第201話 紙切れの上

「フェン、さん……?」


 フェンさんって、あのフェンさんだよね……?

 リュンさんとほとんど一緒にいる……ちょっと変だけど、優しい人、だよね?


「はっ、あやつ。やはりか」


 軽く笑うような声が、ツェンさんの後ろ……入口の方から聞こえた。

 やはり、ということは……彼女にはわかってたんだろうか。


「……リュンさん、知ってたんですか?」

「薄々と、じゃがな。なに、思えば少し前からあやつの動きは変ではあったしの」

「そう、です? 僕にはわからなかったですけど……」

「仕方あるまい。儂とて、違和感に気付いたのは、今日になってからじゃ。それに、その違和感も、きっとわざとじゃろうて。儂に、と伝えるための、の」


 リュンさんが、どのタイミングの話をしているのかはわからないけれど、フェンさんはわかってたんだろう。

 リュンさんなら、言わなくても何となくで察してくれるってことを。


「リュンさんは、それで……良いんですか?」

「はん? 何がじゃ?」

「リュンさんが、敵に回って……」


 2人の関係は、言ってみれば僕とシルフの関係に近い。

 家族とか、兄弟とか、友達とか……恋人とかとはまたちょっと違う。

 2人だけの特別な関係。


「僕だったら、嫌です……」

「ふん。相変わらず甘いのぅ。儂とフェンの関係なんぞ、所詮紙切れの上に、連続して名前があった。その程度の関係よ」

「紙切れ……?」

「……お主にはいずれ話す。じゃから、今は気にするでない」

「そう、ですか……」


 僕の言葉を最後に、リュンさんも……誰も何も話さない。

 しかし、そんな静寂は……手を叩くような破裂音と共に、破られた。


「はい。皆様、何にせよこれで3人目もご紹介致しましたので、私はここで……」

「ち、ちと待てや。なんでこいつが3人目なんや? なんかしたんか?」

「ああ、その説明をしていませんでしたね。申し訳ございません」


 立ち上がりかけた身体を椅子の上に戻し、ツェンさんは僕らに教えてくれた。

 なんでも、リュンさんが僕を逃がす際、倒したPKの数が一番多かったらしい。

 しかも、そのおかげでこっちに来るPKの数も減っていたってことみたいで……。


「そして、フェン様は、アキ様を目立たせ、物事を大きくする動きをしていた事。また、アキ様と共にいたシンシ様の情報をウォン様に伝えなかったこと……など、おふたりとも、間接的とはいえ、この状況を作った張本人ではあるため、ですね」

「ふん、その通りじゃ。普段のあやつなら、聞いただけ……なんぞの状態で調査を終わらせるはずがない」

「だから変……だった?」

「他にも細々と、の」


 ウォンさんっていうのは、多分あの時逃がしてくれた男性だと思う。

 だとすると……確かに、あの人が知っていれば、シンシさんに対してはあの時点で対策することも出来ただろうし、そうすれば森での妨害もなかった。

 森で妨害されなければ、拠点に帰る途中でヤカタさんに会うこともなかった可能性が高い……。


「あやつは儂らの中でも、情報を操る事に長けておる。どうすれば、どうなるか、とのぅ」

「まるで……」

「俺みたい、か? それは違うちゃうでアキ。俺はな、俺の為に動いてんのや。誰かの為なんかやない。俺はいつだって、俺の為やで」


 僕の言葉を継ぐように、トーマ君がそんなことを僕に言う。

 でも、それだと……あの雨の森で。

 なんで、トーマ君は……僕の心配を、してくれたんだろう。


「……アキ?」

「……ん、ううん。大丈夫、なんでもない」

「なんや……?」

「それより、その決闘っていつやるんですか?」


 心配そうに見てくるトーマ君に手を振って、ツェンさんに質問を投げかける。

 横目で少し確認すれば、トーマ君はなんだか少し腑に落ちないような顔をしていたけど……それは気にしないことにした。


「そういえば、それを伝えておりませんでした。いや失敬」


 ポン、と握りった手をもう片手の平に乗せ、ツェンさんは曖昧に笑う。

 ……これは絶対、忘れてたね……?


「ええと……この後20時に、少し告知もありますのでその際に。場所が離れていても大丈夫なように、プレイヤー様専用の隔離空間を使って行う予定です」

「プレイヤー専用ってことは、その……」

「ああ、大丈夫ですよ。アキ様の心配はごもっともですが、今回はその辺りも対応させていただいてますので」

「よ、よかった……」


 ツェンさんの返答に、僕はそっと胸をなで下ろす。

 いざ戦うってなった時に、シルフがいなかったら……ホントに、役に立てないだろうし……。

 でも、20時って……。


「……20時って、あと10分やんか!」

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