第156話 意味がある

「アキさん、どうした! なにかあったか!?」


 僕の声に反応して、アルさんだけじゃない……トーマ君やリアさん、カナエさんも僕のそばに来てくれた。

 むしろ、アルさんよりもトーマ君の方が早くて、びっくりしたけど。


「アルさん。この葉、見覚えがありませんか?」

「葉、か? すまない、俺はそっちの方はあんまり……」

「よーく見てください。ほら、2人で森に行ったときに」

「森に……? そう言われると、どこかで……」


 祭壇のように作られた石造りの床。

 そこに掘られていた溝の中から、僕は1枚の葉をアルさんに見せる。

 アルさんはちゃんと覚えていないかもしれないけど、これは以前一緒に見た素材なんだ。

 

「……浮木草ウキギソウ

「あぁ、そうだ! これはあの時、アキさんが俺に教えてくれた草の葉じゃないか!」

「思い出してもらえたみたいで良かった……。そうなんです、これ浮木草の葉なんですよ」


 アルさんだけじゃなくて、他のみんなにも見せるように葉を動かす。

 浮木草の葉……つまり、水に浮いた木片のような見た目をした葉。

 水辺に自生する草だと言うことも合わせて、説明をしていく。

 つまり、これが何を意味するかっていうと……。


「アルさん、地図を見せてもらえますか?」

「あぁ、ちょっと待ってくれ」


 呼応するように、リアさんがインベントリからテーブルを出し、アルさんは地図をテーブルの上に広げた。

 アルさんはきっと、僕が何を言いたいのかはもうわかってるはずだ。


「アルさん、あの」

「地図上を見る限り、この付近には川も湖も無いな……。トーマ、調べられるか?」

「りょーかい。ちっと待っとれ」


 言うが早いか、トーマ君は森へ飛び込み、木の天辺へと上っていく。

 ……やっぱりトーマ君は曲芸師かな。


「見える限り、聞こえる限りに水辺はない。反射も音も感じんわ」

「ふむ……。昨日今日と、魔物も生息を確認できない以上、付着したとも考えにくいな」

「あ、それは絶対無いです。実は浮木草だけじゃないんです。この辺り……ちょうど溝のある辺りの植物は、全部が水辺のモノですので」

「なるほど……な」


 けど、僕がわかるのはそこまでだ。

 この場所に、なんでそれらが自生しているのか、まではわからない。

 やっぱり、僕じゃあんまり役には……。


「そう言われてみると、この溝……なにか意味があるんじゃない?」

「溝に、意味……?」

「だって、なんだか模様みたいじゃない? 石柱の立ち方も溝も、よく見たら左右対称みたいになってるし」

「確かにな。VR以前に流行ったRPGなんかでは、こういうところにワープの魔法陣があったりな」

「せやな。魔力やらが仕掛けで流れるようになっとるとかな」


 模様……魔法陣?

 リアさんや、アルさんの言葉が、なんだか……なんだろう……。


「水のそばで……。魔法……魔力……」

「あ、アキさん……?」

「仕掛け……魔力……発動……?」


 そういえば、魔法は魔力と一緒に『火種』となる何かが必要って、ジェルビンさんが言ってた。

 大元になる属性の力が込められた魔力。

 それが『どう動くのか』という、指示を出すことが……火種……?


「魔力に、属性を足して、回路を通して……」

「アキ……お前……」

「……魔力の込められた……水? 精霊の泉……いや、それだと必要量が多すぎる」


 瓶に入れて何本必要になるか……。

 それに、仕掛けとしては手間がかかりすぎる。

 このイベントは、ゲームを始めたてのプレイヤーでも楽しめるようになっているはず。

 それならば……もっと手軽な……。


 ――周りを頼りなさい。アキちゃんの周りにはいろんな人がおるはずじゃ。


「……魔法。そうか、魔法だ!」

「お、おう!? どうした急に!」

「えっと……試してみたいことがあります!」

「あ、ああ」

「なので……カナエさん。手伝ってください!」

「私ですか? わかりました」


 思い付いた内容は、至極簡単なことだ。

 魔法で雨を降らせる、これだけのこと。

 魔法を起こすためには、属性の込められた魔力を回路に流すことが必要だ。

 つまり、人が魔法を発動するためには、魔力を『詠唱』という回路に乗せて流すことが必要なんだ。

 そうして産み出された魔法には……魔力が込められてるはずなんだ。

 ……たぶんだけど。


「じゃあ、お願いします」

「はい、では……清らかなる、乙女の祈りはこの身と共に。清澄せいちょうたる想いを以って、数多降り注ぐ光となれ。❲穢れを払う天の雫ブレスド・レイン❳」


 僕らの先頭に立ち、詠唱と共に、カナエさんは杖を掲げる。

 すると、ポツリ……ポツリと雫が降り始め、数秒ほどで雨と言えるほどの量になった。


「でも、前見たときより穏やかな……?」

「込める魔力量を少し減らしましたので。急いでるときには出来ませんが、今みたいに落ち着いていれば多少は」

「なるほど……」


 そんな話をしている間にも、雨は地面を濡らし、溝へ流れていく。

 次第に溝へ溜まっていく……そして、その時はいきなり訪れた。

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