第202話 ヤバいやつ

「これじゃ相談とか、ほとんどできないね……」

「せやなぁ……」

「ふん。好きに動けばよかろう? 生憎と、お互いの手は知っておるのじゃしの」

「あ、そっか……でも、トーマ君は? 戦ってない?」

「ヤカタとだけ、だな。他の2人は知らんで」

「僕はフェンさんが戦ってるところは知らない……かな」


 整理すればこういうことかな?

 僕は、シンシさん、ヤカタさんの戦い方は知ってる。

 トーマ君は、ヤカタさんの戦い方のみ知ってる。

 リュンさんは、全員知ってる。

 ……ってことだよね?


「なら、分ければ良かろう? 知っておるものなら、対処はしやすい。まぁ、相手にとっても同じではあるがの」

「なるほど……。トーマ君もそれでいい?」

「ま、それしかないやろ。俺もヤカタには借りを返しときたいしな」


 そう言って、トーマ君は右手を握り、左手の平に叩きつける。

 おお、気合い入ってる……。


「……なんじゃ、お主。ヤカタなんぞに負けておったのか。これでは勝てるか心配じゃのぅ?」

「あん?」

「いやはや、アキは生産中心ゆえ、ともかくとして……お主も戦力にならぬと言うのなら、役立たずが増えるだけじゃのぅ」

「……喧嘩売ってんのか?」

「……喧嘩にもならぬよ。一方的過ぎての」

「は?」


 リュンさんの言葉に、トーマ君が反応して……いや、確かに棘がある言い方だったけど……。

 リュンさんがこういう言い方をよくする人っていうのは……初めて会った時から変わってない。

 けど、今回は……相手が……。


「と、トーマ君、落ち着いて! ほら、リュンさんも!」

「俺は落ち着いてんぜ? それに、喧嘩売ってんのはあっちや」

「売る価値もないと言っておろう? 弱いやつほど、すぐ熱くなりおるわ」

「あぁ?」

「なんじゃ?」


 ……もしかしてリュンさん、機嫌悪い?

 けどトーマ君も、結構気が強いタイプだし……言い返しちゃうよね……。

 でも、このままじゃどうしようもないし……よし!


「……2人ともー。そろそろ止めないと、これ。開けるよ?」


 言葉と一緒に、机の上へ叩きつけるように瓶を置く。

 トーマ君はわからないかもしれないけど、リュンさんにはわかるはず。

 ……だって、身をもって体験してるはずだし。


「――ッ! あ、アキ。 落ち着くのじゃ……こんな狭いところでそんなもんをじゃな……」

「あん? なんだよそれ?」

「……腐った下級即効性ポーション」


 僕の言葉に、同じ調薬メンバーのレニーさんが大きな音を立てる。

 ……まぁ、即効性は知っててもおかしくないか。

 そうなると、もちろん腐ってる時の臭いも。


「あ、アキさん。めましょう、それはいけない」

「おやおや、アキ様はなかなかにえげつない」


 引きつった笑みを見せるレニーさんと違い、ツェンさんは面白そうに微笑む。

 ……どうやらツェンさんには、対処可能みたいだ。

 さすがGM、と言うべきかな……。


「そんなにヤバいやつなのか……それ」

「人によっては気絶するかな? 耐えれても、吐き気とかはあるかも」


 その答えに、トーマ君は長く溜息を吐いて、瓶からリュンさんの方へと顔を向け直す。

 そして、僕にしか聞こえないくらいの声で「仕方ねぇか」と呟いた。


「……おい、お前。ちょっと来い」

「お主に指図される筋合いはないのぅ。じゃが、まぁ……お主も出てくるなら、歩み寄る事はしてやらんこともない」

「はっ。まぁ、俺は器がでかいからな? ガキの文句くらい受け流してやるよ」

「ほぅ……」


 ……歩み寄ってる、んだよね?

 むしろ、取っ組み合いのために近づいてるようにしか見えないんだけど……。

 そう思って周りを見てみれば、僕以外のみんなも似たような気持ちなのか、苦笑いなんかを浮かべつつ、2人を見ていた。

 でも、特に何も言わないのは、多分2人の問題だと、そう思っているからかな?


「ふん。ガキのお守りをしとるのは、こっちの方じゃ。儂を見た目通りの女子おなごじゃと思わんことじゃ」

「はっ。そー言うんは、もっと色々と成長してから言うもんやで?」


 ……僕は無言で、再度瓶を机に叩きつける。

 僕の言いたいこと、わかるよね?


「……すまん」

「いや、儂の方こそ……大人げなかったわい」

「……まぁ、子供やしな」

「ほぅ?」

「あ?」


 トーマ君が差し出した手は、和解のつもりの握手……だったはずなんだけど……。

 結局2人は、「そろそろ」と席を立ったツェンさんが、建物を出て見えなくなるまで、睨み合ったままだった。

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