第214話 ありがとよ

「秋良、あんた来週から学校だけど、準備とかは終わってる?」

「あ、うん。この間も言ったけど、宿題とかは全部終わってるよ」

「なら良いんだけど。そろそろ生活リズムとか、直しておきなさいよ?」

「はーい」


 夏休みも残り1週間とちょっと。

 最後の土日にはイベントも終わりを迎えるし、その3日後……つまり水曜日からは学校が始まる。

 2学期になったら、教室の中でライフの話がいっぱい出るんだろうか。

 ――僕はゲームをやってるって言えないんだけど。



「よお、来たか」

「げ」

「出会って早々その顔をされるとは。リーダー、嫌われたでござるなぁ」

「笑ってんじゃねぇよ。このエセ忍者が」


 ログインしてすぐに、この人達に会っちゃうとか……。

 いや、来たかってことは僕を待っていたってことだろうし、絶対顔を合わせることにはなったんだろうけど……。


 あと、忍者さん、笑いすぎ。

 お腹抱えてまで笑うとか……忍者としてそれはどうなの。


「それで、なにか用? 待ってたみたいだったけど」

「あぁ、そうだった。あー、そのだな……」

「ん?」

「薬、ありがとよ」


 僕に目を合わせずに言われたその言葉は、注意してなかったら聞き逃してしまいそうなほど小さな声。

 それでも確かに聞こえた声に、僕だけじゃなくて、4人組の他のメンバーも全員が耳を疑うことになった。


「え、リーダーが? まじっすか?」

「うむ。確かに聞こえたな」

「今日の天気は晴れの予報でござったが……。よもや雹でも降るかもしれぬな」

「おい、手めぇら……」


 口々に騒ぐメンバーに、恥ずかしさが限界に達したのか、リーダーさんは唸るような声で怒る。

 けれど、それが余計に面白くて、なぜか僕も一緒に笑ってしまっていた。


「うん、ありがとう。ちゃんと使えたなら良かった」

「うむ。助かったでござるよ。あやつ、中々に強者であった」

「うんうん。あれでPKじゃないってのは驚きっすよねぇ」

「しかしそれ以上に、赤鬼のアレは何だったのでござろう……」

「あの臭いやつっすか? アレヤバかったっすよね……」

「あ、あはは」


 そういえばリュンさん……忍者さん達が戦ってる所に投げ込んだんだっけ……。

 僕が渡したってこと、秘密にしてた方が良さそうだ。


「それで、用はそれだけ? それだったら僕もう行くけど」

「おいガキ、ちょっと待て」

「……ガキじゃなくて、僕はアキ。次そう呼んだら反応しないから」

「はっ。そんじゃ今度は俺のことも、名前で呼べよ」


 そう言って彼は僕にフレンドを申請してくる。

 正直断りたい気もするんだけど……まぁ、仕方ないか……。

 ちなみに、名前はガロンって言うみたい。


「じゃあ僕、そろそろ行くね」

「ああ。……俺以外に殺されんなよ」

「……そもそも殺されたくないから大丈夫」

「はっ、そうかよ」


 その言葉を最後にガロンは背中を向ける。

 歩く姿は手も振らない。

 フレンドになったからといって、仲良くなったわけではない。

 それが僕らの距離だと、そう言っているような気がした。


「ああ見えて、結構お主の事は気に入っているのでござるよ」

「まったく、素直じゃないんっすよ。うちのリーダーは」


 先を行く2人と離れて、忍者さんと狩人さんが僕へのフォローを入れる。

 なんだかこの2人は、結構話しやすい気がするなぁ……。


「そうなの?」

「うむ」


 忍者さんの言葉に同意するように、狩人さんも深く頷く。

 そういえばこの2人の名前とか知らないけど……まぁ良いか。

 2人も教える気が無いみたいに見えるし。


「我らは基本4人でいるでござる。何かあればリーダーに言ってくれれば、よいでござるよ」

「まぁ、依頼とかお願いとかは、リーダーの裁量次第だけど」

「と言ってもなんだかんだでお人好しでござる」

「そうっすね」


 そう言って笑う2人に、後ろから怒声が届く。

 ガロンさん、ようやく2人が僕と話してるのに気付いたみたいだ。

 そのことに少し苦笑しつつも、2人は軽く手を挙げて僕から離れていく。

 彼らの後ろ姿を見ながら、僕は小さく溜息を吐いた。


(アキ様?)

(なんでもない。大丈夫だよ。それよりも早く行こうか)

(はい!)

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