第214話 ありがとよ
「秋良、あんた来週から学校だけど、準備とかは終わってる?」
「あ、うん。この間も言ったけど、宿題とかは全部終わってるよ」
「なら良いんだけど。そろそろ生活リズムとか、直しておきなさいよ?」
「はーい」
夏休みも残り1週間とちょっと。
最後の土日にはイベントも終わりを迎えるし、その3日後……つまり水曜日からは学校が始まる。
2学期になったら、教室の中でライフの話がいっぱい出るんだろうか。
――僕はゲームをやってるって言えないんだけど。
◇
「よお、来たか」
「げ」
「出会って早々その顔をされるとは。リーダー、嫌われたでござるなぁ」
「笑ってんじゃねぇよ。このエセ忍者が」
ログインしてすぐに、この人達に会っちゃうとか……。
いや、来たかってことは僕を待っていたってことだろうし、絶対顔を合わせることにはなったんだろうけど……。
あと、忍者さん、笑いすぎ。
お腹抱えてまで笑うとか……忍者としてそれはどうなの。
「それで、なにか用? 待ってたみたいだったけど」
「あぁ、そうだった。あー、そのだな……」
「ん?」
「薬、ありがとよ」
僕に目を合わせずに言われたその言葉は、注意してなかったら聞き逃してしまいそうなほど小さな声。
それでも確かに聞こえた声に、僕だけじゃなくて、4人組の他のメンバーも全員が耳を疑うことになった。
「え、リーダーが? まじっすか?」
「うむ。確かに聞こえたな」
「今日の天気は晴れの予報でござったが……。よもや雹でも降るかもしれぬな」
「おい、手
口々に騒ぐメンバーに、恥ずかしさが限界に達したのか、リーダーさんは唸るような声で怒る。
けれど、それが余計に面白くて、なぜか僕も一緒に笑ってしまっていた。
「うん、ありがとう。ちゃんと使えたなら良かった」
「うむ。助かったでござるよ。あやつ、中々に強者であった」
「うんうん。あれでPKじゃないってのは驚きっすよねぇ」
「しかしそれ以上に、赤鬼のアレは何だったのでござろう……」
「あの臭いやつっすか? アレヤバかったっすよね……」
「あ、あはは」
そういえばリュンさん……忍者さん達が戦ってる所に投げ込んだんだっけ……。
僕が渡したってこと、秘密にしてた方が良さそうだ。
「それで、用はそれだけ? それだったら僕もう行くけど」
「おいガキ、ちょっと待て」
「……ガキじゃなくて、僕はアキ。次そう呼んだら反応しないから」
「はっ。そんじゃ今度は俺のことも、名前で呼べよ」
そう言って彼は僕にフレンドを申請してくる。
正直断りたい気もするんだけど……まぁ、仕方ないか……。
ちなみに、名前はガロンって言うみたい。
「じゃあ僕、そろそろ行くね」
「ああ。……俺以外に殺されんなよ」
「……そもそも殺されたくないから大丈夫」
「はっ、そうかよ」
その言葉を最後にガロンは背中を向ける。
歩く姿は手も振らない。
フレンドになったからといって、仲良くなったわけではない。
それが僕らの距離だと、そう言っているような気がした。
「ああ見えて、結構お主の事は気に入っているのでござるよ」
「まったく、素直じゃないんっすよ。うちのリーダーは」
先を行く2人と離れて、忍者さんと狩人さんが僕へのフォローを入れる。
なんだかこの2人は、結構話しやすい気がするなぁ……。
「そうなの?」
「うむ」
忍者さんの言葉に同意するように、狩人さんも深く頷く。
そういえばこの2人の名前とか知らないけど……まぁ良いか。
2人も教える気が無いみたいに見えるし。
「我らは基本4人でいるでござる。何かあればリーダーに言ってくれれば、よいでござるよ」
「まぁ、依頼とかお願いとかは、リーダーの裁量次第だけど」
「と言ってもなんだかんだでお人好しでござる」
「そうっすね」
そう言って笑う2人に、後ろから怒声が届く。
ガロンさん、ようやく2人が僕と話してるのに気付いたみたいだ。
そのことに少し苦笑しつつも、2人は軽く手を挙げて僕から離れていく。
彼らの後ろ姿を見ながら、僕は小さく溜息を吐いた。
(アキ様?)
(なんでもない。大丈夫だよ。それよりも早く行こうか)
(はい!)
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