第197話 動き出した
「多分、そろそろかな」
吹き荒れる台風の、その目の中で休んでいた僕は、自分の感覚を頼りにそう呟く。
1分程度だったけど、その間はシルフに現状を説明したり、ラミナさんの背もたれになったり……。
……僕は休めてなかった気がしてきた。
「アキ」
「ん?」
「……何があるの?」
「んー……確証は無いけど、たぶん助けが来るよ」
「助け……?」
僕の言葉が理解出来ていないみたいに、ラミナさんは同じ言葉を繰り返す。
<予見>スキルで感じる……見える? のは感覚的なものに近いから、説明が難しいんだよね。
だから僕は「もうすぐわかるよ」なんて言って、ラミナさんの手を取って立たせた。
「シルフ、拠点側の風を少し弱めて貰える?」
「はい、大丈夫だと思います」
「うん、ありがとう」
真っ暗な夜闇のなかで光る炎。
激しく響く声と、剣撃の音。
……そして、この暴風。
――きっとトーマ君なら、気付いて
「――アキ! 出てこい!」
そう言って呼んでくれるはずだ。
◇
「っはー……疲れた……」
「お疲れ様。トーマ君、ありがとう」
「俺やない。みんなに言っといてくれ」
「それはもちろん。でも、トーマ君も、だよ」
「……そか」
あの後、助けに来てくれたトーマ君やみんなと合流して、一気に拠点内部まで走り抜けた僕らは、ひとまず落ち着くために、PK対策本部と書かれた
シルフがいるからか、拠点の防衛は風に任せて、雨を降らせていたカナエさんも、休憩に入っているらしい。
というか、あの広範囲を数時間って……大丈夫だったの……?
僕はカナエさんとはまだ会えてないから、人づてに「大丈夫」としか聞かされてないんだけど……。
「アキ。考えるんは必要やけど、今は休め」
「うぐ……」
「PK共が動き出したんは昼。やけど、お前は多分今日1日ずっと気張ってたんやろ? そないなやつの思考がマトモな訳がない。つーことで、休め」
「……はぁ」
「ま、それに心配せんでも、もう今日中はやつらの動きは無いやろ」
「そうなの?」
「……誰も好き好んで、死にやすい環境に身は置かんやろ。普通は」
そう言って、トーマ君は僕から視線を外し、外へと繋がる暖簾の方を見た。
なるほど……。
すでに、防衛のための手は打ってあるってことなんだね。
なら……まぁ……お言葉に甘えて……。
「少しだけ、休む、よ……」
言葉にした瞬間、襲ってくる眠気に抗えず、僕は意識を手放した。
あ……ログアウト、すればよかったなぁ……。
◇
「……キ、アキ……起きろ。アキ」
「ん……んぅ……?」
「休んどる最中にすまんな。お客さんや」
「お客、さん……?」
トーマ君の声に気付き、僕はゆっくり目を開ける。
体を起こしてから気付いたけど、ベッドに移されてる……椅子に座ってたはずなのに……。
「アキにだけってわけやないけどな」
「ん、わかった……。ちょっと待ってて、すぐいく……」
僕の言葉に、トーマ君も「りょーかい」と、いつもみたいに軽く返して、僕のそばから離れる。
彼が歩いていった方を見れば、なるほど……簡易的に区切って作った部屋なのか、
データで作られてる世界のはずなのに、寝起きの目はなかなか焦点があわず、ボヤけて見えるのが、なんだか少し面白かった。
「……シルフ」
「はい。お呼びですか、アキ様」
少しはっきりしてきた視界のなかに、緑色の少女が現れる。
同時に、ふわりと風が少し舞って、僕の髪を揺らした。
「……」
「アキ様?」
「来てくれて、ありがとう」
彼女の髪に、頭の上に手を伸ばして、優しく撫でる。
「あの時はバタバタしてて、ちゃんと言えなかったから」
本当は、お礼をする側が、こんなことをするものではないんだろうけど……。
彼女が、気持ち良さそうに微笑んでくれるなら、別にいいよね?
「だから、ありがとう」
「アキ様……」
簡易的に作られた部屋――つまり、音なんて外から聞こえててもおかしくない。
でも、誰も……この部屋には入ってこない。
それ以上に、音のひとつも……たてないようにしてくれている。
「シルフが来てくれなかったら、きっと僕らは負けていた。そして、トーマ君が来るまで耐えられなかった。むしろ、気付いてすら貰えなかったかもしれない」
「……」
「僕は弱い。シルフも知ってると思うけど……すっごく弱い」
「それは……えっと……」
僕の言葉に、微笑んでいた顔が、なんとも言えない……苦笑交じりの顔に変わる。
でも僕は、それをあえて見ないふりをしつつ、言葉を繋いだ。
「けど、強くなるよ。今日みたいな事があっても、自分だけじゃ無くて、ラミナさんも守れるくらいに、強くなる。……だから、それまではさ」
変な緊張がはしり、咄嗟に撫でていた手を止めて、深呼吸をひとつ。
そうだ……僕が彼女に伝えたいのはこれだけなんだ。
「だから、それまではさ、僕と一緒にいて欲しいんだ。僕は……シルフと一緒に成長していきたい」
「アキ様……」
「これからもよろしくね、シルフ」
返事は小さすぎてよく聞こえなかったけれど、下ろした僕の左手に彼女の手が繋がれた。
その温もりがひどく優しくて、僕は自然と、彼女を抱きしめていた。
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