第198話 2人いる
「アキ様、ひとつだけよろしいですか……?」
「ん?」
そろそろ行かないと、とシルフから離れ、靴を履いていた僕に声がかかる。
反応して見上げた顔が、まだ少し紅く見えるのは、きっと、たぶん気のせい。
「シルフ、なにかあった?」
「あのですね……。もしかすると、今この島に、精霊が……2人いる気がするのです」
「2人……? シルフを含めてってこと?」
「いえ、私以外です。先程アキ様が起きてこられる前に、気付きまして……」
「なるほど……」
そういえば以前、僕、アルさん、トーマ君の3人で森に行った時……トーマ君がそんなことを言っていた気がする。
たしか、火の精霊と契約した人が現れたとかなんとか……。
「たぶん、1人は火の精霊だと思うよ。トーマ君がそう言ってたはず」
「そういえば、そうでしたね」
「ただ、もう1人はわからないなぁ。トーマ君が知ってるかもしれないし、また後で聞いてみるよ」
「はい、お願いします」
その言葉を締めに、溶けるように彼女が消えていく。
まぁ、シルフのことを知らない人もいるし、仕方ないかな。
しかし……精霊が他に2人……か。
「なにか悪いこととかじゃなかったら、いいんだけど」
そんなことを呟きながら、僕は衝立をズラし、みんなの待つ広間へと足を向けた。
◇
「お、やっと来たか」
「ごめんね、ちょっとやることがあったから」
「気にせんでええで。みんな納得しとることやし」
「そっか。ありがとう」
椅子に座っているトーマ君に軽く頭を下げて、改めて僕は広間の中を見た。
丸上の机を囲むように椅子があって、トーマ君の右にカナエさん、キャロさん、木山さん。
左側はひとつ空席があって、オリオンさん、それと……レニーさんだったっけ? 緑の髪の調薬メンバーの人が座っていた。
僕の知ってる人はそれだけ。
だから、トーマ君のほぼ真正面に座る青い大鎧の男性を……僕は知らない。
「アキさんは、こちらにどうぞ」
立ったままだった僕を気遣ってか、オリオンさんが隣の椅子を引いてくれる。
……やっぱり僕がそこなのか……。
「ありがとう、ございます……」
「いえいえ、お気になさらず」
紳士然とした仕草と表情で、オリオンさんは笑ってくれる。
……こういうことを、さらっと出来るって、すごいなぁ……。
「さて、これで揃いや。んじゃ
「えぇ、わかりました」
僕が座ったことを横目で確認したトーマ君が、正面の男性へと声をかける。
それを受けて、男性は頷くと、椅子から立ち上がり、一歩後ろへと下がった。
「先程ご挨拶をさせていただきました方には2度目になりますが、はじめまして。私はLife Gameの
「GM? もしかして……」
「えぇ、お久しぶりです、アキさん。あの時対応させていただきました、ツェンです。お元気でしたか?」
「ツェンさん!? お久しぶりです! あの時はお世話になりました!」
名乗られた名前に、思わず席を立ってしまう。
GMと言われたおかげで、記憶に残っていた声と、結び付いたのだ。
「なんや、知り合いか?」
「知り合いってほどでも無いんだけどね。ログイン直後の問い合わせに、対応してくれた人なんだ」
「ほぅ……」
僕の言葉に、内容まで思い至ったのか、トーマ君はそれ以上何も言わなかった。
そういえば、僕の性別を知ってるのって、シルフとトーマ君と、ここにいないアルさんだけだっけ……?
トーマ君も、森で話したときに「他の人には言うな」って言ってたはずだし、あんまり公言することでもないから、気にしてなかったけど……。
これからもっと知り合いが増えてくると、面倒ごととか増えてくるのかなぁ……。
……っと、今はそっちじゃなくて。
「その、ツェンさんがどうして?」
「そうですね……どこからお話すれば良いか……。ひとまず結論からお話させていただきますと、今回のイベントにおけるPKプレイヤーと、皆様との衝突を解決するために、こちらにお伺いさせていただきました。もちろん、PKを行っているプレイヤー様の方にも、別の者が伺っております」
「PKとの衝突を解決……?」
「なんや。運営側が動くんか? にしては、タイミングが遅いやないか」
僕がツェンさんの話をかみ砕いている間に、トーマ君はさらに先を考えている。
えっと、タイミング……?
でも、動き出したのは今日だから、遅いってわけじゃないよね……?
「えぇ、トーマ様の言う通り、少しタイミングが遅かったとは思っております。申し訳ございません。ただ……こちらでも、まさか最初のイベントから、PKプレイヤーが徒党を組むとは思っておらず……その辺りの対応策を検討している内に、事態が急変いたしまして……」
あ、もしかして対応が遅いっていうのは、僕より前……シンシさんがいなくなった辺りから、動き出しても良かったんじゃないかってことかな……。
それだったら、数日経ってるわけだし、遅いって思っても仕方ないのかも……?
「なるほどな……。まぁ、言わんとしとることは分かった。んで、どうなったんや?」
「それをこれからお話いたしますが……結論と致しましては」
トーマ君の相づちに反応するように、ツェンさんは口を動かす。
しかし、結論を口にしようとした瞬間、僕の方へ一瞬だけ視線を寄こし、目を伏せた。
そして、息を吸い……意を決したように目を開き――
「代表者の決闘にて、決めることとなりました」
と、力強く宣言した。
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