第184話 猿マネ程度

 今回の話も、トーマ視点となります。

 次からはまたアキに視点がもどります。


――――――――――――――――


「さっきより反応が鈍いな!」

「――クッ、ソ!」


 立ち上った砂煙から出てきたアル。

 その姿をした男の動きは、あの訓練所で戦ったアルの動きと、ほとんど同じ……!

 むしろ、あん時よりも強い……投影したのがあれ以降のアルだからか!?


「トーマ。お前は強い……特に一対一で、ある程度動き回れる広さがあれば尚更だ。一発毎に離れるヒットアンドアウェイや、投剣による牽制。さらに、その俊敏性を活かしたアクロバティックな動き。それらを混ぜることで生まれる、戦いのペース掌握」

「……何が言いたい」

「なに。それ故に弱点が分かりやすいという事だ。……こんな風に、武器の間合いを抜けられない状況とかな!」

「チィッ!」


 余裕そうな顔で放たれた大剣を逸らし、逆の手で弾き飛ばすように間合いを開ける。

 さらに時間を稼ぐためのダガーを投げつければ……!


「ぬるい!」

「クソがッ!」


 投げたダガーの先端に、大剣の先端をずらし当て、男はまっすぐに距離を詰める。

 そのまま突き出された大剣を、身をひねって躱し、すれ違うように場所を入れ替えた。

 こいつ、無駄がなさ過ぎる……!


「けど、それだけや……!」

「――ッ!?」

「ホンマのアルは……もっと強え!」


 少しばかり面食らって、攻めのタイミングが掴めんかったが……もう落ち着いた。

 あん時よりも強いアル……だからなんや!

 俺かて、あん時より強くなっとる!


「せやから……猿マネ程度の奴に、負けるわけにいかんのや!」

「なっ!?」


 アルの武器は大剣……やけど、盾を兼任しとる関係で、本来のソレよりは堅く、重く作られとる!

 だから、攻めるんなら……重心を下げ、深く地面を蹴り飛ばす。

 アルの腰よりもっと下、地面に胸が擦る直前のギリギリ……!


「もっと……もっとや!」


 振り下ろされた大剣を、左手のダガーで逸らし……反動で斜めになった身体を無理矢理前へと進める。


「もっと、アイツは強ぇ!」

「――ッ!?」


 腕を伸ばさなくても拳が触れるほどの距離。

 そこまで近づいて……右手のダガーを下から上へと振り抜く。

 

「でも、俺の方がもっと強ぇ!」

「――ハッ!?」


 高く飛ぶように振り抜いたダガーは、男の足から胸を切り裂き肩口に抜ける。

 見た感じは致命傷……やけど、手に伝わる感覚じゃ、まだ……少し足りない。


「なん、なんだよ……お前……」

「なんや、顔から余裕が消え取るで。そんなもんか」

「……!」


 防具に大きく傷が出来たからか……?

 男の変装が解け、よろけるように後ろへと尻を落とした。


「ひとつ、聞きたいことがある」

「なん、だよ……」

「なんでアキを狙った? 拠点を襲う事と、あいつを攫うんは関係が無いやろ」


 アキがいたところで、戦闘で何か障害になるわけでも無い。

 それよりも、拠点に攫う事で、人手を割く必要も出てくる。

 正直……無駄を増やすだけや。


「……なぁ、なんでや」

「……さぁ?」

「は……?」


 雰囲気に合わない軽い返答に、思わず緊張の糸が切れる。

 そんな俺の油断を狙っていたのか、男が一瞬の内に俺から距離を取った。

 持っていた大剣を壁にするように、俺の方へと投げながら――。


「ッ!?」


 一瞬、迫る大剣に目を閉じた隙に、男の姿が消える。

 あかん、またや!

 先に縛り上げて、話なんかそれからすれば良かったんや!


「俺は何回……! 今日だけで何回しくじればええんや!」

「……多分、次で最後じゃないかな?」

「なっ!?」


 後ろから聞こえた声に、振り向こうと身体を回した直後、俺の眼前に刃が置かれる。

 ……女の声、それも良く知った声やった。

 2人目……やない、突き付けられた殺気が、さっきまでと同じや。


「……猿マネ出来るんは、男だけやないんか?」

「そんなこと言ってないでしょ? トーマ君が、勝手に勘違いしただけだし……」


 目の前に突き付けられたんは、ノミ。

 いつでも打てるように、木槌もしっかり構えとる。


「当たり前で偽もんやと分かるやつになって、どうすんや。本物かどうか悩ませるのが、お前の真骨頂やろ?」

「んー、そうなんだけどね。ただ……バレちゃってる今なら、僕の方が良いと思って」

「……殴れへんと。そう思っとるんか?」


 俺のその問いかけに、困ったような笑みで返す。

 言葉に詰まったら笑うところも……よう見とるわ。


「確かに、殴るんは気が引ける。仮にも・・・女なわけやしな? 俺はあんまし性別を意識はせんようにしとるが……かといって弱いやつを好き好んで殴りたいわけでもない」

「仮にもって……」

「やけど……。もし道を間違えとると分かれば、真っ先にぶん殴ったる。それが友達ってやつやからや!」

「は……?」


 言い終わると同時に、ダガーを指で上へ投げる。

 狙いはノミ……その先端と俺の目の間!

 ミスなんて考えなくてもええ!

 考えるんはひとつ……俺なら出来るってこと、それだけや!


「なっ!? ダガー!? どうやって!?」

「余所見……すんなよ!」


 ダガーを投げてフリーになった右手でノミ!

 ダガーを持った左手で木槌!

 両方を抑え、作った空間に、額をねじ込む!


「――がッ!?」

「だから、俺は……殴る! たとえそれが、アキやったとしてもや!」


 頭突きで浮いた頭目がけて、右足を振り上げる。

 殺さない程度に……かつ、確実に意識を刈り取るために……!


「これで、仕舞いや!」

「――ッ!?」


 振り上げ、横から叩き込んだつま先が、相手の顔へ綺麗に入る。

 勢いを殺さないよう、軸足を回しながら振り抜けば……数拍遅れて、地面から鈍い音が響いた。


「……それにアキやったら……。仮にも女……なんての、認めへんやろ。……男やからな」

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