第176話 攻撃を仕掛ける

「それでどうする? すぐにでも出るか?」


 なにかがおかしかったのか、声を抑えて笑いながらも、彼は依頼を受けてくれた。

 それから数秒して落ち着いた彼は、僕らへとそんなことを聞いてくる。

 きっと、僕らに話しかける前から、準備だけはしていたんだろう。


「手短にでいいので、状況を教えてください」

「オーケー。よく分かってるじゃないか。それじゃ、一気に説明するぜ」


 そう言って、彼は事実だけを並べるように現状を説明してくれる。

 ついさっき僕らの拠点に向けて、PKの集団が行動を開始したこと。

 その攻撃から拠点を守るため、トーマ君が動いてくれてること。


「あとこれは今関係ないが、お前が攫われた日の夕方に、アストラルのパーティーが水の神殿の封印を解除したみたいだな」

「水の神殿って……あのダンジョン?」

「あぁ、どうやらそのおかげか、水魔法の効果が安定したらしい。もっとも、元々自分で調整してたやつらにはあんまり違いがないらしいがな」

「魔法の効果……? そういえば、ヤカタさんが火の魔法が安定しないって言ってたような……」


 つまり、その情報が確かなら、水の神殿と同じように、他の神殿も封印されてるってこと……?

 いや、別に……それが僕らの現状と何か関係してるわけじゃないんだけど。


「今のところはそんなもんだ。これでいいか?」

「うん、ありがとう。やっぱり一度拠点に戻った方がいいみたいだね」

「そんじゃ、そろそろ始めるぜ。作戦は至ってシンプルだ。俺の仲間が表側に奇襲をかけて、わざと轟音を立てる。それと同時にこっちも壁を破壊する」

「……リュンさん?」

「ははっ、やっぱりわかるか。その通り、リュンが攻撃を仕掛ける。あいつは戦闘しか出来ないバカだからな」

「大丈夫、かなぁ……」


 ジンさんとの戦いを見てれば、多分大丈夫だと思うんだけど……。

 人数が人数だから、囲まれたらさすがに不味いんじゃ……?


「心配しなくても、俺もフェンもサポートに入る。お前らは壊した壁から一気に直進して森の中へと突っ切れ。そこで案内役を置いてる。あとはそいつらに任せろ」

「案内役……?」

「心配しなくても知ってる奴だ。そんじゃ……やるぞ」

「あ、ちょっと待ってください。他に捕まってる人もいるんですが……」

「そっちもこっちでどうにかする。そろそろいいか? 時間が無い」


 開始を告げる声を聞いて、僕らは部屋の中央へと退がる。

 それを待ってか知らずか、数秒の静寂の後……部屋が揺れるほどの轟音が響いた。


「……行ってこい!」

「ありがとうございます! あと、これをリュンさんに! 使わないかもですけど、いざという時に、息を止めて・・・・・割ってください!」


 穴から出ながら、ウォンさんに薬品の入った瓶を数本手渡す。

 僕の方には1本あれば充分だ。

 リュンさんなら使わないかもしれないけれど、もし使うことがあれば……助けになるかもしれない。


「わかった、渡しておく。……くれぐれも気を付けろよ」

「……はい。では、また!」


 挨拶もそこそこに、僕はシンシさんと共に走り出す。

 まっすぐに、森の中へ……!


「お願いだから、誰も出てこないで……!」

「姫! 森が見えてきました!」

「一気に駆け込むよ!」

「了解!」


 ガサッと音が立つことも気にせず、飛び込むように森の中へと入り、茂みで身を隠す。

 そうして落ち着いたからか、走ってきた後方で響く音に驚いてしまう。

 リュンさん……大丈夫かなぁ……。


「姫……心配なのはわかりますが、私たちはひとまず進まないと」

「うん。そうだね……このまま身を隠しつつ案内の人を探そう」


 先行するシンシさんが頷いたのを見てから、ゆっくりと森の中を進んでいく。

 案内役……僕の知ってる人ってことだったけど……誰だろう……。

 アルさん……は、さすがに案内よりも戦闘に参加させるだろうし、他のパーティーメンバーも一緒かな。

 だとすると生産メンバーだけど……みんなこういったのには向いてなさそうだなぁ……。

 オリオンさんなら何でも出来そうだけど。


「――ッ! シンシさん、ストップ!」


 何か気配を感じたわけではないけれど、シンシさんのすぐそばの茂み……そこになにかがいたような気がする。

 森の影でよく見えなかったけど……。


「誰かいる……?」


 鎮まりかえった森の中。

 まだ日は落ちていないのに、木陰のせいか、全体的に暗く視界が悪い。

 案内の人ならいいけど……もし敵だったら……。

 

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