第155話 強いて言えば

「遺跡、ですか……?」

「ああ。よくある中世ファンタジー世界の遺跡、という感じのものだな」

「つーことはあれか。割れた石柱やら、建物やらがゴロゴロしとるような」

「そういうことだ」


 あー、なるほど……。

 RPGのゲームにもよく出てくる、あんな感じの遺跡かぁ……。

 ってことは、ゴーレムとかいるのかな?


「そんで、魔物はおったんか?」

「いや、全くいなかった。不自然なほどに、気配ひとつ感じられなかった」

「……キナ臭いな」


 アルさんの報告に、笑い顔だったトーマ君の表情が、急に影を帯びる。

 でも、僕でもわかる……。

 それは、絶対なにかある、ってことが。


「しかし、ざっと辺りを調べて見たが……なにも見つけられなかった」

「……はぁ?」

「アルの言う通りだ。魔物の気配もないってことで、手分けして探したんだが、全く見つからなかった」

「でも、そこって絶対なにかありますよね? 見えない仕掛けとかがあるのかなぁ……」


 アルさんだけじゃない、ジンさんも口を揃えてそう言うってことは、本当になにも見つからなかったんだろう。

 けど、絶対なにかある……みんなそう思ってるのが、口にしなくても雰囲気でわかる。

 そんな、重い空気が漂うなか、アルさんは少し口元を歪めながら、「そこで、だ」と言葉を紡いだ。


「明日、もう一度調査に向かおうと思う」

「あん? つーて、今日と変わらんのやったら、意味ないやろ?」

「あぁ、その通りだ。だからこそ、頼みがある。アキさん、トーマ。2人が一緒に来て欲しい」

「……え?」

「はぁ? 俺はわからんでもないが、アキもか?」

「そ、そうだよ! 僕が行ったところで……」


 そう、行ったところで役に立てる気がしない。

 ゲームの知識はアルさんの方があるし、情報や感覚はトーマ君がいれば問題ない。

 僕が出来ることなんて、お薬を作ってみんなをサポートするくらいしか……。


「いや、そんなことはない。アキさんには、アキさんしかできないことがあると思ってる。他のみんなには無い力が」

「そ、そんなの、ないよ……」

「ま、別にええ。アキが一緒の方が面白おもろいしな」

「あと、パーティーの制限が5人までだからな。明日はジンとティキが拠点に残ることで決定済みだ」

「わ、わかりました……」


 そこまで決定してるなら、僕は行かないと……だよね。

 ジンさんの武器が斧だし、明日はジンさんに木を伐ってもらうようにお願いしとかないと。

 オリオンさんに場所教えてもらえば大丈夫だろうし……。


「それじゃあ、みんな。明日もよろしく頼む」


 アルさんの言葉に、各々で頷いて僕らはこの日を終えることにした。




「到着、だな」

「ほんまに遺跡やなぁ……」


 翌朝、拠点に集合した僕たちは、連絡事項だけ確認して、調査へと向かった。

 拠点から歩いて数十分ほど、森の木々の間を抜けていくと……突然視界が晴れる。

 そこには、僕のイメージ通りな遺跡が広がっていた。


「さて、見て分かるように、そんなに大きな遺跡じゃない。昼になって他のパーティーが来る前になにか見つけたいところだな」

「んー……アル。あそこの石柱の上まで俺を飛ばせるか? リアさんでもええけど」

「あ、あぁ、可能だと思うが……」

「そんじゃ頼むわ」


 言うが早いか、アルさんが背中の大剣を構えると同時に、トーマ君は体を宙に浮かせる。

 そして、押し出されるかのように空を飛んだ。


「……流石だな。俺の剣が離れる直前に自分でも跳躍をしたか」

「トーマ君って、なんなんでしょうね……」

「曲芸師じゃないか?」


 真顔でそんなことを言うアルさんに、少し笑っていると、トーマ君は早々に石柱から降りてきた。


「上から見た感じ、なんや怪しい場所があるな」

「ほう」

「そこの奥やけど、祭壇みたいになっとるところがなんか妙や」

「根拠は?」

「無い。強いて言えば、勘や」


 真剣な表情でそんなことを言うトーマ君に、首を傾げながらも、僕たちはその場所へと向かった。

 どうせ何もなかったら全体を探すからね。

 最初はトーマ君の勘を信じても、損はないし。


「それじゃこの辺りを手分けして探そう。くれぐれも足元の溝には気を付けてくれ。足を取られてコケたりなんかは恥ずかしいぞ」

「善処します……」

「常にアキが見えるようにしとかんとな。良い瞬間を見逃すかもしれんし」

「トーマ君!?」

「冗談や」


 さっさと逃げるように背を向けたトーマ君を睨みつつ、気分を落ち着けるように息を吐く。

 そんなことをしてる間に、他のメンバーはみんなそれぞれで行動を開始していた。


「んー、パッと見た感じ……なにも感じないなぁ」


 正直、探索なんて素材を採取するときくらいなんだ。

 だからこんな風に仕掛けを探すとか言われても……。


「うん! わかんない!」


 としか言えないよね。

 でも折角ここまで来たんだし……ちょっとくらい採取しても、大丈夫だよね?

 見たことない素材、見つかるかもしれないし。


「お、言ってるそばから新素材だ! なんて草なんだ……ん?」


 初めてみる草……しかし、それよりも僕が目に付いたのは……ひとつの葉。

 これって確か、以前に。

 そう思い、手にとって鑑定をかけ――


「……アルさん! すぐに来てください!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る