第203話 始まった

 今回の話は、トーマ→リュン→アキと視点が移動します。

 次からはまたアキ視点となります。


――――――――――――――――


「その結果がこの形、というわけか」


 俺とヤカタの周りを、嵐のように吹き荒れる風。

 PKとの、この先を決める決闘――その一部。

 確認することは出来んが、きっと他の2組も、同じ状況だろう。


「そういうこっちゃ。すまんが、ちと付き合ってもらうで?」


 風の精霊……シルフの力を借りて、無理矢理3組に分けたのは、全員が分担して戦うため。

 そのシルフの魔法に、殺傷能力が無いってのは驚いたが、こうしてに、飛び込んでいける人間は、そういないだろう。

 もちろん俺も……俺に相対するヤカタも、だ。


「……それは無理だな。お前とここでやりあうつもりはない」

「は?」

「武器を置け、トーマ。現時点の俺に戦う意思はない」


 場が整い、相手が見え、理由もある。

 おおよそ決闘としては、申し分ない状況が揃ってる。

 そんな時に……こいつは何を言っとるんや……?


「俺は、全ての結果を……シンシに任せるつもりだ」

「任せるかて……」

「俺は、シンシが負けた瞬間、リタイアをするつもりだ。それならば、確実に勝敗が決するからな」

「……それは、アキが勝った場合、やろ? 言いたくないんやけど、アキが負けた際はどないするんや? まさか、俺がリタイアするとでも思うとるんか?」


 そう思っとるなら、妄想が過ぎる。

 悪いがこれは、3対3の決闘や。

 最終的には全滅が必須やけど、数が2対1になった時点で、少数の方には勝利が厳しいところを見れば、数が多い方が勝つ。

 例え、アキがシンシに負けようが、俺とあのガキが勝ちゃ、ほぼこっちの勝利は確定や。


 そこまで俺は考え、ヤカタの方へ顔を向ける。

 しかしそこには、少しおかしそうに顔を歪める、ヤカタがいた。


「なんや、何がおかしい」

「いや、めでたいな、と。さっきも言ったが、俺はシンシに、任せるつもりだ。勝つのも、負けるのもな」

「やから、それが……」

「それともこう言えば良いか? あいつが勝つなら、俺も勝つ。それ以外無い、と」

「――ッ! 言うやないか……! なら、そん時はお前のその鼻っ柱、きっちり叩き折ってやるわ!」


 腰のダガーを抜き取って、地面に座ると同時に目の前へ突き刺す。

 そんな俺に倣うように、ヤカタも笑いながら、武器の大槌を地面へと置いた。



「で、なんぞ言い残すことはあるか?」

「あらやだ、こわいわぁ」


 この身の丈を越えるサイズの斧を片手で担ぎ、目の前の男を視線で射抜く。

 しかし、遺言を聞く……とは、儂も丸くなったもんじゃな。

 もっとも、聞いたところで覚えておるかどうかは、知らぬがな。


「そうねぇ……面白そうだったから、かしら?」

「ほぅ」

「だってリュン、あの子ったら……私達のこと、友達って言ってたのよ?」

「アキか。相も変わらず、天気なやつじゃな」

「だからぁ……つい苛めたくなっちゃってぇ……」


 くねり、くねりと体を揺らしながら、フェンは頬を染める。

 その光景に眉をひそめつつも、儂は鋭く息を吐いた。


「……悪趣味めが。まぁ、良い、わかった。て、そろそろ限界じゃ。付き合え」

「あら、怒っちゃダメよぉ?」

「怒ってなどおらぬ」

「そうかしら?」

「……くぞ」


 いつまで経っても構えぬ奴に、左足を一歩前へと踏み出す。

 ……なぜだか妙に頭が熱いのは、興奮のせいであろう。



「始まったようですね。姫」

「方向的には……リュンさん達かな」

「リュン……確か、赤鬼でしたか。情報屋がそんなことを言ってましたね」

「情報屋って、もしかしてフェンさん?」

「えぇ、そうです。最大戦力、と言っていたかと」


 僕とシンシさんは、向かい合い、武器を構えたまま、互いに口以外動かさない。

 僕らは戦闘がメインじゃない……つまり、少しのミスが、取り返せないミスになりやすいのだ。


 しかし、最大戦力……か。

 確かにリュンさんは強いよ。

 あのジンさんを、軽く相手してしまうレベルなんだし。

 ただ……


「なんで、そんなに……落ち着いてるんですか?」

「落ち着いている、とは?」

「リュンさんが、最大戦力って分かっていて、フェンさんだと厳しいって言うのもわかりますよね? それってつまりは……」

「あぁ、なるほど」


 僕の言いたいことが伝わったからだろうか、シンシさんは少し口元を緩めて笑う。

 ……いや、笑うところじゃ無いと思うんだけど……。


「姫、それはですね……元々、そこの戦いは計算に入れていないからですよ」

「計算に、入れてない?」

「ええ、そうです」


 そんなばかな。

 そりゃ、フェンさんがリュンさんに勝てば、乱入も無く、状況が悪化することもないとは思う。

 けど、今回の戦いは、リュンさんが勝つ確率の方が高い。

 つまり、そうしてリュンさんが乱入すれば……シンシさんにはかなり状況が悪くなるはず……。


「……と、姫は考えるでしょう。正解、ですか?」

「……合ってます」


 僕の思考と、全く同じ内容を口頭で説明されてしまい、僕は頷くしかなかった。

 でも、そこまで読めてたら……計算に入れないなんて、できないよね?


「それは良かった。姫のその考えには私も大いに同意いたします。……しかし、1点だけ、予想と外れるはずですよ」

「外れる……?」

「えぇ、確かにリュンは勝つでしょう。ですが、彼女は助けに来ない。いえ、来られない、と言いましょうか」

「……どういうこと?」


 なんとも理解しにくい内容に、僕の思考が止まる。

 それがおかしかったのか、シンシさんは笑みをより深く見せ……僕へと告げた。


「お互いの情報屋が持っている情報量に、差が付きすぎているのですよ」

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