第185話 今までとは

「アキちゃん。アレ、良かったの?」


 先行して走っていたハスタさんが、速度を落としながらそんなことを聞いてきた。

 きっと、PKさっきの彼に対してのことだろうけど……。


「うん。大丈夫だよ」

「アキちゃんが良いなら良いけど……。ポーションまで渡す必要は無かったんじゃないかなー?」

「まぁ、そうなんだけど……。なんだか渡したくなっちゃって」


 僕が渡したのは、最下級ポーションを数本と、味付きのポーションを2本。

 味付きのポーションは、忍者さん達が負傷していた時、すぐ飲めるように……って思って。

 そこまで渡したのは、僕らを2人が助けてくれたっていうのもあるけど……。

 たぶん、一番の理由は――。


「真剣、だったから」

「え?」

「あの人の目っていうのかな……雰囲気とか、そういったのがなんだかすごく真剣で、今までとは違ったんだ。上手く言えないけど、絶対に仲間を助ける、みたいな」

「ふーん……。私にはわかんなかったけど……」

「あはは……。もしかすると、僕の見間違いかもしれないけどね」


 微妙に納得がいってない様子のハスタさんに、苦笑交じりの言葉を返す。

 本当に見間違いなのかもしれない……でも、渡したくなったのは、本当だから。

 ……今気付いたけど、あの人……死んだって言ってたような……。

 てことは、あの筋肉痛になってたってことだよね……?

 うわぁ……。


「大丈夫」


 並行するハスタさんとは反対側で、ラミナさんが口を開く。

 それと同時に腕を伸ばし、僕の頭を撫でてきた。

 ……なんだか、慰められてるみたい。


「アキが決めたことだから。大丈夫」

「ん……うん、ありがとう」

「でもラミナ……あの人嫌い」

「そ、そうなんだ」

「そう」


 無表情のまま、嫌いと明言されると……ちょっと怖い。

 ほ、本当に良かったのかな、僕。

 でも……あの人の目や表情に近いものは、何度も見てきた気がするんだ。

 だから多分、大丈夫。

 そう思い至って、前へ向き直そうとした直後、僕の脳内にノイズが走る。


「っ! 念話……? 誰だろ……?」

『アキさん! 無事だったか……良かった……』

「アルさん!?」

『さっきトーマから連絡が来てな、アキさんが無事脱出したと聞いて、すぐ連絡を入れたんだが、繋がらなくてな……。心配したぞ』

「すみません……」


 多分、さっきの彼と会話してた時かもしれない。

 どうにも、PKの人の近くにいると繋がらなくなるみたいだ。

 ……アレ?

 でも、シンシさんと一緒にいたときには、繋がったような……。


『アキさん? 大丈夫か?』

「あ、はい。大丈夫です!」

『あぁ、無事なら良いんだ。……すまないな、俺が助けに行けなくて』

「あ、全然……その、ラミナさんやハスタさん。他にも色んな人が助けてくれましたので……。むしろ、僕の方が……ごめんなさい」


 元はと言えば、僕が捕まってしまったことが原因なんだ……。

 僕が捕まりさえしなければ……。


『その、アキさん……。ハラスメント報告や、迷惑行為報告はしなかったのか? 極限状態で忘れていてもおかしくはないが、そうすればGMがすぐにでも対処してくれるはずだが……』

「あ、えっとですね……。わざとやってないんです」

『……ふむ?』

「その、アルさんと始めて会った日に、アルさんの勧めの通りGMコールをして、その後現実の方でも相談をしてみたんです」

『ん……?』

「その時担当して貰った方に言われた言葉があって……。それが、“<Life Game>は、ゲームの中でその人らしく生きるゲームです”って言葉なんです。だから、PKする人達にも、なにかしらの考えがあって、行動をしてるって思ってしまって……」

『GMの介入を望まなかった、と?』

「そうです。それに、シンシさんもいたので……」

『なるほどな。まぁ、なら仕方ない。アキさんがそう考えて行動したなら、それはもうアキさんの自由だ』

「……ふふ」

『……? どうした?』


 頭に直接響くアルさんの言葉に、少し笑ってしまう。

 だって……


「いえ、ちょっとだけおかしくて……ふふ」

『よくわからんが……まぁ、良いか』

「はい。……っと、アルさん達はこれからどうするんですか? 僕らはこのまま拠点を目指して走るつもりでしたが」

『おっと、そうだった。アキさん、まだシルフさんは呼べないか?』


 僕の問いかけに対して、アルさんはなぜか、そんなことを聞いてきた。

 シルフはー……まだダメっぽいかな……?

 なんとなくパスは強くなってきてるとは思うんだけど……。


「まだ無理そうです」

『そうか。……上手くいくか分からないが、良い報告が出来るよう頑張ってくる。それだけだ』

「……? 何が……?」

『空に向けて光の柱が立ったら、強くシルフさんを呼んでみて欲しい。っと、時間だ』

「え? え?」

『それじゃ、また後で』

「ちょ――、切れた……」


 光の柱?

 シルフを呼ぶって……何をする気なのかな?


「アキ」

「ん?」


 念話の内容について僕が考えていると、しびれを切らしたのかラミナさんが袖を引っ張ってくる。

 そして、空を指さした。


「時間」

「あー、大分暗いね……」

「そう」

「……ごめん。それじゃ、日が落ちるまでに拠点に戻ろっか!」

「はーい! じゃあ、ちゃんと付いてきてねー!」

「……待って。姉さんが、一番心配」

「えぇ!?」

「だから、ラミナが前。姉さんは後ろ」


 また先頭を走ろうとしていたハスタさんに、ラミナさんがそんなことを言い始める。

 ……何か考えがあるのかな?

 ハスタさんも、薄々気づいてはいるのか、渋々といった感じで、僕の後ろについた。


「アキ」

「ん? なに?」

「一気に抜けて。何があっても」

「え?」

「お願い」

「わ、分かった」


 ラミナさんは相変わらずの無表情で、伝えてきた言葉の意味もよく分からない。

 ……意味はわかるんだけど、理由がわからない……。

 何か起こるってこと……?

 わかんないなぁ……。


「ほら、アキちゃん。ラミナ行っちゃうよー!」

「あ、うん!」


 先行したラミナさんに少し遅れて、僕も走り出す。

 そんな僕に笑いながら、ハスタさんも後ろを付いてきた。

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