第165話 天才的なくらい

「つまり、樹はそんなに伐れてないってことです?」


 本数の確認をすると同時に、生産プレイヤー達の現状を伝えていく。

 すると、アルさん達も、伐った樹は拠点設備の設営に使ってくれれば良いと言ってくれた。


「ああ。なにぶん不慣れでな……。ジンが斧を使い慣れていたこともあって、それなりには伐れたが……」

「まぁ、そればっかりは仕方ないですよね」

「すまない……。だが、今日はもう探索には行かないからな。こっちを手伝えるだけ手伝うぞ」


 そう言って、アルさんは右手で自分の胸を叩く。

 んー……だったらアルさん達にはどうしてもらおうかな……。

 伐るのは、僕とジンさんでやっていく方が効率はいいだろうし。


「あ、だったらアルさん達は、この樹を運んでもらえますか? 一度に1人3本しか持てないみたいなので」

「分かった。場所はどこに行けば良い?」

「オリオンさん。案内をお願い出来ます?」

「かしこまりました。早速向かうようにしましょう」


 その後少し話をして、アルさんとオリオンさん……さらに、魔法使いは役に立てそうにないということで、カナエさん、リアさん、ティキさんも樹の運搬を手伝うことになった。


「あと、もうひとつお伝えしとかないといけないことがありまして……」

「ふむ。なんだ?」

「なんだか、理由は分からないんですが、ここの拠点以外を拠点にしているプレイヤーがいるみたいです」

「……そうか。トーマ、お前はそっちを確認してきてくれ」

「りょーかい。……スミスを借りてええか?」

「あぁ、大丈夫だ。頼む」


 拠点外を拠点にしてるプレイヤーがいる、たったそれだけの情報で、アルさん達は大体分かったみたいだ。

 アルさんなんて、眉間に皺が寄ってたし。


「他のメンバーは、採取場所付近の警戒を頼む。その……」

「手伝う。姉さんも」

「迷惑掛けちゃったしね! 任せて!」

「……すまない。頼む」


 快く引き受けてくれた2人に、アルさんは深く頭を下げる。

 それからジンさんの方を見てから、樹をインベントリにしまうと、拠点へと向けて歩いていった。


「さて、それじゃとりあえず……」

「アキ、パーティー」

「あー……そっか、その方がいいかな?」


 一応パーティーを組めば、お互いのHP状況も分かるし……。

 でも、実際に戦闘になったらあんまり見てる暇ないんだけど……。


「とりあえず申請を送りますね」

「おう! 戦闘になったら任せとけ。……なんかあったらアルに顔向け出来ないしな」

「ジンさん……」


 ジンさん以外にも、キャロさん、ラミナさん、ハスタさんへも申請を送っていく。

 そういえばキャロさんって戦えるのかな……。

 見たことがないんだけど……。


「私は戦闘になったら、その辺りの木の陰に隠れてますので」

「うぇ!?」

「一応武器は持ってますけど……。数える程度しか使っていないので……」

「あー、アキちゃん。こいつは戦わせない方が良いぜ……」

「そ、そうなんですか?」

「ああ。天才的なくらいに、戦闘センスが無い。敵じゃなくて、こっちに被害が増えるってやつだ」

「あはは……お恥ずかしながら……」


 申し訳なさそうに笑うキャロさんの姿に、その言葉が本当だと言うことが分かる。

 というか、そこまでひどいって……あり得るの……?

 僕もあんまり戦いには自信がないし、戦いになったら後ろに下がる予定だったけど……。


「アキ、任せて」

「うんうん! 私とラミナがやっちゃうから!」

「あー……うん。お願いするね」

「大丈夫」


 実際、僕よりこの2人の方が強いだろうし、信頼して任せちゃった方が良いかな。

 森でPKに狙われた時も、ハスタさんは1人倒してたみたいだし。

 あ、でも2人の戦ってるところって、最初の時以外は見てないんだっけ?

 あの時は、ハスタさん……玉兎に頭踏まれてたのになぁ……。


「ま、一旦戦闘のことは後にしとこうぜ! さっさと伐らねぇとアル達が帰ってくるからな」

「ですね。 ひとまず伐りましょう。その間3人は周りの警戒をお願いします」


 とりあえずで指示を出し、みんなが頷いてくれたのを見てから、樹を選ぶ。

 ジンさんとほどよく離れて……それでいてまっすぐな樹……。

 太すぎず、細すぎず……叩いてみて軽い音がしないかどうかも確認して……。


「これかな」


 僕の目の前、まっすぐに立った大きな樹。

 見た感じ、僕の身長3倍から4倍くらいだろうか……。

 結構大きいけど、場所も太さもちょうどよさそう。


「よし、それじゃやりますか!」


 インベントリから木斧を取り出して、まずは軽く刃を当てて方向を確認。

 倒す方向はこっちで大丈夫かな……?

 切っ先を入れて、修正して、また入れて、と繰り返す事数回。

 ちょうど良さそうなところに切れ込みが入った。


「息を落ち着けて……足を開いて、木斧をしっかり握る……」


 それから、しっかり樹を見据えて……。


「――ッ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る