第215話 そろそろ行こう

「アキ」

「やっ! アキちゃん、おはよー!」


 ログイン地点から少し歩いた先、PK対策本部になっていた建物についた僕へと声がかかる。

 青色と赤色の髪……ラミナさんとハスタさんの双子が、入口の傍に立っていた。


「2人ともおはよう。今日は平日だから、2人だけかな?」

「今のところは」

「と言っても、私たちもさっきログインしたところなんだけどねー」

「そっか。んー、フレンド欄見ても他にログインしてるのは……オリオンさんと、スミスさん。あとトーマ君くらいかな? 他の人はいないかも」


 正確に言えば、さっきフレンド登録したガロンさんはいるんだけど……。

 ラミナさんは確か彼のこと、嫌いって言ってたし、言わなくて良いよね?


「トーマ君以外なら多分作業場にいると思うけど、どうする?」

「んー、アキちゃん。久しぶりに3人だけで探索してみないー?」

「僕は別に良いけど……ラミナさんは?」

「構わない」

「そっか」


 そうと決まれば……という感じにパーティーを組んで、ハスタさんは槍を地面に立てる。

 普段使っている、身の丈より長い槍ではなく、立てても胸の位置ほどの長さの槍。

 後から聞いた話だと、屋内とかの狭い場所で戦う時に使う槍だそうだ。


「ほいっと。……あっちだね!」

「姉さん……」

「べ、別にいいじゃんかー」


 どうやら槍の倒れた方向で、向かう先を決めたみたいだ。

 別に、何か目的があるわけじゃないから良いんだけど……なんていうか、アバウトだなぁ。


「それじゃ、出発しんこー!」

「アキ」

「あ、うん。行こっか」

「……うん」


 槍をインベントリにしまったハスタさんを先頭に、ラミナさんと並んで拠点の外へと向かう。

 何か新しい素材とか、見つかれば良いなぁ……。



「アキちゃん、1匹そっち行ったよー!」

「ま、任せて!」


 ハスタさんの言葉で武器を構えた僕の前に、白い塊が飛び出してくる。

 正体は、玉兎ボーリングラビットとよく似た姿をしてる兎。

 しかし、玉兎にはない……鋭い角を持っていた。


「ほっ、と!」


 突き出された角を避けつつ、角を持ち上げるように右手の鎌を引っかける。

 相手の速度を利用して――!


「っ! ここだっ!」


 完全に空中に浮き上がった相手へと、横薙ぎに鎌を一閃。

 切り裂くような確かな手応えがあったけれど、さすがに一撃では倒せない。


「だから――!」


 一歩前へ踏み出して、もう片方の手で持っていたノミを突き刺す。

 今集中するのはたったの一点だけ。

 ――持ち替える手の感触、それだけだ。


 振り下ろす左腕はもう止められない。

 その先から感じる、ぶすりと突き刺さる感触。

 そして、上から叩きつける右手の木槌。


「、ッ!」


 槌と、柄が触れあって、左手に衝撃が奔る。

 直後、ノミを手から離し、右手の槌を勢いのまま振り抜いた。


 カーンと響く音が消えて、その後を追うように兎の姿が消えていく。

 そして、落ちたノミを拾い上げて、息を吐いた。


「っはー……」

「おつかれ」

「そっちこそ、お疲れ様」

「ん」


 僕が手放した鎌を拾い、ラミナさんが渡してくれる。

 ラミナさんも剣を腰に戻してるってことは、戦いが終わったってことなんだろう。

 僕が1匹倒す間に、2人で4匹倒してるんだから、僕もまだまだだなぁ……。


「アキ」

「ん? 何?」

「さっきの、どうやったの?」

「さっきの?」

「……木槌をクルって」


 木槌をクル?

 あぁ、手の中で木槌を回したことかな?


「こう、人差し指に掛けて一度弾いてから、親指と小指で挟んで……」

「……?」

「えっと……」


 正直、感覚でやってるから説明するってなると。

 というか、ラミナさんってそこから見てたんだ……。


「もしかしてアキちゃんって、ペン回しとか出来るー?」

「あ、うん。一応は」

「あれ、私全然できないんだよねー。ラミナも出来なかったよね?」

「できない」

「こう……スポーンって飛んでっちゃう」


 あぁ、その光景が目に浮かぶようだ……。

 というか、ラミナさんも出来ないんだ。

 なんとなく器用そうだから、そういったことは出来る気がしてたんだけど。


「学校の友達が上手いんだー。いっぱい技を見せてくれるの」

「ガンマンとか、バックアラウンドとか?」

「名前までは知らない。いっぱい」

「そっか」

「まぁ、2学期から転校することになっちゃったから、もう見れないんだけどねー」


 そう言って、ハスタさんは少し寂しそうに笑う。

 転校、か……2学期からってことは親の都合とかなんだろうけど、それは寂しいね……。


「……さ、そろそろ行こうか」

「うん」

「うんうん! 出発進行、だよー!」


 わざとらしく手を叩いた僕に、意図するところが分かったのか、2人も笑って同意する。

 2学期、か……。

 そういえば、ハスタさんってちゃんと宿題とかしてるんだろうか。

 同い年くらいに見えるし、多分高校生、だよね……?

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