第164話 腕がちぎれたり

 ラミナさんとお薬を作り終えた後、レニーさん率いる調薬チームの前で[最下級ポーション(良)]を作り、サンプルを渡した。

 手順自体は簡単だし、灰汁を取るのを止めるタイミングや、お湯の色ままで見せたから、きっと大丈夫だと思う。

 というか、これで出来なかったらきっと別のなにかが関係してそう……。


「……と言うわけで、僕らもこれからそちらに向かいます」

(わかった。少し急いでもらえると助かる)

「何かあったんですか?」

(少女が暴れている。ハスタさん、と言ったか?)

「……わかりました」


 アルさんとの念話を切り、ラミナさんへと向き直る。

 そして、彼女の手を握り……僕は歩を早めた。


「あ、アキ」

「その、ハスタさんが暴れてるらしい」

「姉さん……」

「だからちょっと急ごう」


 顔を見なくても頷いてくれたのが分かる。

 ラミナさんは、表情がほとんど変わらないけど、協力はしてくれるから助かるよね……。


 けど、ハスタさん……暴れてるってどういうことかなぁ……。

 魔物と戦ってるとかかな?


「姉さん、戦うの好きだから」

「あぁ、うん。それはなんとなく分かるかな」

「でも、周りも巻き込む」

「あー……」


 まぁ、元気だしね……。

 それに持ってる武器も長いから、どうしても広く戦わないとダメっぽいし、仕方ない……仕方ないよ。


「とりあえず走るよ」

「大丈夫。アキ、遅れないで」

「えっ!?」


 ラミナさんの姿がグッと下へ落ちると共に、繋いでいた手が一気に引っ張られる。

 あ、ちょっと待って!

 腕、腕がちぎれ……るうぅぅぅぅぅ!




「お、お疲れさん」

「……うん」

「とりあえず、アキさんはそこで休んでいてくれ。あの子の対処は妹さんに任せれば良いだろう」


 勢いを落とすどころか、増しながら森へと到着した僕は、繋いでいた手が離れると同時に滑るように地面へと突っ伏した。

 ……ラミナさん、お願いだからもう少し優しく……。

 そんな僕を見かねてか、普段は笑ってそうなトーマ君ですら、声が引きつっていた。


「……顔が痛い」

「せやろなぁ……。あんだけ勢いよく滑りゃ、そーもなる」

「これってポーションで痛み消えるのかな……」

「HP減ってんなら効果あるんじゃね? 分からんけど」


 そういうモノかなぁ……なんて思いながらも、[最下級ポーション(良)]を飲んでみる。

 うへぇ……味調整してないやつはやっぱりにがぁ……。


「お」

「あん? 痛み引いたか?」

「うん。効果あったみたい」

「はー。つーことは、外部からのダメージなら大体なんとかなるってことか」

「かなぁ? ……これって仮に、腕がちぎれたりしても効くのかな」

「……知りたくもねぇ」

「だよねぇ」


 ただその場合、ちぎれた腕はどうなるのかとか、そういった話も絡んでくるとは思うけど。

 ……極力、そんな場面には遭遇したくないなぁ。


「姉さん」

「申し訳ございませんでしたっ!」

「まぁ、こっちに被害は無かったし、次からは気を付けてくれれば良い」


 っと、そんなことを考えてるうちに、ラミナさんがハスタさんの手綱を握ったみたいだ。

 ……あのすごい傷の入ってる樹って、そういうことかなぁ?

 伐ったっていうか、貫いたみたいな樹も数本転がってるし……。


「それで、何をしてたの?」

「あ、アキちゃん。やっほー」

「あ、うん。ハスタさん元気だね……」

「元気だけが取り柄だからねっ! さっきまでは、一撃必殺の練習してたの」

「一撃必殺……?」

「そそ、こうやって……ッ!」


 笑顔を見せた瞬間、反転して足を開き……、直線上にあった樹の方へ踏み込む。

 ドンッと地面を踏む音が聞こえ……樹へと槍が刺さった。

 ……結構深くまで刺さってない?


「むぅ……。やっぱり貫けない」

「そりゃ、普通は貫けんやろ」

「でも、よく漫画とかゲームとかで見るよー! こう、ドンってやってドスッバキッて」

「まぁ、そりゃ漫画とかゲームなら誇張表現ってのもあるとは思うが……」

「でも、ここゲームだもん! 出来てもおかしくないよ!」

「そ、そー言われるとそーなんやけども……」


 おぉ、トーマ君が言い負かされてる……!

 すごい、ハスタさんすごい!

 って、そうじゃなくて……確かにこのゲームってリアル過ぎて現実と混ざりそうだけど、ゲームではあるんだよね。

 さっきのポーションだってそうだし……。


「なぁ、アル。お前はどう思うよ?」

「ふむ。そうだな……言われてみると確かにゲームではあるからな。出来ないことは無いんじゃないか?」

「ま、マジかよ……」

「ああ。実際トーマの目や耳に関しても、現実での可能レベルを大きく超えてはいる。その点で考えれば、武器を使い一閃の元に樹を切り倒すことも可能かもしれない」


 あー、確かにそうかも……。

 トーマ君の身体能力って、現実から考えると大きく逸脱してるんだよね……。

 木々の上を飛び回って移動するとかもそうだけど。


「ただ、だ。簡単にはできないだろうな。修練を繰り返し、自らの身体の動きや、力の伝わり方なんかを知ることも必要だろう」

「……むむ?」

「つまり、今の状態では無理だ、と言うことだ」

「そっかー。それだったら仕方ないね!」


 そう言って、ハスタさんは樹から槍を抜いて、インベントリへとしまう。

 これでようやく落ち着いたかな?

 それじゃ、進捗の確認をしていこう!

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