第154話 また、明日

「ん! んんんん! ……美味しいー!」

「……」


 拠点東側の木材置き場で、自分達が取ってきた木に腰かけつつ、オリオンさんの淹れてくれたお茶を味わう。

 ハスタさんも、ラミナさんも、各々が各々でお茶の美味しさに舌鼓を打ってるみたいだ。

 というか、髪色以外はほとんど一緒なのに、反応が違いすぎてちょっと面白い。

 ハスタさんは全身で表現して、ラミナさんはただ静かに、飲んでは頷いてを繰り返してる。

 けど、それもわかる……やっぱりオリオンさんはすごいよ……。

 環境が整ってなくても、こんなに美味しいお茶を淹れられるなんて。


「お気に召したようで、大変嬉しく思います。ただ、合わせの方は、出来合いの物になってしまいますが……」

「大丈夫」

「うんうん。気にしないでください! 私は今でも十分すぎるほどに満足ですからー!」


 そう言って手持ちのお茶を飲む2人。

 けど、2人共……お菓子が楽しみなのか、視線がうろうろして、ちょっと挙動不審な感じ。

 オリオンさんもそれには気付いているんだろう。

 少し苦笑気味に、インベントリから袋を取りだし、その中へ手を入れた。


「紅茶が少し甘めですので、こちらはさっぱりとしたクッキーにしましょうか」

「クッキー!」

「……!」


 ……目ってホントに感情を表してくれるんだなぁ……。

 クッキーって聞いた瞬間、2人の目が光ったような気がする。

 女の子って、やっぱりお菓子が好きなんだ。


「お、おいしー! サックサクで、紅茶の味にも合うし、美味しいー!」

「……美味しい」

「食べるのがもったいないー! でも、手が止まんないよー!」

「姉さん、それラミナの」

「バレたー!」


 ワイワイと、主にハスタさんが騒ぎながら、お茶を楽しむ。

 夕日が完全に隠れるまで……お茶会の時間はもう少しだけ。

 なんて、ガラでもない感傷に浸りながら、僕はゆっくりお茶を飲み干した。




「じゃあアキちゃん、またねー!」

「うん。今日はありがとう。またね」

「アキ」

「ん?」

「明日も、来る?」


 オリオンさんに対し、「ごちそうさまです、師匠!」とか言ってるハスタさんを尻目に、ラミナさんが僕のすぐ前に来る。

 今の僕とほとんど変わらない背丈の彼女は、いつもの無表情でそんなことを言いながら、まっすぐ僕を見た。


「……うん。来るよ、きっと」

「そう。ならいい」

「何か用があった?」

「そうじゃない」

「そうなの?」

「そう」


 じゃあ何で聞いたんだろうか。

 よくわかんないなぁ……。

 でも、明日も引き続き伐採しないといけないし、出来る限りログインしないと……!

 トーマ君のことだから、明日辺りには図面作ってそうな気がするしね。


「アキ。また、明日」

「うん。またね」

「……また、明日」

「あ、はい。また、明日」


 見つめていた彼女の目から、妙な圧力を感じてすぐに言い直す。

 あ、もしかしてさっきのって、明日も会おうってことだったのかな?

 僕としては、全然大丈夫だから良いんだけど。


「アキさん、皆様戻ってきたとのご連絡がありました。私達もそろそろ向かいましょう」

「あ、はーい。それじゃ、ラミナさん達、今日はありがとね!」

「いえいえー! 美味しいお茶とお菓子食べれたし、全然気にしないでー! いってらっしゃーい!」

「アキ、いってらっしゃい」


 見送ってくれる2人に手を振りながら、アルさん達の元に向かう。

 なにか新発見とかあったかなぁ……?


「アキさん、あそこです」

「んー? あ、見えました見えました」


 拠点自体はまだ大きくなく、建物も少ないからか、少し歩くだけでもみんながすぐに見つかった。

 人は多いんだけど、それぞれのパーティーごとに固まってるからか、見つけやすいというか……。

 むしろ、アルさん達って有名らしいから、そこだけぽっかり空いちゃってて余計に分かりやすいというか……。


「お、アキさん達も来たか。お疲れ様」

「あ、ありがとうございます。アルさん達もおかえりなさい。どうでした?」

「そう、だな……。詳しい話は少し離れたところで話そうか」

「わかりました!」


 建物がなくて、広場みたいになっている場所から、建物の裏側……人の少ないエリアに向かう。

 どうやら探索側は、まだ協力よりも、パーティー同士で牽制しあってるような状態みたいだ。

 んー……大変そうだなぁ……。


「よし、この辺で良いだろう。リア、机を頼む」

「はいはーい。ほいっと」


 返事をしながら、リアさんは4人掛けくらいのテーブルを2つ取り出す。

 なるほど……テーブルを持ってくる……か。

 さすがだなぁ……僕とは用意のレベルがひとつもふたつも高い……。


「それじゃ、この地図を見てくれ。朝にも言った通り、この地図は調査が進むと空白部分が埋まる仕組みになっている。それを踏まえてこの地図を見ると……」

「なんや、これ……。数ヵ所だけ、穴が空いたみたいやないか」

「変ですね……。奥は埋まっているのに、その手前は描かれていない……」


 トーマ君やオリオンさんの言う通り、アルさんが見せてくれた地図には、数ヵ所……5ヶ所だけ、真っ白なままだった。

 というか、それ以外が埋まってるってみんな頑張り過ぎでは……。


「他のみんなも気付いたとは思うが、2人の言う通り、何ヵ所かだけ『不自然』に空いている」

「お昼過ぎにそれに気付いた私達は、奥に向かう予定を変更して、そこに向かってみることにしたの」

「そのまま残しているのは、どうにも気持ちが悪かったからな」

「私もアルの気持ちと一緒で、気持ち悪かったから。そうして向かったら……」


 アルさんとリアさんが、お互いを補足するみたいに地図を指差しながらルートを説明してくれる。

 どうやら向かった先は、地図の右下……地図上では拠点から程近い場所の空白地点。

 何が……あったんだろう……。


「あったのは、崩れた遺跡だ」

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