第169話 明後日までには

「アキさーん! こっち手伝ってくださーい!」

「アキさん! こっちもー!」

「いや、こっちです! アキさん!」

「え? え? え!?」


 ダンジョンに向かうアルさん達を見送った後、作業場に向かった僕は……なぜか、四方から手伝いを希望されていた。

 と、というか、僕の手伝えることってそんなに無いからね!?


「おう! てめーら! 無駄口叩いてねぇで、さっさと作業しやがれ!」

「あまりお嬢の手を煩わせるな。作業班はそれぞれの作業に集中してくれ」

「うぃーっす、棟梁!」

「げ、親方……集中してるっすよぉ!」


 そんな僕を見かねてか……それとも、ホントにただ注意しただけなのかは分からないけれど、作業場に2つの怒声が響く。

 片方は大きく、もう片方は静かに……。

 けれど2つとも、騒がしい作業場でも不思議と耳に入ってくる。

 これも、ある意味技術……なんだろうか。


「すまねぇ、アキさん。俺んとこのモンが調子に乗ったこと言って」

「こちらもだ。お嬢、すまない」

「いえいえ、大丈夫ですよ。むしろ、私が手伝えることなんて特にないですし」

「いやいや、アキさんなら、いてくれるだけでも士気が上がるってもんよ」

「よくわからないですけど……」


 木山さんの言葉に、ヤカタさんも無言で頷く。

 まぁ、邪魔になってないなら良いんだけど……。


「それで、作業の方はどうですか? 材料とか足りてます?」

「拠点設備の方は順調だ! 材料も今のところ困ってはないな!」

「作業場の設備も問題はない。火力が足りない関係で、鍛冶用の炉の製造が少し遅れてるくらいだな」

「火力……ですか?」


 それだったら、火の魔法を使える人とかを呼べばなんとかなるのかな?

 多分レンガとか、そういったモノを作ってるんだろうし……。


「ああ。一応少しずつだが、耐火レンガのようなモノは出来てきてるんだが……」

「だが……?」

「協力してくれてる魔法使いが言うには、いつもより火力が上がらないらしい。要は、威力が低くなってるってことらしいんだが……」

「ふむ……」

「まぁ、多少遅れてはいるが、明後日までには完成出来る。一応、炉が出来る頃には他の設備も、大体完成しているはずだ」


 明後日ってことは……今日がイベント開始日から5日目だから……8日目か。

 イベント期間も2週間だし、もうあんまり時間はないなぁ……。


「そういやお嬢。ハリのやつの姿が見えないのは、聞いたか?」

「あ、はい。アルさん……えーっと黒い髪の男性から」

「……その後に気付いたことなんだが、どうやらハリの他にも数人、生産プレイヤーの姿が見えないらしい」

「え!?」

「材料を取りに、森に向かうところまでは見たやつがいるんだが……」


 まさかシンシさん以外にも、いなくなってる人がいるなんて……。

 しかも森?

 PKの集団が森に拠点を作ってるのと、何か関係があるのかな?


「なんにしても、みんな気を付けてくださいね。これ以上、人が減るのはちょっと……」

「お嬢……。帰ってきたら、ハリの奴を一発殴らないとな」

「全くだ!」


 そう言って、2人して手のひらと拳をぶつけ、音を鳴らす。

 その音が、結構大きくて……シンシさん、帰ってきたらそれはそれで死んじゃうんじゃないだろうか……。


「それじゃ、ひとまず私も自分の持ち場に戻りますね。何かあったら、また呼んでください」


 僕の言葉に返す2人の返事を聞きながら、僕は作業場の奥へと向かう。

 シンシさん達のことは心配だけど、僕は僕でやれることをやらないと。

 レシピも作ってたはずだし、みんな良品が作れるようになってたらいいなぁ……。


「あ、アキさん。こんにちは」

「あ、こんにちはー。どうですか?」

「一応、みんな[最下級ポーション(良)]の作成は成功したんですが……」

「そうなんですね! おめでとうございます!」

「ありがとうございます。アキさんのおかげです」


 そう言って、レニーさんに続いて、みんなが頭を下げる。

 みんなが作れるようになって嬉しい反面、こうして感謝されちゃうと、少し恥ずかしい気持ちになってくる……。

 と、とりあえず話題話題……。


「えっと……多分、下級はまだ作れないと思う。でも、作れないけど覚えておいて欲しい。ポーションの場合、最下級は[薬草]だけ。でも下級以上のポーションは、薬草以外にも使うアイテムがあるからね」

「そうなんですね……。この島だと、入手は難しいものなんですか?」

「んー……。ヒントを言うと、魔物の素材なんだ」

「なるほど……」


 これ以上はヒントをあげすぎになるのかな……?

 でも、兵士のおじさんは[アクアリーフの蜜]が素材になるって、教えてくれたんだよね……。

 んー、どこまで伝えるべきか……。


「アキさん」

「ん? 何?」


 考え込んでいた僕に、何か思うところがあったのか、レニーさんが声をかけてくる。

 その声に、僕が顔を上げると……


「これ以上は大丈夫です。みんなで探してみますから!」


 なんて、彼女たちは楽しそうに笑った。

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