷く。
そして、向きを微調整すると同時に、僕らの近くまで下がり……
まるで跳び箱を飛ぶように、突っ込んで来た猪の背中をタッチして、避けた。
ブモ、とかそんな感じの鳴き声が聞こえて、さっきと同じくひっくり返る。
「えい」
ラミナさんが、気合いの入らない声と共に剣を刺す。
……なんだか、この戦い方で勝利すると……空しい気持ちになるね。
次からは封印しようかな……。
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