第193話 そのために来た
今回の話は、スミス視点となります。
次回からは、アキ視点に戻ります。
――――――――――――――――
トーマはなんだって出来る。
年齢は俺と変わらないように見えるのに、どんなことでも器用にやってのけてしまう。
……正直、憧れてるのかもしれない。
その点アキさんは、そんなにやれることが少ない。
採取と、調薬技術……その2つだけが飛び抜けてて、戦闘なんかに関しては俺どころか、子供にだって負けるんじゃないだろうか?
けど、アキさんは……ずっと前を向いて戦ってる。
2人とも……俺なんかより、ずっとすごいヤツらだ。
そんな2人に追いつきたくて、手助けになりたくて、俺は……
「俺は、ここに来たんだ……!」
考えろ……考えるんだ……。
オリオンさんはトーマやアキさんの補助に回った。
キャロさんは、テントを作ったり、防風の当て布を作ってくれた。
アルさん達やカナエさんは、探索を進めて、魔法の封印を突き止めてくれた。
俺だけ、まだ何も出来ていないんだ……!
だから……俺も、みんなのために何か……何かしたいんだ……!
――君なら、出来るよ。
脳内に、声が響く。
それと同時に、左腕から……真っ赤な炎が吹き出した。
「うわっ、あっつ……くない?」
左手の甲から、肩まで燃やす勢いで吹き出す炎。
まるで、全身を燃やし尽くしてしまいそうなほど、煌々と揺らめきながらも、燃えているはずの左腕は、全く熱を感じない。
……いや、少し温かい気がする。
「……遅えよ」
「ごめん。でも、間に合った……かな?」
「ギリギリ、だけどな」
少しハネ気味の橙色の髪。
まだあどけなさの残る顔に光る、燃えているほどに紅い瞳。
契約精霊……サラマンダーが、俺のすぐ横に顕現した。
「でも……お前が来たならやれるかもしれない」
「ボクも、そのために来たんだから」
「それじゃ、いっちょやってみるか!」
アルさんは言った。
――周りをよく見て、パーティーメンバーが何をしようとしているのか、それに対して自分が何を出来るのか。それを気にして戦って欲しい、と。
それに加えて、もうひとつ、大事なことを言っていた。
――君の全力は一番高火力かもしれない。だからこそ、叩き込む一瞬を逃さないように、とも。
「だからこそ、俺がするべきことは……」
最高の一発を、叩き込む。
アルさんが注意を引いてくれている今こそ、持てる全ての力を使って、叩き込む。
……それしかできない。
「リアさん! 俺を打ち上げてもらえますか!」
「え!? え、えぇ出来るけど……」
「それじゃ、合図したら、足元にお願いしますっす!」
失敗の恐怖と成功の興奮で、昂りそうになる心を、吐く息ひとつでそっと落ち着ける。
炉の前に立った時のように、ただ静かに……それでいて、心の奥には熱を持って……。
「
「んー、全力でも大丈夫。みんな動きたいみたいだから」
「そっか、了解」と、サラに返事を返しつつ、インベントリから袋をひとつ取り出す。
そして、手に持ったままの槌……その先端、ヘッドとも呼ばれる叩きつける部位の片方に袋の中身を取り付けた。
「スミス、それ……」
「完成した試作品ってところ。まぁ……実戦が初使用ってところだけどな」
「……爆発しない?」
「するぜ? 爆発」
俺の使う戦槌はアキさんに見せたギミック以外にも、いろんなギミックが搭載されている。
その中のひとつ……アタッチメントパーツ。
柄の所から引いてある魔法回路に連動し、使用者の魔力を使って動くパーツが取り付けられる。
ただし、まだまだ試作品で、正常に動くかどうかもわからない。
ぶっつけ本番の、大博打ってわけだ。
「そんじゃ……行くぜ……! リアさん!」
「――〔
最終確認を終え、息を整えてからリアさんに合図を出す。
さすが戦闘メインのプレイヤーというべきか……詠唱終了状態で待っていてくれたリアさんが、即座に俺の足下で塔を突き上げた。
「――ッ! 戦槌モード変更……“
「了解。魔法回路、接続完了っ」
サラの魔力と武器の回路をつなぎ合わせ、目的の高さまで空中爆発の爆風を使い移動する。
……サラがいなかったら、爆発の熱とかで死んでる気がするぜ……って!
「顔怖っ!」
「――――ッ!」
さすがに爆発音で気付いたのか、空高くに上がっていく俺の前に、獅子の牙が現れる。
しかし、それすらも小爆発で避け、上へ、上へと上がっていった。
「さて、ここから一気に行くぜ……!」
獅子の頭を飛び越えて、遥か高みの天井付近。
武器の耐久度的に……打てるのは、多分一発だけ。
「だからこそ、槌一振りに、命をかける!」
「す、スミス!? 全開は、君が……!」
「勝って倒れるなら、負けて死ぬよりもマシだ! 行くぞ……!」
「あーもー……!」
さっきつけたアタッチメントを下側に、魔力という魔力を、全て槌に流し込む。
俺に魔法の才能はない。
俺の魔力に反応して集まる、この世界に漂う魔力を……制御できないからだ。
しかし、サラがいれば制御はサラに任せられる……!
精霊の公使する魔法は、攻撃には使えない。
だからこそ、この武器には……回路が組み込んである!
「俺の魔力で……! サラが制御し……! 武器の回路で発動する!」
魔力に耐えられないのか、槌が真っ赤に染まる。
それでも良い。
この一発……叩き込めれば……!
「モード“
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます