第166話 相手を殺すこと

 大きな音を立てて、樹が地面へと倒れる。

 これで、10本目……。

 結構倒した気がするけど、まだ足りないんだろうなぁ……。


「よし、アキちゃん。ちょっと休憩しようぜ」

「あ、はい。ジンさんも疲れました?」

「連続して斧を振るい続けると、さすがにな」


 「はー、どっこいせ」と、ジンさんはわざとらしく声を出しながら、切り倒した後に残る切り株へと腰を落とした。

 戦いであれだけ振ってる武器でも、いつもと違う事をすると疲れるってやつかな。

 僕が来る前から伐ってたわけだし、僕よりも精神的にも疲れが出るよね。


「でも、アルさん達。遅いですね」

「そうだな……。まぁ、さっきアキちゃんが言ってた事を確認して来てるんじゃないか?」

「拠点外のプレイヤーの事です?」

「そうそうそれそれ。まぁ、俺も十中八九、PKの集団だと思うけどなぁ」


 みんなそう思うって事は、やっぱりそうなんだろうか……?


「ジンさん。PKの人ってなんでPKするんですか?」

「ん? あーそうだな……、前にやってたネトゲでもさ、PKっていたよ。そんで、俺も実際に戦った事があるんだけどさ。あいつら、なんか楽しみ方が俺らと違うんだよな……PKにも種類があるんだと思うけど、俺の相手は人とギリギリの戦いをするのが好きってやつだったなぁ……」

「ほぇー……」

「でも、そいつはPKしてるって言っても、強い相手を選んで戦ってるやつだった。だから高レベルのところにしか来なかったし、実際被害っても特になくて、取られたアイテムも戻ってきてたしな」


 なるほど……。

 じゃあその人は、ホントに試合がしたいみたいな感じだったのかな……?

 それの手段としてPKをしてたってだけ?


「ただ、俺は会ってないけど、最悪なやつもいたらしいぜ? ……悪鬼とか、死神グリムリーパーって呼ばれてた、相手を選ばず、目に付いたやつを片っ端から殺していく通り魔みたいなやつとか。他にも、相手を殺すことだけに快感を得てるみたいなやつもいたしな。そういったやつらは、VRだとより快感を得たりするんじゃないか? 実際に悔しがるところや、怒るところを見れるんだしさ」


 あー、そっか……。

 このゲームっていうかVRだったら、感情がリアルに表に出ちゃうから、余計に楽しませちゃう場合もあるんだ……。

 もしそうだとしたら……倒しやすい初心者さんを狙ってくるのかなぁ……。


「でも、そうだとしたらどうすれば……」

「あー、それはだ「ふふっ。1人にならないこと。それから、複数人でいても、退路をちゃんを確保しておく事よ」……誰だ?」


 ジンさんの言葉を遮って、高い男性? の声が聞こえた。

 どこかで聞き覚えがあるような気がするんだけど……と思いながら、声のした方へ視線を動かすと、ごくごく自然に溶けとむみたいに、フェンさんが切り株に腰掛けていた。


「ふふっ。アキちゃん、久しぶりねぇ」

「フェンさん! イベント参加されてたんですね!」

「えぇ。依頼の事もあったし、それに……少しね?」

「……?」


 口元に人差し指の真ん中を当てながら、フェンさんは軽くウィンクをする。

 だ、男性だよね……?

 すごい可愛い……いや、綺麗……?

 そんな、よくわからない感情を抱いた事を忘れるように、頭を数回左右に振り、僕は口を開いた。


「え、えーとフェンさん、どうしてココに? あとリュンさんは一緒じゃ無いんですか?」

「用事があって向かうところだったの。ここはその通り道。リュンは……そろそろ来るんじゃ無いかしら?」


 フェンさんが困ったように笑いながらそう言った直後、森の方から何かが僕らの視界に飛び込んできた。

 あれは……魔物……?

 前に戦った事のある、茶毛狼ブラウンウォルフと似てるけど、かなり小さい?

 いや、あの狼が大きすぎただけだと思うけど……。


「カッ! どいつもこいつも、群れるばかりか! 腕慣らしにすらなりゃせんわ!」

「ほら、来たでしょう?」

「そ、そうですね……」


 可愛らしい赤の着物に、長く腰まで届く黒の髪。

 その大和撫子を思わせる、可愛らしい姿で……リュンさんは、身の丈ほどもありそうな大斧を左右にひとつずつ持ちながら歩いてくる。

 さすがに地面が柔らかい土だからか、下駄の音はあんまりしないみたいだ。


「しかし……そこに良い相手がおりそうじゃのぅ……? なぁ?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る