第192話 封印状態

 今回の話は、スミス視点となります。

 次回もスミス視点となります。


――――――――――――――――


 アルさん達が強風の中で戦いだしてから、早くも30分以上が経過していた。

 攻撃を重ねているのか……次第に強まっていく風に、砂や埃なんかが吹き上げられ、始めは見えていた彼らの背中も今となっては全く見えなくなってしまっていた。


「だ、大丈夫っすかね……」

「んー……心配ではあるけど……、外からじゃ打つ手がないわね」

「魔法で援護したくても、座標対象が分からない以上、こちらからは……」

「そうっすよね……」


 一応、ほとんど使うことがないにせよ、俺も魔法スキルは持っていたりする。

 だからリアさんとティキさん、2人が言ってることは分かるし、納得せざるを得ない。


 特にリアさんと、この風は相性が最悪だ。

 土魔法は、土や石なんかを使って攻撃を行うことが多い。

 例えば、さっきリアさんが使っていた、石柱を立てる魔法〔天を貫く砂礫の塔グリティッド・バベル〕や、他にも大岩を落とす魔法〔堅硬なる破城の石槌バーテリング・ラム〕、地面の砂利や石を浮かび上げ無数の弾丸にする魔法〔数多なる無数の流星インフィニット・グレイブ〕なんかが代表的だ。

 しかし、物理的な攻撃であり、かつ狙い撃ち、もしくは無差別な魔法が多く、当たれば・・・・確実にダメージを取れる反面、使える状況が限定されてしまう。


 ……要は、風の影響を多大に受けるんだ。

 その中でも影響を受けにくい〔天を貫く砂礫の塔グリティッド・バベル〕は、発動する場所、先端の向く方向を正確に設定出来なければ意味がない。


「俺の魔法なら……まだ……」


 そう思って小声で詠唱を開始してみても……ダメだ。

 どうにも魔力の集まり方が悪い……。

 これがトーマの言っていた、抑制されている封印状態ってやつなのか……?


「今の詠唱……そういえば使えるとは聞いていたけど……」

「えぇ、一応っすけど……。ただ、どうも才能が無いみたいで」

「才能……魔力を集められないとか?」

「いえ、むしろ逆っす。その……意図せず集まりすぎて制御が出来ないんすよ。そのせいで何度も暴発してしまって」

「そんなこともあるのね……」


 多分、何度も暴発に耐えながら練習すれば……可能性はあるのかもしれない。

 けどそれは俺がしなくても良いと、言ってくれたヤツがいたんだ。


「でもそれなら、今は使えるんじゃない? まだ封印状態でしょ?」

「俺もそう思ったんですけどね……甘かったみたいで。普通なら多分集まりにくいと感じるだけなんだと思います」

「……そうじゃないってこと?」

「集まりにくいというか、めちゃくちゃなんです。ドバッと来たかと思うと、急に少なくなって……みたいな」

「あー……なるほど。元々扱える最大量が大きい分、上下の幅が広くなりすぎちゃうのね?」

「多分そうっす」


 リアさんの言葉に頷いた俺の視界に、何かが飛び込んで来る。

 あの形は……斧、か?


「――ッ!」


 斧の後を追うように、ジンさんが風の中から外へとはじき出されてくる。

 ……遠目で見ても分かるくらい、体中傷だらけで。


「ジンっ!」

「ジンさん!」


 そんなジンさんの元へ、はじかれたようにリアさんとティキさんが駆け寄る。

 俺はそれを見ながら、ジンさんの元では無く、不思議と飛ばされた斧の方へと足を進めていた。


「なんだ、これ……」


 地面から拾い上げた斧は、もう斧ではなかった。

 どちらかというと……形だけはノコギリか?

 そう思うほどに、刃先は刃こぼれなんてレベルじゃきかないほど、折れて欠けて潰れていた。

 どんな使い方……いや、これは使い方というよりも……。


「相手にした物が、滅茶苦茶過ぎた。そんな感じだ」


 それは刃を立てて見ても分かる。

 歪みというよりも、斧の刃……剣で言えば剣身に当たる部分が、横からの圧で曲げられているようにも見える。

 材料は……重さや感触からも分かる程度には、鉄。

 それも、アルさんの大剣と同等レベルの硬度はありそうな鉄だ。


「これは、ちょっとヤバい……」


 武器がこんな状態になる戦い……つまり、まだ中で戦っているアルさんも、いつまで保つかわからない……。

 どうする、俺はどうすれば良い?


「こんな時、トーマや……アキさんだったら……どうするんすか……?」


 斧を握りながら呟いた言葉に、何も返事なんて無く、ただひたすらに……風の音だけが響いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る